解説者のプロフィール
副交感神経が優位になり血流がよくなる
私の治療院では、肩こりや腰痛、不眠など、体の不調の改善を目的に、仙骨の矯正をしています。
仙骨は骨盤の中央にあり、背骨のいちばん下とつながっている二等辺三角形の形をした骨です。一つの大きな骨に見えますが、実は五つの骨で構成されており、それぞれが微妙に動くことで体のバランスを保っています。
仙骨には八つの穴があり、そこから内臓へつながる骨盤内臓神経や、下肢(足)へつながる座骨神経などが出ています。体の使い方のくせやストレスなどによって仙骨にゆがみが生じると、これらの神経にもなんらかの影響が及ぶと思われます。不調の多くが仙骨のゆがみを矯正することで改善するのは、このためです。
「仙」という文字には、不老不死という意味があります。また、仙骨の英語名sacrumは「神聖な骨」を意味します。私たちの祖先は、仙骨が体の中で担う重要な役割に気付いていたのかもしれません。
私は体が冷えている患者さんには、仙骨の矯正に加えて仙骨を温めることを勧めています。
仙骨を温めれば、その内部を通る骨盤内臓神経などの働きがよくなります。骨盤内臓神経は、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの副交感神経(心身をリラックスさせる神経)です。副交感神経が優位になれば、血管が拡張し、血液が流れやすくなります。
また、温めることで仙骨周辺の血流もよくなります。そのため、内臓はもちろん、全身がよく温まるのです。
人間の体は、36・5〜37℃の体温で最もよく働くようにできています。しかし、現代人の多くは運動不足やストレス、過食などの、体温の低下を招く生活を送っています。運動不足になれば、体内で熱を作り出す筋肉の量が減ります。ストレスは自律神経のバランスを乱しますし、過食も血液の流れを悪くするため、低体温を招きます。
最近は、若い人でも35〜36℃程度の体温しかない人が少なくありません。特に、一日中パソコンに向かって仕事をしている女性に、低体温が多いように感じます。
体温が低下すると、免疫力(病気に対する抵抗力)が下がるため、病気にかかりやすくなります。また、基礎代謝(安静時に消費するエネルギー)が低下するため、太りやすく、やせにくい体質になります。下半身のむくみや、便秘、肩こり、腰痛、全身倦怠感なども、低体温の人によく見られる症状です。仙骨を温めれば、こうした症状の多くは改善します。
お尻の割れ目の上を10〜15分温める
なかでも腰痛は、すぐに痛みが和らぎます。副交感神経が優位になり、血流がよくなるため、肩こりや便秘、自律神経失調症、不眠、更年期障害なども改善します。また、仙骨は子宮に近い位置にあるため、生理痛などの婦人科系の疾患にもお勧めです。
仙骨を温めるさいには、まず、42〜45℃程度のお湯を入れた氷のうや小さな湯たんぽを用意します。氷のうなどがない場合は、ビニール袋を3枚重ねて利用するとよいでしょう。
これを、うつぶせに寝た姿勢で、お尻の割れ目の上に、10〜15分ほど載せて温めます。熱過ぎると感じた場合は、タオルなどを当てて調節してください。1日1回、5日〜1週間ほど続ければ、なんらかの体調の変化を実感できるでしょう。
仙骨を温めていると、全身にじわじわと熱が伝わるのがわかるはずです。お湯を入れた氷のうの重みも心地よいものです。氷のうなどを用意するのが面倒という人は、はるタイプの使い捨てカイロを利用してもよいでしょう。この場合、一日中、仙骨にカイロを当てていても構いません。ただし、低温ヤケドには注意してください。
便秘がちな人は、仙骨を温めた後に、同じ氷のうなどでおなかを5〜10分ほど温めるとよいでしょう。
また、よく歩いて下半身の筋肉を鍛える、食事は体を温める根菜類を多めにし、葉野菜の生食を避ける、冷たい物を取り過ぎない、入浴はシャワーで済まさず、湯船にしっかりとつかって体を温めるなどの、生活習慣の見直しも大事です。
仙骨の温め方

青山 正
1950年、福井県生まれ。柔道整復師の免許取得後、西洋医学とカイロプラクティックを学ぶ。さまざまな不調の原因が仙骨のゆがみからくることを突き止め、「仙骨療法」を考案。行列ができる先生としても知られる。