解説者のプロフィール

工藤孝文
工藤内科副院長。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアで食行動異常について研究。帰国後、大学病院で肥満症・糖尿病などの生活習慣病を専門とし、現職に至る。『きゅうり食べるだけダイエット』(KADOKAWA)、『日めくり叱咤激励ダイエット』(エイ出版社)など著書多数。
病気を呼ぶ内臓脂肪
私は内科医として糖尿病をはじめ、高血圧などさまざまな生活習慣病の診療にあたるかたわら、ダイエット外来で減量指導に取り組んできました。
当外来を受診する人は、10~70代と幅広く、「やせて健康になりたい!」「太っていなくても、ぽっこりお腹だけはへこませたい」と目的も多様です。
言うまでもありませんが、食べすぎてはいけない、運動は大切、など知識があっても実践できないのがダイエット。当院を訪れる人のほとんどが失敗した経験をお持ちです。しかし、当外来を卒業する頃には、平均7~8kgの減量に成功しています。なかには、10㎏以上の減量をする方も少なくありません。
やせると外見が若返るだけでなく、内臓脂肪が減って健康も回復します。内臓脂肪が多いと悪玉ホルモンが大量に分泌され、これが細胞に糖を送るインスリンの働きを悪くしたり、血管を収縮させて血圧を上昇させたりします。
しかし、内臓脂肪が減ると血糖値や中性脂肪値、血圧の数値が軒並み改善し、若い女性では貧血が治り、止まっていた生理が再開する場合もあります。
ダイエット外来を開設して3年、成功率は99・2%に達しています。高い成功率を保てる秘策の一つが、患者さんにお勧めしている「ひじ湯」です。
ひじ湯とは、ひじをお湯に浸けて温めながら深呼吸するだけと簡単です(詳しいやり方は図参照)。しかしこれが食欲を抑え、ドカ食いを防ぐことにつながります。
そもそもドカ食いは、根性論で耐えるのではなく、合理的に消すのが賢いつきあい方です。
そこでひじ湯が役立ちます。なぜなら、ひじへの温熱刺激と深呼吸によって副交感神経が優位になり、高ぶった神経が静まってくれるからです。つまり、ひじ湯を行えば、我慢せずにドカ食いの衝動を消せるというわけです。
ひじ湯を実践した患者さんからは、冷静になってイライラしない、リラックスするなどの声が寄せられ、顕著な食欲抑制効果がみられました。
ひじ湯のやり方

ドカ食いを防ぐことが ダイエット成功の鍵
ダイエットがうまくいかない最大の原因は、食欲をコントロールできないことです。
私は長らく肥満に悩む人を診ていますが、食欲を我慢で抑えるのは、不可能だと思います。
食欲の中でも、ストレスからくるドカ食いは厄介です。なぜなら、ストレスを溜め込んでイライラしてしまうと、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスが乱れるからです。
自律神経は交感神経と副交感神経の二つからなります。
交感神経は、心身を「緊張・活動モード」にする働きがあり、副交感神経は心身を「リラックス・休息モード」にする働きがあります。両者がバランスよく働いていれば、私たちは健康を保つことができます。
ですが交感神経の優位が続くと、体はそんな状態から逃れるために食事をとって副交感神経を刺激してリラックスを図ります。これが、制御不能のドカ食いの正体です。
夕食前のひじ湯で食欲が減らせる
驚くほどやせた実例があります。Aさん(45歳・主婦)は、更年期によるイライラで甘いものがやめられず、初診時は体重が75kg(身長158㎝)でした。
Aさんには、ドカ食いしやすい夕食前や、イライラして甘い物を食べたくなったときに、深呼吸をしながらひじ湯を行うようにアドバイスしました。
「ひじ湯を始めてからイライラせず、食欲にしばられなくなりました!」と、Aさんは5ヵ月で10㎏やせ、65㎏になりました。甘いものは太る原因になりますが、「幸せホルモン」といわれるセロトニンを分泌させる働きもあります。そのため甘いものはイライラした人を虜にし、肥満に導きます。
ひじ湯は、そんな食欲を合理的に消してくれるので、夕食前から寝る前までに1回、我慢できない食欲がこみ上げたときに行うと効果的です。ただし、ひじ湯は副交感神経を働かせる力が強力なので、眠気が起こることもあります。仕事中や運転前は避けるようにしてください。
ちなみに、ひじにはツボも多く、もの忘れ、耳鳴り、慢性鼻炎に効く少海、月経不調に効く小海、ぜんそく、嘔吐に効く尺沢、歯痛、目の充血に効く曲池などもあります。ただひじをお湯に浸けるだけで、これらのツボも刺激するので、多彩な効果を期待できます。
