漢方の専門医も注目!カレー粉の薬理効果
漢方の専門医である私にとって、カレー粉はたいへん興味深い存在です。カレー粉に配合されている香辛料の多くが、漢方では生薬(植物や動物、鉱物を原料とした天然薬物)として用いられているからです。
カレー粉にどんな香辛料が入っているのか、主なものと作用を順に見ていきましょう。
カレー独特の色の決め手となるターメリックは、熱帯アジア原産のショウガ科の根茎です。日本ではウコンという名前で知られており、九州や沖縄で栽培されています。たくあんの色着けにも使われてきました。中国では姜黄といい、胃の働きを活発にし、体内の血の巡りをよくする作用があり、健胃・利尿・鎮痛などに効く生薬として用いられてきました。
近年の研究で、ウコンの黄色い色素成分のクルクミンに、胆汁(肝臓で作られる消化液)の分泌を促し、肝臓の解毒機能を高める効果があることがわかり、飲酒の機会が多い人によい成分として注目されています。
ほろ苦さと強い芳香を持つクミンは、カレーの香りの重要な香辛料です。エジプト原産のセリ科植物の種で、和名や漢名は馬芹といいます。古代エジプトでは、ミイラを作るときの防腐剤として、クミンも用いられてきたといいます。漢方では、胃薬として用いられ、消化を促し、腸内にガスがたまるのを防ぐ整腸作用があるとされています。
辛みの元となる香辛料としては、チリペッパー(トウガラシ)とコショウが含まれています。トウガラシは、日本や中国でも、香辛料として古くから使われてきました。コショウは、ヨーロッパでは辛みづけと防腐効果を期待し、昔から珍重されてきた香辛料です。いずれも、健胃作用や新陳代謝促進作用が知られています。
カレー粉には、このほか、さわやかな香りが特徴のコリアンダー、スパイシーな芳香を持つフェヌグリークなどが配合されています。
コリアンダーは、別名中国パセリといい、中国では香菜、タイではパクチーと呼ばれ、東南アジアや中国では、生葉が料理の薬味として広く使われており、最近では、体内にたまった有害重金属を排せつする効果が注目されています。
フェヌグリークは、別名コロハといい、地中海地方原産のマメ科の植物で、中近東・アフリカ、インドなどで食用されています。インドや中近東では、母乳の出がよくなるとして、授乳期の女性に勧められてきました。また、民間薬として、滋養強壮・食欲増進・解熱にも使われます。
最近、フェヌグリークの種子に含まれる成分に血糖値の上昇を抑える作用があることがわかり、注目されています。
カレー粉に配合されている香辛料は、東南アジアや中近東、中南米などではスパイスとして料理に用い、中国などでは、生薬として使われてきた歴史があります。
さまざまな薬効を持つ生薬がたっぷり
余分な水分を取り去り血の巡りを改善する
一方、日本では、ワサビ・ショウガなどが薬味として使われてきたものの、香りの強いスパイスは、あまり料理には使われてきませんでした。海が近く新鮮な食材が手に入りやすいうえ、獣肉や香りの強い食べ物は、宗教的にタブーとされてきたことなど、環境や食文化の違いも関係しているのでしょう。
けれども、現代の日本の気候や生活環境を考えると、カレー粉のような香辛料を日常的に取るのは、健康な食生活のために、たいへんよいことだと思います。
カレー粉に配合されている香辛料の多くは、体を温めて発汗を促し、余分な水分を排せつして体のむくみを取ったり、体内の血の巡りをよくしたりする作用があります。例えるならば、ジメジメとしけった部屋に除湿機を入れて、カラリとさわやかにするようなものです。
高温多湿な気候の下、デスクワーク中心で体を動かす機会が少なくなっている現代の日本人は、体内に余分な水分をとどめてしまいがちです。そのため、むくみや冷え症、内臓機能の低下を招いていることが多いのです。
このような現代の日本人は、カレー粉を毎日の食事に上手に取り入れると、体内の余分な水気を追い払い、血液の流れや胃腸の働きも活発になります。トウガラシなどの辛み成分は、エネルギーの代謝(利用と排せつ)を高め、体脂肪の燃焼を促す作用があるので、ダイエットにも有効でしょう。
しかも、食用として長い経験があるものなので、おいしいと感じる程度の量を食べている限りは、副作用の心配はありません。カレー粉はいわば、健康によい薬用植物のブレンド香辛料です。「カレー納豆」のような食べ方で、毎日おいしく無理なく取るのは、とてもよい方法だと思います。
美味しくて薬効も期待できるカレー納豆

解説者のプロフィール

岡田研吉
1972年、東邦大学医学部卒業。ドイツのリューベック医科大学留学中、東洋医学を志す。帰国後、名古屋聖霊病院、藤枝市立病院に勤務するかたわら、国立東静病院で漢方医療を学ぶ。81年には、北京中医学院に1年間留学。
さまざまな薬効を持つ生薬がたっぷり詰まったカレー粉