変形性ひざ関節症も、ロコモの原因になる症状の一つ
最近、注目のロコモティブシンドローム(運動器症候群)、略してロコモは、骨、関節、筋肉などの運動器が衰えて、要介護や寝たきりになるリスクが高い状態をいいます。
ロコモの予防や改善には、ロコモーショントレーニング(ロコトレ、ロコモ体操などとも呼ぶ運動)が有効で、その中心的な運動として片足立ちとスクワットを、日本整形外科学会は勧めています。
中高年以降のひざ痛の約8割を占める変形性ひざ関節症も、ロコモの原因になる代表的な症状の一つです。
片足立ちやスクワットは、ひざの周囲の筋肉、大腿四頭筋やハムストリングスを効果的に強くすることにより、ひざの痛みも軽くしてくれます。実際、変形性ひざ関節症の患者さんや、ひざが痛いロコモの講習会の参加者に、片足立ちとスクワットをしてもらうと、ひざの痛みが改善します。やり方を簡単にご説明しましょう。
まず、片足立ちですが、その名のとおり片足を上げて1分間立つだけです。足を高く上げる必要はありません。5〜10cmくらいで十分です。転ばないように、つかまれる物の横で立つようにしてください。
1分間立ち続けるのが難しい場合は、手や足を机などについて行い、自分のできる範囲で少しずつ時間を延ばしていきます。
スクワットは、少しコツがあります。足を肩幅に開いて立ち、ひざがつま先より前に出ないように、腰を後ろに引きながら下ろして、ひざをゆっくり曲げていきます。90度くらいまでひざが曲がったら、またゆっくり立ち上がります。これを5〜6回くり返します。
どちらも、1日に3セット行います。ただし、痛みや腫れが強い場合、水がたまっている場合などは、行わないでください。転倒が心配な人は、イスやテーブルなどに手をついて行うと、体が安定します。
片足立ちとスクワットの特長は、年齢とともに衰えていく筋肉を、総合的かつ効果的に鍛えてくれることです。
片足立ちでは、腹筋や背筋、股関節周囲の大殿筋や中殿筋などの筋肉や、ひざの屈伸力に関係する大腿四頭筋やハムストリングスなどが鍛えられます。
さらにスクワットは、大殿筋や大腿四頭筋、ハムストリングスを効果的に鍛えますし、足首を反らし、つま先を上げる前脛骨筋などのひざ下の筋肉も鍛えることになります。
これらの筋肉を継続して鍛えることで、ひざ関節周辺の筋力がしっかりすれば、ひざの曲げ伸ばしが安定してスムーズにできるようになります。歩くときや、階段の上り下りでの、ひざへの衝撃も和らげることができます。その結果、軟骨の負担が軽減し、軟骨のすり減りが抑えられ、しだいに変形性ひざ関節症の痛みが取れていくのです。
また、ひざ関節の炎症の進行も治まり、関節液(ひざの水)がたまりにくくなります。特にスクワットでは、ひざの関節液の循環がよくなることや、関節液の軟骨内への吸収の促進が期待できます。その結果、ひざの軟骨の状態も改善すると考えられます。
もちろん、ロコモの予防に重要な体の動きやバランスも向上します。それにより、歩く、立つといった日常動作も安定し、速く歩けるようになったり、階段の上り下りも不安がなくなったりします。そして、転倒防止、骨折予防にも役立ちます。
片足立ちとスクワットのやり方


片足立ちで鍛えられる下半身の筋肉

痛みのスコアが2ヵ月で有意に低下
患者さんの中には、治療と並行しながら、片足立ちとスクワットの両方、またはどちらか一つを始めて、歩行や立ち上がり、階段でのひざの痛みが軽減し、慢性のひざ痛が改善したかたがおおぜいいます。
私が定期的に開催しているロコモの講習会でも、この二つの運動が基本になります。
一昨年には、講習会の参加者に実践してもらい、痛みの度合いや筋力、運動能力が2ヵ月後にどう変化したかをデータにまとめました。平均年齢は76歳で、参加者のうち115人がほぼ毎日、片足立ちとスクワットを続けました。そのうち、開始時にひざ痛の自覚があったかたは、91人でした。
ひざが痛い91人について調べると、JKOM(日本版変形性膝関節症評価表)という評価方法の中のひざの痛みのスコア(8項目)が有意に低下し、ひざ痛が軽減したことが確認されました。
また、ひざの伸展力や歩行速度、片足立ちの時間なども有意に向上し、ひざ痛の改善につながる運動能力が、有意に改善したことが確認できたのです。
ちなみに、このデータは、老年医学会と臨床整形外科学会で、ロコモのトレーニングの有用性として発表し、注目を集めました。
ひざが痛いと、歩かなくなったり、体を動かさなくなったりして、さらに筋力低下を招き、結果的に痛みが強くなるという悪循環に陥りがちです。そういった悪循環を断ち切るためにも、片足立ちやスクワットで、ひざ痛を撃退してください。

片足立ちとスクワットを勧める、石橋先生