
適度に動かして関節液を行き渡らせることが必要
現在、ひざ痛に悩まされている中高年は大勢います。その多くは、変形性膝関節症。ひざ関節の軟骨がすり減って変性し、炎症を起こすために、痛みや腫れが生じる病気です。
痛みがあると、つい動かすことを避けてしまいがちです。けれども、関節は動かさないと、こわばってさらに動かなくなってしまいます。
これは、関節の潤滑油である関節液が、関節内に行き渡らなくなるためです。
関節液は、軟骨の栄養剤でもあります。関節液が行き渡らないと、酸素と栄養が不足するため、軟骨の再生力が低下します。
すると、歩行などで負担がかかるたびに軟骨はすり減る一方となり、ひざ痛がさらに悪化してしまいます。
つまり、変形性膝関節症によるひざ痛を改善するには、適度に動かして、関節液を行き渡らせることが必要なのです。
だからといって、やみくもに動かせばいいというものではありません。多くの病院では、変形性膝関節症の患者さんに強い筋力トレーニングが指導されていますが、私はこのやり方に疑問を持っています。
なぜなら、強い筋力トレーニングは軟骨に負担がかかります。負担がかかるということは、軟骨をさらに摩耗させる恐れがあるということです。
再生力が低下しているのに、軟骨をこれ以上摩耗させるような運動をするのは、かえって逆効果だと思います。無理なウオーキングなども、控えたほうがよいでしょう。
実際、運動療法を行った人のうち、何%かは症状が悪化したという報告もあります。
また、このような筋力トレーニングは、ひざを支える筋肉を鍛えて、関節を動きやすくすることを目的としています。
しかし、そもそも変形性膝関節症の人は、痛くて動かせないために筋肉が衰えているのです。まずは痛みを取って、動かせる状態にすることが、筋力アップの近道なのではないでしょうか。

ひざ振り子を勧める山野先生
実践した人の8割の患者さんの痛みが軽快した!
そこで、私は軟骨に負担をかけずに、潤滑油であり栄養剤である関節液を、ひざ関節に行き渡らせる方法を考案しました。それが「ひざ振り子」です。
ひざ振り子は、高めのイスに座り、ひざ下をブラブラと動かすだけの運動です。一番のポイントは、できるだけ力を抜くこと。そうすることで、足の重みによって、太ももの骨とすねの骨の間が広がり、押しつぶされていた軟骨への負荷が軽減されるのです。
その状態で足をブラブラ動かすと、関節のすき間に関節液が入り込みます。すると、関節が滑らかに動くようになる上、栄養が行き渡って、軟骨の再生を促す効果も期待できるのです。
ひざに水がたまっている人は、ひざ振り子をやりながら、20回に1回程度、足をまっすぐ前に伸ばす「ひざ伸ばし」を加えると、さらに効果的です。ポンプ作用によって、ひざにたまった水が排出されやすくなります。
私はこれまで800人以上の患者さんに、ひざ振り子を指導してきました。その結果、多くの人がひざ痛から解放されています。3ヵ月以上、毎日規則的にひざ振り子を行った94人の経過を観察した試験では、ひざの痛みが軽快した人が8割近く(73人)に上りました。
写真は、ひざの痛みを訴えて来院したMさん(70代・女性)のレントゲンです。
2007年12月の初診時に比べると、2011年5月のレントゲンでは骨と骨の間が広くなっていることがわかります。この骨と骨の間にあるのが軟骨です。すき間が大きくなったということは、すり減っていた軟骨が再生したということです。
このほか、骨の一部が棘状に変形する「骨棘」が改善した人もおられました。
特筆すべきは、悪化した例がまったくないという点です。症状の進行を抑える意味でも、ひざ振り子をやってみる価値は大いにあるといえるでしょう。
ひざ振り子は、1日3回、食事の前か後に行うのがお勧めです。食事で体に栄養補給するのと同様に、軟骨に栄養を与えることを意識して、毎日コンスタントに行うことが重要です。「食事のたびにひざ振り子をやる」と決めておけば、忘れることもないでしょう。
もちろん、空いた時間やテレビを見ながらなど、1日3回以上行っても構いません。
電車などでしばらく座っているときは、降りる10分ぐらい前に両手で太ももを持ち上げ、ひざ振り子をやっておくと、歩きだしやすくなります。
高齢者でも簡単にできるひざ振り子は、こわばった関節を柔らかくして、軟骨の新陳代謝を促し、ひざを若々しく保つのに有効です。

ひざ振り子のやり方

高いイスがない場合

ひざに水がたまっている人は
