解説者のプロフィール
口周りの血流が改善し術後の腫れや痛みが軽減
手の甲にある「合谷」は、歯の痛みによく効くツボとしても有名です。
私たちの医院では、この合谷を刺激しながら、歯の治療を行っています。それによって治療中の痛みが減り、麻酔の量を減らせるのです。
この治療を始めたのは、私の父・福岡 明(医療法人社団明徳会福岡歯科会長)でした。
今から40年以上前、当院に激しい歯の痛みを訴える患者さんが駆け込んできました。当時、院長だった父は、できる限りの治療を試みましたが、痛みは取れません。しかし、その痛みを、隣で開業していた鍼灸師が、鍼1本で取ったのです。
鍼の効果を目の当たりにした父は、当時話題になっていた鍼麻酔を習得。効果を検証し、歯科治療に導入しました。
しかし、鍼麻酔は、効く人と効かない人がいます。また、手に鍼を刺したままでは治療しにくく、鍼を怖がる人もいます。
そこで父は、鍼ではなく電極をツボに当てて通電する経皮的低周波ツボ通電法(TEAS)を開発しました。万人に効果があるうえ、鍼を気にすることなく歯科治療が行えるようになったのです。
合谷への刺激は、歯科治療においても、多くのエビデンス(科学的根拠)が報告されています。合谷を刺激すると、鎮痛効果だけでなく、首から上の症状が緩和され、口周りの血流が改善することもわかっています。歯科にはうってつけのツボなのです。
合谷は歯科治療に不可欠なツボ
私たちは、診察台に座った患者さんの手に、まずTEASを着けて合谷を刺激します。
歯科治療は、歯を削ったり抜いたり、歯茎を切ったりする外科的処置が多いので、患者さんの多くが不安や恐怖心を持って訪れています。しかし、合谷を刺激することで、緊張や不安感は和らぎます。そのリラックスした状態で、治療を受けていただくのです。
麻酔を使う治療でも、麻酔注射の痛みを緩和できます。また、麻酔薬の使用量を、通常の半分程度に減らせるのも、大きな利点です。通常使用される麻酔薬には、血管を収縮させる作用があります。それにより、術後の出血を抑えたり、薬の効果を持続させたりできます。一方で、血流が少なくなるため、術後の状態は、あまりよくありません。また、心疾患のかたは血圧が上がることがあるため、使えない場合もあります。
しかし、TEASを併用して麻酔の量が減ると、口周辺の血流がよくなり、術後の腫れ、痛み、開口障害などが軽減し、結果的に回復も早くなるのです。
また、歯石除去でも、痛みや不快感が緩和されます。さらに、血流が改善することで、歯周病の治癒も早まります。
こうした効果は、TEASを始めた当初に臨床データを取っており、有効性が証明されています。今では、患者さんも診察台に座ると、黙って手の甲を差し出すのがあたりまえになっています。それほど、私たちの歯科治療に、合谷への刺激は欠かせません。

合谷に通電して治療を行う
歯の痛みが和らぐ!福岡歯科式・合谷の押し方

痛み止めの薬を飲まずに済む人が圧倒的に多い!
歯が痛くて来院された患者さんに、診療台が空くまで待ってもらうときは、合谷の押し方を教えて、待ち時間にご自分で押してもらうこともあります。
合谷は、親指と人差し指の間を手首に向かってたどり、指の骨の分かれ目にあります(上図参照)。そこを、反対側の手の親指の腹で、痛気持ちよい強さでグーッと押します。両手を押してみて、痛みが強いほうを押すといいでしょう。歯の痛みが和らぐまで、数分押し続けます。
また、抜歯をすると、自宅に帰ってから痛みが出ることがあります。その場合、痛み止めの薬(消炎鎮痛剤)も出しますが、やはりご自身で合谷を指圧してもらったり、合谷に円皮鍼(パッチ鍼)を貼って帰ってもらったりしています。データを取ると、合谷を押すことで痛み止めを飲まずに済んだという人が、圧倒的に多いという結果が出ました。
薬を飲みたくないという患者さんの声は多く、私も痛み止めは、なるべく飲むべきではないと考えています。術後の炎症は、治癒の過程で起こる生理的な現象です。しかし、痛み止めは、その炎症を薬の力で抑え込むことになります。
高齢の患者さんは、病気を患っているかたも多く、いくつもの薬を飲んでいる場合があります。そんなかたに、薬や麻酔を積極的には勧められません。しかし、合谷への刺激を併用すれば、なるべく薬に頼らない治療が可能になります。
皆さんも、ぜひ合谷を活用してください。
福岡博史
医療法人社団明徳会福岡歯科理事長・医学博士
「歯科治療に不可欠なツボです」と福岡先生