腰部脊柱管狭窄症は3タイプに分類される
腰部脊柱管狭窄症は、なんらかの原因により、腰椎の中の神経が通る空間(脊柱管)が狭くなり、そこを通る神経や血管が圧迫されることで、さまざまな症状を引き起こす病気です。
先天的に脊柱管が狭いためになる人もいますが、多くは中高年以降に症状が現れます。加齢に伴い、脊柱の変形が生じやすくなるため、高齢になるほど多くなる病気なのです。
腰や足の痛みのほか、多彩な症状が現れます。特に、「少し歩くと腰から足に強いしびれや痛みが出て歩けなくなるが、しばらく休むと痛みが治まる」という症状(間欠跛行)が見られるのが特徴です。
腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管を通る神経のうちのどの神経が圧迫されているかによって、3タイプに分類されます。タイプによって現れる症状や治療方針も異なるため、しっかり区別することが大事です。タイプ別に説明します。

①神経根型
背骨から出る神経の根元(神経根)が圧迫されて起こるタイプ。左右どちらかの片側だけ圧迫されることが多く、圧迫された側に痛みやしびれ、間欠跛行が現れます。
②馬尾型
馬尾とは、脊柱管を通る末梢神経の束のこと。馬尾が障害されると、体の広い範囲に多様な症状が現れます。左右両側の腰やお尻、足にかけての広い範囲にしびれやマヒが生じるほか、間欠跛行ばかりでなく、灼熱感(熱く感じること)や脱力感が起こることもあります。馬尾は膀胱や直腸の働きにも関係し、排尿や排便の障害、会陰部のほてり、異常な勃起などが起こることもあります。
③混合型
神経根型と馬尾型が合わさったタイプで、両方の症状が現れます。
神経根型は、比較的、治りやすく、馬尾型や混合型は、悪くなると、根治が難しいのです。早期発見と正しい診断に基づく治療が重要になりますが、腰部脊柱管狭窄症には、まだ明確な診断基準がなく、見過ごされてしまうこともあるのです。
脊柱管狭窄症のサポートツール
一般には、問診で患者さんの訴えを聞いた上で、X線やMRI(磁気共鳴画像診断)などの検査を行って診断します。画像所見だけでは診断が難しく、脊椎の専門医でも、腰部脊柱管狭窄症の分類を正確にできるとは限りません。多彩な症状が現れるため、他の病気と間違われることも少なくありません。
そこで、私たち東北腰部脊柱管狭窄研究会(医師による研究グループ)では、患者さんの自覚症状から自己チェックできる問診票を開発しました(下の「自記式診断サポートツール」)。
最初の四つのすべてに「はい」であれば、腰部脊柱管狭窄症。一つも当てはまらなければ、腰部脊柱管狭窄症ではないと考えられます。一つ以上当てはまる場合は、続く質問項目の答えで判断していきます。
このツールだけでもかなり高い精度で診断ができ、海外でも利用されています。チェックをして腰部脊柱管狭窄症の疑いがある人は、必ず専門医を受診してください。神経根型の場合、薬物療法やコルセット装着などの保存療法を3ヵ月ほど継続すれば、ほとんどの患者さんで症状の改善が期待できます。

症状改善のお勧めは、自転車こぎ
薬物療法では、非ステロイド系の鎮痛薬や、下肢(足)の血流を改善して、しびれを和らげる薬(プロスタグランジン製剤)がよく用いられます。抗うつ薬や抗てんかん薬を用いることもあります。これらが神経に働きかけて痛みを和らげます。
馬尾型や混合型で、神経がかなり障害されている場合、保存療法ではなかなか症状を改善できず、手術が検討されます。手術は、神経を圧迫している椎弓を切除し、圧迫を取り除く「除圧術」という手術が一般的です。椎骨のずれ(脊椎すべり症)がある場合には、さらにずれないように固定する手術を行うこともあります。
多くの場合、手術によって症状が改善し、生活の質も向上します。ただ、傷ついた神経は元に戻らないため、しびれの症状などは残ることがあります。
いずれのタイプでも、運動することが大事です。痛いからといって体を動かさずにいると、骨や筋肉がどんどん衰え、寝たきりになってしまいます。なるべく体を動かしてください。
お勧めは、自転車こぎです。自転車をこぐ姿勢は自然と前かがみになるため、脊柱管が広がり、神経の圧迫が軽減されます。腰に負担をかけずに運動できるわけです。安全性を配慮すれば、屋内でエアロバイクを使い、1日に10〜30分の自転車こぎを行うのがいいでしょう。なかには、自転車こぎを毎日行ったら、脊柱管狭窄症が治ってしまったという人もいました。

「おすすめは自転車こぎ」と紺野先生