体の前面の筋肉を ゆるめるだけでいい
腰痛、ひざ痛、肩こり……これらは、日本人の多くが抱える症状です。
その最も大きな原因として考えられるのは、ズバリ「姿勢の悪さ」ではないでしょうか。こうした痛みやこりを引き起こす姿勢の悪さとは、両肩が内側に入り込み、上半身が前方に倒れる、いわゆる「ネコ背」の姿勢なのです。
ネコ背になると、背骨のS字カーブがくずれ、関節や筋肉に負担がかかり、血液循環も悪くなります。そのために、体のあちらこちらに不調や痛みが生じるのです。
では、なぜネコ背になるのでしょうか。
それは、体の前面と背中の筋肉(背筋)がアンバランスになっているからです。
上半身を前に倒すときは、体の前面の筋肉を使い、後ろに反るときは背筋を使います。日本人は、伝統的な生活様式から、上半身を曲げる動作が多く、背面に比べて体の前面の筋肉が発達しています。
そのため、どうしても前かがみの姿勢になりやすい、という特性を持っているのです。
前かがみになりがちな体をまっすぐにするためには、背筋を鍛えることが必要です。しかし、筋トレの背筋運動はかなりきついもの。特に、女性や高齢者に継続してやってもらうには無理があります。
そこで、私は逆に、「背筋を鍛えるのではなく、体の前面の筋肉をゆるめればバランスが取れるのでは?」と考えました。
そして考案したのが、「寝てるだけストレッチ」です(詳しいやり方は下記を参照)。枕さえあれば、自宅で簡単にできます。寝ているだけなので、老若男女を問わず行えるストレッチです。
やったその場で 痛みやこりが軽快!
人が前かがみになるときに、主に使う筋肉は、体の前面にある大胸筋と腹筋です。寝てるだけストレッチでは、この大胸筋と腹筋をゆるめることを大きな目的としています。
ポイントは、背中の下に枕を置くことです。二つの枕をTの字形に並べ、その上にあおむけに寝ますが、このとき、腰の部分にこぶし一つ分のすき間ができるように、枕の位置を調節しましょう。こうすることで、ネコ背の姿勢のときに後ろに傾いていた骨盤が、正しい角度に戻り、背骨が自然なS字カーブを描くようになります。腹部が自然に反るので、腹筋がストレッチされます。
枕の高さは4〜5㎝ぐらいが適当です。低反発など、柔らかすぎる素材の枕は体が沈んでしまうので、パイプやそばがらなど硬めの枕を使ってください。
体に対して腕を90度横に広げることで、大胸筋がストレッチされます。肩が内側に入らないように、手のひらは上に向けましょう。普段、パソコン作業などで手のひらを下に向けていることが多い人は、手のひらを上に向けることで腕の疲れも解消できます。痛みやしびれを感じる人は、腕の角度を浅めにしてください。
この状態で、ゆっくり腹式呼吸を行います。鼻から吸って、その息をおなかにため、吸ったときの約2倍の時間をかけて口からゆっくり吐き出します。最初は吸う息3秒、吐く息6秒ぐらいから始め、慣れてきたら秒数を徐々に長くしていくとよいでしょう。
腹式呼吸によって、大胸筋と腹筋のストレッチ効果がより大きくなります。これを3分間、1日1回やるだけでOKです。

2つの枕をTの字形に並べてその上に寝るだけ!
私は、多くの患者さんに寝てるだけストレッチを勧めていますが、腰痛、ひざ痛、肩こり、五十肩、股関節痛などがよくなった人が続出しています。やったその場で、痛みやこりがらくになっていると実感でき、毎日続けていると、症状がどんどんよくなっていくのです。
また、腹式呼吸によって腸が刺激されるためでしょう、「お通じがよくなった」という喜びの声が数多く寄せられています。
さらに、大胸筋がストレッチされて胸郭が広がると、呼吸がしやすくなるため、酸素がたっぷり取り込まれて細胞が活性化するからでしょう、皆さんの肌ツヤがよくなっています。
特筆すべきなのは、ウエストが細くなってくびれが現れることです。背すじが伸びれば、おなか辺りにたまっていたぜい肉がスッキリします。そのため、寝てるだけストレッチをやったその場で、ウエストが2〜3㎝細くなることも珍しくありません。
Nさん(34歳・女性)は、寝てるだけストレッチを1回やっただけで、ウエストがなんと9㎝も減りました。その後、自宅でも実践して、1週間後に当院で2回目にストレッチをしたときには、さらに2㎝減。合計で11㎝も細くなったのです。
寝てるだけストレッチは、体が柔軟になっているお風呂上がりに行うのがお勧めです。ただし、無理はしないようにしましょう。
なお、ストレッチが終わった後で、すぐに就寝する場合は、背中の下に当てた枕を外すことを忘れないでください。

体に対して腕を90度横に広げる
「寝てるだけストレッチ」のやり方
背骨のカーブと骨盤の傾きを正し、理想の姿勢に導く「寝てるだけストレッチ」は、1日1回やれば十分です。その場で大胸筋と腹筋の緊張がほぐれるのが実感できるでしょう。日常生活を送るうちに、どうしても姿勢は前かがみになりがち。できるだけ毎日行うことをお勧めします。


「ネコ背が痛みの原因」と関口先生