
筋肉が硬くなると関節の変形が進む
「筋・筋膜症候群」という病気をご存じですか。
これはケガや疲労などが原因で筋肉が硬くなって縮み、痛む、筋肉の病気です。硬く縮んだ筋肉内にたまったセロトニンなどが発痛物質となり、痛みを引き起こします。
日本では、筋肉の病気は、まだほとんど知られていません。ところが、この病気と股関節痛には深い関係があります。
股関節痛は、変形した骨がこすれて生じる、多くの人がそう思うようです。ところが、股関節の変形と痛みの程度には、関連はほとんどありません。股関節が変形していてもあまり痛みを感じない人もいれば、変形がそれほど進んでいないのに、激痛に悩む人もいるのです。
30年以上にわたって、理学療法士として、変形性股関節症に携わってきた私の経験から、股関節痛の原因のほとんどは、股関節を取り巻く筋肉の異常にあると考えます。
この筋肉の異常が筋・筋膜症候群です。
変形性股関節症と筋・筋膜症候群
1985年にアメリカ・マイアミ医科大学が行った調査で、関節などに痛みを感じて、疼痛センターを受診した患者284名のうち、85%の患者の痛みの原因が、筋・筋膜症候群だったことが明らかになりました。
変形性股関節症と筋・筋膜症候群との関係は、次のように考えられます。
股関節は、大腿骨の頂点部分(大腿骨頭)が、骨盤下方の丸いくぼみ(寛骨臼)にはまり込む構造になっています。変形性股関節症では、生まれつき、寛骨臼などの骨の形が正常でない場合がほとんど。
そのために周囲の筋肉が長期間にわたる疲労やケガなどの影響を受け、筋・筋膜症候群を発症しやすくなっているのです。
また、筋・筋膜症候群によって硬く縮んだ筋肉は、関節の軟骨を圧迫します。押しつぶされた軟骨には栄養が十分に行き渡らず、徐々にやせていくのです。軟骨は体重をかけることによってすり減るのではないのです!
さらに、筋肉が硬くなって機能が落ちると、歩行などの衝撃が関節に直接伝わります。
これらが、股関節の変形をさらに進めると考えられます。
ももやお尻の筋肉をほぐせば痛みが改善
筋・筋膜症候群は、股関節痛のほか、肩こり、腰痛、ひざ痛なども引き起こすと考えられます。例えば、肩こりがひどくなると痛みを伴う場合がありますが、これも筋・筋膜症候群の可能性が高いといえるでしょう。
股関節痛の正体は「ももこり」や「尻こり」ですが、いかにも股関節そのものが痛むように感じてしまいます。肩こりがあると肩の筋肉をほぐすのと一緒で、ももこりや尻こりも、ももやお尻の筋肉をほぐせばよいのです。硬く縮んだ筋肉をもみほぐせば、筋・筋膜症候群が改善し、痛みは和らぎます。
そこで、私が勧めている、効果的、かつ安心して行えるストレッチ法である「股関節ほぐし」を自分で行って、股関節周辺の筋肉を十分にもみほぐしてみてください(詳しいやり方は下記参照)。
股関節ほぐしで痛みが消えたら、痛くてかばっていたほうの足に体重をかけ、脳と筋肉に正常な筋肉の使い方を思い出させます。かばっていたほうの足に体重をかけることこそが、今、皆さんに必要な筋力トレーニングなのです!
拙著『股関節痛は怖くない!』(ワニブックス)でも症例を紹介していますが、股関節ほぐしを行った結果、悩んでいた股関節痛が消失したり、軽減したりした患者さんは数多くいます。
人工股関節の人も、術後2〜3ヵ月経過していれば行って構いません。皆さんも、ぜひ始めてみてください。
股関節ほぐしのやり方
股関節ほぐしは、股関節痛の原因となる筋・筋膜症候群の改善に役立つストレッチ法です。
もむときは、痛みを感じる程度の力で行いましょう。
内ももは必ずほぐし、残りの4ヵ所も痛みがあればほぐしてください。
もむ時間は1ヵ所につき1分程度を目安に、慣れてきたら5分程度ほぐしても構いません。
手の代わりに、すりこぎや麺棒などの道具も使えます。

(1)内もも

(2)腰骨の下

(3)お尻(横)

(4)お尻(下)

(5)太もも
