病院に行ってすぐ手術は原則としてありえない!
かつては、痔には「診察を受けるのが恥ずかしい」とか、「病院に行くとすぐに手術される」といった、あまりかんばしくないイメージがありました。また、「痔の手術は痛い」「手術しても痔は再発する」と考えている人も多かったのです。しかし、これらは、昔ながらの古い情報に過ぎません。いまや、痔の治療は大きく変わりつつあります。
痔を診る専門病院では、患者さんが恥ずかしさを感じないような配慮がなされるようになっています。また、手術法の進展により、痔の手術は痛いものではなくなりました。そして、なにより重要なのが、治療の根幹となる病気に対する考え方が変わった点です。
旧来の治療では、痔は「切って(手術して)治す」のが主流でした。しかし今は、「できる限り切らずに治す」ことが主流です。ですから、病院に行ったらすぐ手術ということは、原則としてありえないのです。もちろん、手術の必要な痔もあります。しかし、割合からすれば、ごく少数。現在、痔は高血圧や糖尿病と同じ生活習慣病の一つと見なされるようになっています。
生活習慣病は薬を飲むだけでは根治できません。原因である生活習慣を改善することが必要で、それでようやく根本治療が可能となるのです。痔についても、まさにこのことが当てはまります。生活習慣を改善するセルフケアを行うことで、痔の症状の予防・改善が可能となるのです。
「痔」は大きく3タイプ
そもそも痔は、肛門周辺の炎症がきっかけで起こります。便は、強いアルカリ性で、肛門の皮膚に炎症を引き起こす攻撃因子です。通常は、肛門は局所免疫(体の特定部分で働く病気への防御反応)が働いているため、炎症を起こしません。
ところが、さまざまな原因から、全身の免疫力が低下すると、肛門の局所免疫が働かなくなり、肛門に炎症が起こり、それが痔へとつながるのです。
痔というのは、肛門に起こる病気の総称で、大きく三つに分類できます。
①痔核(イボ痔)

②裂肛(切れ痔)

③痔ろう

痔核は、肛門周辺のクッション組織の結合が悪くなったり、血管がふくれて腫れ上がったりしてイボとなったもの。いわゆるイボ痔です。直腸と皮膚のつなぎ目(歯状線)の内側にできたものを内痔核、外側にできたものを外痔核といいます。
裂肛は、かたい便によって肛門上皮が裂けて、激しく痛んだり、出血したりするもの。切れ痔とも呼ばれます。
痔ろうは、肛門のくぼみ(肛門腺窩)に便がたまって感染を起こし、その感染が進行し、ろう管という通路を作り、そこから膿が出る病気です。
肛門の炎症がきっかけとなって、これら3タイプの痔が生じます。ですから、まず、炎症を引き起こす原因を改善することが肝心です。
肛門の炎症を引き起こす6つの要因
日常生活のなかで炎症の原因となる要因は主に六つあります。次のような要因を、日常生活のなかで、できるだけ少なくするように努めてください。
❶便通の異常(便秘や下痢)
特に便秘は、痔を引き起こす最大の要因です。便がかたくなると肛門が傷つくのです。その傷から便の中の細菌が感染し、炎症を起こします。便秘の人は、なによりも先に便通を改善させるセルフケアが大事です。
❷ストレス
現代人は、仕事や人間関係などで大きなストレスを感じています。ストレスによって免疫力が低下し、細菌に対する抵抗力が落ちると、肛門に炎症を起こしてしまいます。ストレスをできるだけため込まないようにすることで、痔の状態を改善させることが可能です。
❸座り仕事
パソコン作業や車の運転などで、ずっと座っていると、肛門周囲の血管が圧迫されて、うっ血を起こします。それが炎症の原因となり、痔を招きます。
私は、一日中パソコンの前に座っているような人には、1時間おきに立ち上がり、部屋のなかを10mほど歩くことをお勧めしています。
❹肉体疲労
肉体労働や運動をし過ぎると、筋肉に疲労物質が蓄積し、痔を誘発することがあります。また、疲れがひどいと局所免疫も低下して、肛門に炎症を起こしやすくなります。特に痔の人は、無理をしないように注意しましょう。
❺冷え
体が冷えると、肛門周囲の血管が収縮して血流が悪くなり、炎症が起こりやすくなります。入浴や座浴をしたり、使い捨てカイロなど使ったりして、お尻を温めましょう。ただし、痔ろうを温めるのはよくありません。化膿が進行するからです。肛門内に戻らなくなった内痔核も温めてはいけません。
❻過度の飲酒
アルコールは、血管を拡張して炎症を引き起こします。飲み過ぎないようにしましょう。1日の目安量として、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス1杯です。
こうした生活改善のセルフケアを進めると、痔の予防になることはもちろん、いったん生じた痔を改善するのにも大きな効果を発揮します。
痔核の約9割は手術なしで治すことができる!
三つの痔のうちで最も患者数の多いのが痔核です。痔核のうち、約9割の人は、きちんとセルフケアを行うことで手術なしで治すことが可能です。
私のクリニックの痔の患者さんには、まず前述した生活改善のセルフケアを行ってもらいます。少なくとも3ヵ月間続けると、状態は大きく改善します。以前、私のクリニックを受診した患者さん128名の経過観察を行って、データを取ったことがあります。治療前、強い痛みを訴えた人が128人中39例(30%)、中等度の痛みを訴えた人が42例(34%)、軽度の痛みを訴えた人が40例(31%)いました。セルフケアを続けたところ、1年後には、強い痛み、中等度の痛みを訴える人はいなくなり、96%の人が全く痛みなしとなったのです。
排便時の痔核の脱出、はれや出血についても、セルフケアによって大きく改善するというデータが出ています。
このようにセルフケアを毎日行えば、着実に効果をもたらします。
排便時の出血が月4回あれば受診を勧める
ただし、少なくとも一度は、専門病院を受診し、痔の状態を確認してください。もしかしたら、痔による出血ではなく大腸ガンによるものかもしれません。特に40代を過ぎると、大腸ガンのリスクが高くなりますから、中高年者は受診し、大腸ガンでないかどうかを確認することをお勧めします。
なお、痔ろうは、治すために手術が必要です。この場合もまず、今の症状がほんとうに痔ろうなのかどうかを、きちんと確認する必要があります。誤診のリスクもあるからです。そのためにも、痔の専門病院できちんとした検査を受ける必要があります。
激しい痛みがあったり、飛び出した痔核が指で押しても肛門内に戻らなくなったりしたら、多くの人は迷わず病院に行くと思います。問題なのは、それほどひどくないケースです。
目安としては、月に4回以上、排便時に出血があるようでしたら、診察を受けることをお勧めします。また、膿が出て下着を汚すようになったら、痔ろうの疑いがあります。すぐ病院に行ってください。
いずれにしても、痔は、早期発見・早期治療が肝心。一人で悩んでいないで、早めに診てもらい、早めにセルフケアを始めることが、早く楽に痔を治すコツとお考えください。
解説者のプロフィール

平田雅彦
1981年、筑波大学医学部専門学群卒業。1985年、社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門科の臨床経験を積む。現在は、平田肛門科医院の3代目院長。著書に『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)など多数。