解説者のプロフィール
骨盤の後傾が体の不調を呼ぶ
私は、患者さんの健康促進のために、以前から積極的に「腰割り」をお勧めしてきました。
腰割りに着目したきっかけは、ひとえに「骨盤の後傾」という点にあります。結論から言えば、現代人は骨盤が正常な状態から後ろに傾いている人が多く、それが全身のさまざまな痛みや障害の要因にもなっていることに気付いたのです。
そもそもは、私自身の経験が始まりでした。あるとき、初めて一輪車に乗ってみたところ、なかなかうまく乗れません。
運動神経に多少自信がある私は、こんなはずではと、何度も挑戦していたところ、そのうち、あることに気付きました。
骨盤が後ろに傾いていたり、股関節を使わずに太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)に力を入れたりしていると、体のバランスがうまく取れないのです。
そこで骨盤を立て、股関節の動きでバランスを取るように意識したところ、意外に簡単に乗れるようになったのです。
「なるほど」と思いました。以来、いろいろな角度から研究し続けた結果、骨盤の後傾がいかに全身の働きと深い関係にあるかがわかってきたのです。
まず、骨盤が後傾していると、股関節を継続的に圧迫し、その動きを抑えてしまいます。
股関節が働かなくなれば、本来、股関節がすべき、さまざまな動きをほかの関節や筋肉が代行するようになります。
これを代償作用と言いますが、これは正常な働きではなく、いわば応急処置。この不自然な状態が重なれば、やがて無理をしている部位が悲鳴を上げてくるのは当然のことです。
股関節痛のみならず、ひざ痛や腰痛、肩こりなども、骨盤の後傾からきている場合が少なくありません。
骨盤が後傾していると、内臓機能への悪影響も懸念されます。骨盤の後傾により、腹部に収まっている内臓が圧迫されるためです。よく見られるのが、便秘や胃下垂など。また、女性は骨盤と一緒に子宮も後傾するため、月経異常など婦人科系疾患が生じやすくなります。
また、骨盤の後傾によって、背骨のわきを通っている自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)が圧迫され、その働きも悪くなります。

垂れたヒップを上げる効果もあり!
次に気が付いたのは、骨盤が後傾している人が、予想以上に多いことです。
私の治療院に来られる患者さんの多く、というより、ほぼ全員、骨盤が後傾していると言っても過言ではありません。
患者さんによって、多少の差はありますが、その骨盤を正しい位置に矯正していくことで、それぞれの障害も明らかに改善されていきます。
そこで、思い当たったのが腰割りです。相撲の伝統的な鍛錬法である腰割りは、骨盤の位置を正しくし、股関節を柔らかくするにはうってつけの運動です。
もともと一般の人がやっても、それほど難しいものではありませんが、さらに体力のない人でも、家で簡単にできるように私独自の工夫を加えました。
来院される患者さんや各地でのセミナー参加者など、すでに多くの人々が腰割りを実践されていますが、確実な成果を上げています。
もっぱら前記したような健康障害の改善が中心ですが、もう一つ、ダイエット効果というのも見逃せません。
姿勢の悪い人の骨盤

痛みなど故障の改善のために腰割りをしたところ、自然に体重も減って、体が締まってきたという人が少なくないのです。実は、私にもまったく同じ経験があります。
患者さんに勧める前から、私も腰割りを実践していますが、そのときに最も効果を感じたのは代謝がよくなったことと、いつの間にか体重が減ってきたことでした。それも、やせたというより、おなか周りを中心に、体が引き締まった感じでした。
やせたと喜んでいる患者さんたちも、やはり同じようなことを言います。
理由はいくつか考えられますが、第一にそれまで骨盤後傾の影響で休みがちだった股関節周辺の筋肉が、腰割りで使われるようになってきたことです。
股関節周辺の筋肉には、大腰筋や大殿筋など、大きな筋肉がたくさんありますから、これらが働き出せばエネルギー消費は、ずいぶん促進されます。
大腰筋などが働かないためにたまりがちだった下腹の脂肪も、どんどん取れていき、おなか周りがスッキリしてきます。いわゆる、ポッコリ下腹の解消が進むのです。また、後傾していた骨盤が立ってくることで、垂れていたヒップも上がってきます。
体重を減らすと同時に、くずれた体形をも修正していく、まさに理想的なダイエット法と言える腰割りを、ぜひお試しください。
腰割りのやり方
私がお勧めしている腰割りは、イスに座って行う方法と、立って行う方法の2つがあります。体力に自信のない人、普段、運動をあまりしていない人は、イスに座った腰割りでも十分効果が望めます。まずは、イスに座った腰割りから始めてみましょう。
どちらの場合も大切なのは「骨盤を立てて行うこと」です。骨盤が立っている状態というのがわかりづらい場合は、まっすぐ立って、軽く前傾姿勢になってください。すると、太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)がゆるむのを感じると思います。それが「骨盤が立っている状態」です。
もう1つのポイントは、開いた足のひざ頭を、足の中指と一直線になるように合わせて行うことです。多くの人は足の親指側にひざ頭を向けがちですが、この形だと鍛えたい太ももの裏側の筋肉(大腿二頭筋)や、股関節にうまく力が伝わりません。中指にひざ頭を向けるコツは、両足裏の土踏まずをつけないように行うことです。こうすることによって、ひざ頭は自然に中指に向いていきます。
足は、無理して大きく開く必要はありません。股関節の可動域は人によって異なりますから、らくに開ける程度でけっこうです。
イスを使った腰割り


イスを使わない腰割り

中村考宏
柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ師。スポーツ・股割り研究所所長。株式会社MATAWARIJAPAN代表。骨盤のポジションと股関節運動
の関係に着目し、「骨盤起こしトレーニング」を考案。講習会を全国で開催している。著書に、『「骨盤おこし」で身体が目覚める』(春秋社)などがある。近著『人は「骨盤」から健康になる』(マキノ出版)が好評発売中。