9割の耳鳴り患者は首がひどくこっている
キーンという金属音や、ジージーという虫の鳴き声のような音が頭の中で鳴り響く耳鳴り。
決して死に直結するものではないものの、本人にとっては非常に煩わしく、不快なものです。
脳や内耳の異常が、耳鳴りを引き起こしているという説もありますが、
医学界の一般的な見地としては、その原因は「不明」とされています。
耳鳴りを訴える人のなかには、病院で検査を受けたものの、異常が見つからなかった
ために薬すら出されず、医師から見放されたと感じるかたも多いようです。
しかし、私は今までおおぜいの耳鳴り患者を診てきた経験から、ある体の不調が、耳鳴りの多くを招いていることを確信しています。
それは、「首のコリ」です。
私のクリニックに来院される耳鳴り患者の実に9割が、首に強いコリを訴えます。
そして実際にさわってみると、首周りがカチカチにこり固まっているのがわかります。
これでは、耳鳴りのような不調が生じるのも無理はありません。
首は、脳や耳へと通じる血液の通り道です。
首周りの筋肉が硬直することによって、この血液の流れが阻害されます。
すると、脳や耳の各器官に、栄養素や酸素がじゅうぶんに行き渡らなくなるのです。
さらに血液循環の悪化は、自律神経の調整機能も低下させます。
自律神経とは、私たちの体の諸機能をつかさどっている神経のことで、
当然耳の働きにも深くかかわってきます。流れが滞るのは、血液だけではありません。
内耳を満たしているリンパ液の循環が悪化し、リンパ節が詰まりがちになります。
これらの要因が重なって、耳鳴りが発生していると考えられるのです。
首のコリを引き起こしているのは、姿勢の悪化です。
現代人はスマートフォンやパソコンを見ることが多く、いつも前かがみの姿勢になりがち。
あごが前に突き出て、首の筋肉が慢性的に硬直しています。
まず、日ごろから正しい姿勢を意識して、首に負担のかからない姿勢をとるように注意しましょう。
そのように心がけたうえで、私が患者さんにお勧めしているのが、首のコリをほぐすセルフケアです。
耳鳴りに効く「首の後ろ押し」のやり方
首の後ろには、天柱というツボがあります。
天柱は、東洋医学では、耳鳴りに効く特効ツボとされています。
場所は、後ろ髪の生え際辺り、2本の太いすじの外側のくぼみにあります。
左右に一つずつ、計2ヵ所あります。
ここを親指で重点的に刺激するといいでしょう。
両手の親指でギューッと力を込めて、5秒ほど押してください。
これを4〜5回くり返した後に、耳の後ろから、首の側面、首の後ろにかけて、手で20秒ほどよくもみます。
特に、コリのある箇所を重点的に刺激するようにしてください。
以上を1日につき2〜3セット行うようにしましょう。
(詳しいやり方は、下の図解をご覧ください)

耳鳴りが完治して仕事を再開できた!
天柱はちょうど首の後ろにあるので、こり固まった首の緊張をほぐすのに最適です。
このツボ押しは、実際に治療法としても活用しており、耳鳴りに対して高い効果を上げています。
その例をいくつかご紹介しましょう。
50代の女性Aさんは、10年以上もひどい耳鳴りに悩まされてきました。
1日じゅう、両耳にキーンという高い音が鳴り響いているといいます。
そのうえ、日常生活では高い音域の音が聴き取りにくかったため、補聴器をつけていました。
しかし、補聴器をつけても、耳鳴りはいっこうによくなりません。
投薬治療も全く効果がありませんでした。
触診すると、首や肩がひどくこっていました。
定期的に通院してもらい、首のコリをほぐす治療を行うとともに、
自宅でも天てん柱ちゆうのツボを押してから、首をよくほぐすようにしてもらいました。
すると約2ヵ月で、1日じゅう鳴っていた耳鳴りがほぼ消失するまでに、聴力が回復したのです。
次に、40代の男性Bさんのケースです。
Bさんは会社を経営しておりましたが、高音の耳鳴りに悩まされ、休業を余儀なくされていました。
うつ病と不眠症の症状もあり、複数の病院で治療を受けたものの改善が見られず、私のクリニックに来院されたのです。
診てみると、やはり首がカチカチにこり固まっていました。
首の緊張をほぐす治療を行うとともに、自宅でも首のセルフケアを行ってもらったところ、1ヵ月ほどで、耳鳴りは完治。
仕事を再開できたと大変喜んでおられました。
最後に、70代後半の男性Cさんです。
Cさんは、加齢による難聴がかなり進んでいました。
それに加えて、両耳の耳鳴りにも悩まされていました。
首のコリをほぐすセルフケア法を指導したところ、毎日自宅で熱心に行ってくれたようです。
約3ヵ月後には耳鳴りの音が小さくなり、症状がかなり改善しました。
このかたがたのように、耳鳴りは自分の力で改善することも可能です。
耳鳴りは治ると信じて、ぜひ、自宅でセルフケアを続けてみましょう。