MENU
【激痛を伴う心因性腰痛】リエゾン治療は心と体の両面から治す新しい治療法

【激痛を伴う心因性腰痛】リエゾン治療は心と体の両面から治す新しい治療法

近年、原因不明の腰痛に、心理的な要因がかかわっているケースが意外と多いことがわかってきました。仕事や人間関係上のストレスなどの影響で痛みがひどくなってしまうもので、「心因性腰痛」と呼んでいます。【解説】大谷晃司(福島県立医科大学医療人育成・支援センター兼整形外科准教授)

心の問題が体の痛みに影響する

 慢性腰痛は、骨格や筋肉をいくら検査しても、明確な原因が見つからないことが多かったものです。しかし近年、原因不明の腰痛に、心理的な要因がかかわっているケースが意外と多いことがわかってきました。
 仕事や人間関係上のストレスなどの影響で痛みがひどくなってしまうもので、「心因性腰痛」と呼んでいます。

 Aさん(30代・男性)は、激しい腰痛が何ヵ月も続き、とうとう仕事ができなくなったと来院。しかし、画像所見では特に異常は認められません。ひとまず薬を使って痛みを緩和していくと、しだいに診療の場で日常生活について語ってくれるようになり、仕事の上で精神的に大きな負担を感じていたことが明らかになりました。
 外回りの仕事をしているAさんは、夏場、炎天下の中を忙しく動き回り、心身ともに非常につらい思いをしていたのですが、周りにそれを伝えることができず、一人で抱えこんでいました。「無理なことは無理だと伝え、職場に理解してもらいましょう」とアドバイスしたところ、それ以降、Aさんの腰痛は劇的によくなりました。

 心の問題が体の痛みに影響を及ぼすのは、脳内での痛みの情報伝達にかかわるドーパミン系に問題が生じるためではないかと考えられています。
 痛みは、体の危険を感じ取るために必要な信号でもあるわけですが、それが出っ放しでは困ります。ですから、通常は痛みの刺激が伝わると、フェージック・ドーパミンという物質が放出され、痛みをコントロールします。一方、ストレスや不安、うつなどが存在すると、別な経路からトーニック・ドーパミンが放出されます。後者の分泌が多いと、前者の分泌は低下するという関係性があります。

 人がストレスにさらされていると、継続的にトーニック・ドーパミンが放出されて、その結果、フェージック・ドーパミンが放出されなくなり、痛みをコントロールできなくなってしまう。つまり、普段なら大した痛みと感じない刺激でも、痛みとして認識してしまう、と考えられているのです。

 心因性腰痛を疑うときの判定基準として、私たちは「BS―POP」という問診票を用います。これは本来、医師用と患者用の二つのステップで評価しますが、参考に患者用を掲載しておきます(左ページの左上)。問診票の合計点数が、15点以上の場合は、心因性腰痛の疑いがあります。

 ただし、仮に心因性腰痛と診断がついても、心の問題がすべての原因というわけではありません。実際には、痛みが慢性化する過程に、肉体的・心理的要因の両方が複雑にかかわっていると考えたほうがいいでしょう。
 例えば、最初のきっかけは、骨格や筋肉の障害だったかもしれません。それ自体は軽かったとしても、痛みのせいで日常生活や仕事に支障をきたし、精神的ストレスにつながることもあるでしょう。そして腰痛が長期化してくると、最初の肉体的問題は軽快しても、心理的問題の影響が強くなっていた、ということが起こりうるわけです。

心因性腰痛の判定基準(問診票)

手術では救えない患者さんがいる

 こうしたケースに対応するため、整形外科と精神科などが連携し、体と心の両面から治療していくのが「リエゾン治療」です(リエゾンは連携という意味)。私たちは、「運動療法」と「認知行動療法」を中心に、リエゾン治療を行っています。

 運動療法は、体を動かせるようにするためのリハビリとしての効果のほか、痛みそのものへの治療効果もあるとわかってきました。運動療法を継続すると、痛みに対する感受性(痛みの感じ方)が変わってくると、科学的に証明されたのです。

 認知行動療法は、患者さんの「痛み」や「体の不自由さ」に対する考え方や感じ方を変えていくアプローチです。例えば、「腰が痛くなるから歩けない」と歩かずにいた人を、「痛いけれど、このくらいなら歩ける」と考えられるように変えていくといったことです。

 注意すべきなのは、体の痛みを訴えて来院された患者さんに、「心の問題が関与しているようだから、精神科も受診してください」などといきなり言っても、そう簡単には聞き入れてもらえないということです。
 重要なのは、患者さんと医療スタッフが信頼関係を築いていくこと。特に、患者さんが現に感じているつらさへの共感を示すことが大切です。「痛かったでしょう、ここまで来るのが大変だったでしょう」などの言葉があるだけでも、患者さんは「自分を受け入れてくれる」と感じ、信頼関係を作る助けになるものです。

 治療の目標設定も重要です。最終目標は「痛みをなくす」ことですが、慢性化してしまった痛みは、一朝一夕にはよくなりません。まずは「痛みと同居」しつつ、生活の中から少しずつ「不自由さ」を取り除いていくことを目標にします。
 例えば、「5分しか立っていられず、台所仕事もできない」という場合、「痛みは感じながらも、なんとか台所仕事が終えられる」といった身近な目標を設定します。その目標を患者さんと医療スタッフが共有することで、治療がスムーズに進みやすくなるのです。

 整形外科は「手術して治すのが仕事」と考える風潮がありましたが、手術では救えない患者さんは少なからずいます。
 手術を何度も受けて、そのたびにかえって悪化し、寝たきりになっていた若い女性患者さんが、リエゾン治療によって回復し、社会復帰を果たした例もあります。こうした医療の形が広く普及して、患者さんが救われる機会が増えていってほしいと、強く願っています。

解説者のプロフィール

大谷晃司
 福島県立医科大学医療人育成・支援センター兼整形外科教授。1990年、福島県立医科大学医学部卒業。14年より現職。専門は、脊椎・脊髄の外科、高齢者の整形外科、慢性疼痛の治療。共著に『長引く腰痛は脳の錯覚だった』(朝日新聞出版)がある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

関連するキーワード
関連記事
言われるがままバンドを巻き体を動かしてみたところ、腰とお尻の下の鈍い痛みがその場でスッと消えたのです。心底びっくりし「これはなんですか?」と関口先生に聞いたところ、43円療法と教えられました。私の体に43円療法は合っていると思います。体の痛みを自分で調整できるのはありがたいです。【体験談】奥田弘毅(仮名・無職・69歳)
更新: 2019-09-10 22:10:00
私は腰痛や座骨神経痛の痛みをもっとすっきり取る方法はないかと考えていました。これらの痛みは背骨や骨盤を矯正しても、多少改善されるだけで劇的にはよくなりません。試行錯誤を続けているうち、「大腿直筋」という筋肉が、硬くこわばっているために、腰痛などが起こっていることがわかったのです。【解説】関口志行(ツバサ整骨院院長)
更新: 2019-09-10 22:10:00
驚いたのは、体操を教わった直後の出来事です。「走ってみてください」先生がそうおっしゃったのです。足を引きずりながら治療院にたどり着いた私です。まさか走れるわけが…、と思いながら足を動かしました。すると、本当に走れるではありませんか。まるで先生に魔法をかけられたかのようでした。【体験談】阿部道子(仮名・主婦・73歳)
更新: 2019-09-10 22:10:00
痛みは、筋肉の硬直から起こります。筋肉がかたくなると、それに引っ張られて骨や関節がゆがみ、神経や血管が圧迫されて痛みが出ます。しかし、手首を押さえながら体を左右にねじると、筋肉が緩んで、骨が本来の正常な位置に戻ります。それによって神経や血管の圧迫がなくなり、痛みが取れていくのです。【解説】関口志行(ツバサ整骨院院長)
更新: 2019-09-10 22:10:00
私の腰痛は、肩こりも原因の一つなのだとか。最近は特に肩のこりを感じていなかったので、この指摘は少し奇妙に感じました。しかし、実際に手首押しを始めて1週間ほどで、腰はかなりらくになりました。1ヵ月たった今、完全に痛みが消えたとまではいきませんが、腰の調子はかなりよいです。【体験談】有田孝一(仮名・無職・77歳)
更新: 2019-09-10 22:10:00
最新記事
私は鍼灸師で、日本で一般的に行われている鍼灸治療のほか、「手指鍼」を取り入れた治療を行っています。手指鍼はその名のとおり、手や指にあるツボを鍼などで刺激して、病気や不調を改善する治療法です。【解説】松岡佳余子(アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師)
更新: 2020-04-27 10:34:12
腱鞘炎やバネ指は、手を使うことが多いかたなら、だれもが起こす可能性のある指の障害です。バネ指というのは、わかりやすくいえば、腱鞘炎がひどくなったものです。腱鞘炎も、バネ指も、主な原因は指の使いすぎです。痛みやしびれを改善する一つの方法として、「手首押し」をご紹介します。【解説】田村周(山口嘉川クリニック院長)
更新: 2020-03-23 10:16:45
筋肉がこわばると、体を支えている骨格のバランスがくずれて、ぎっくり腰を起こしやすくなります。ぎっくり腰に即効性があるのが、手の甲にある「腰腿点」(ようたいてん)という反射区を利用した「指組み」治療です。この「指組み」のやり方をご紹介します。【解説】内田輝和(鍼メディカルうちだ院長・倉敷芸術科学大学生命科学部教授)
更新: 2020-03-02 10:09:34
慢性的な首のこり、こわばり、痛みといった首の不調を感じたら、早めに、まずは自分でできる首のケアを行うことが大切です。【解説】勝野浩(ヒロ整形クリニック院長)
更新: 2020-02-25 10:06:07
首がこったとき、こっている部位をもんだり押したりしていませんか? 実は、そうするとかえってこりや痛みを悪化させてしまうことがあります。首は前後左右に倒したりひねったりできる、よく動く部位です。そして、よく動くからこそ、こりや痛みといったトラブルを招きやすいのです。【解説】浜田貫太郎(浜田整体院長)
更新: 2020-02-17 10:18:14

ランキング

総合ランキングarrow_right_alt
get_app
ダウンロードする
キャンセル