タオルを使って弁慶の泣き所を簡単に刺激
私はリフレクソロジー(足裏の反射療法)で、お客さまの体調を整えています。その中で気が付いたのが、足裏の状態が悪い人は、ほぼ間違いなく、ふくらはぎがパンパンに張っていたり、硬かったりすることです。
その経験から、私はふくらはぎこそ全身の血流をよくする要と考え、「ふくらはぎほぐし」を勧めてきました。これは、ふくらはぎの前後左右をまんべんなくほぐす方法ですが、その中で特にほぐしにくいのが、ふくらはぎの前面、つまり「すね」です。ご自分のすねを触ってみてください。硬く張っていませんか? 押すと痛くありませんか?
すねは脂肪や筋肉が少なく、皮膚と骨の間に血管や神経が通っています。ぶつけると、あの武蔵坊弁慶でさえ痛くて泣いたということから、「弁慶の泣き所」ともいわれます。
ここが硬く張っていると、いくら足裏をほぐしても効果は半減。上下の流れをせき止めるダムになってしまうのです。橋の往来を止めた弁慶そのものですね。どうでしょう。あなたのすねにも、弁慶いませんか?
まさに健康の急所といえる弁慶の泣き所ですが、なにしろほぐしにくい部分なので、一度硬くなってしまうと、ほぐすのがとても大変です。しかしそのぶん、ほぐした効果も劇的に表れるのです。
すねが張っていると、血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の流れがそこで途絶え、老廃物が排出されにくくなります。ですから、ここの張りを取ることが、血流や解毒の改善につながります。
すねを、なんとか自分で簡単にほぐす方法はないだろうか。そう考えたとき、これからご紹介する、「弁慶の泣き所刺激」を思い付きました。
これは、ねじったフェイスタオルを床と足の間に置いて、自分の体重ですねを刺激する方法です。フェイスタオルが1本あればどこででもできて、力もいらず、簡単にすねをほぐせます。
最近、弁慶の泣き所刺激で、ひざ痛の改善例が相次ぎました。その事例をご紹介します。
ひざ痛の改善例
Yさん(69歳・女性)
Yさんは、整形外科に通いながら、痛み止めの薬を服用しています。しかし、ひざ痛が改善せず、薬への依存が心配で、私のところへ来られました。
Yさんのふくらはぎには、強い張りとむくみがあり、すねもパンパンに張って、ひざが曲がらない状態でした。曲げると痛いので、家の中ではほとんど動かないそうです。そこで、ふくらはぎを中心にほぐす施術を行うとともに、自宅で弁慶の泣き所刺激もしてもらいました。
Yさんはひざが曲がらないので、片ひざずつする方法を指導しました。それを続けるうちに、すねが柔軟になり、ひざが曲がるようになってきました。
その後、足のむくみや張りが引き、痛みもずいぶん軽くなりました。今では、保温サポーターをしていれば日常生活に支障はなく、行動範囲もぐんと広がったそうです。「痛み止めの服用も最少限で済んでいる」と喜んでいます。
Hさん(64歳・女性)
ご主人の介護をされているHさんは、数年前に変形性膝関節症と診断され、いろいろな治療を試してきました。けれども効果がなく、これまで何軒も病院を変えてきたそうです。
初めて私のところにいらしたときは、ひざが曲がらず、ひざの裏には豆大福のようなふくらみがありました。そこでまず、ふくらはぎを中心にリンパマッサージを実施。その日のうちに多量の排尿があり、体重が2㎏も落ちました。
Hさんはすっかりリンパマッサージが気に入り、ご自分でも見よう見まねでやってみましたが、やはりすねはうまくもめません。そこで、ペットボトルでの弁慶の泣き所刺激のやり方を教えたところ、疲れが取れると大喜び。そのうちひざが曲がるようになり、通常の弁慶の泣き所刺激を始めました。
その後、ひざ裏のふくらみはだいぶ小さくなり、立ったり座ったりも自由にできるようになりました。韓流ファンのHさん、先日は激込みの新大久保で、一日遊んできたそうです。
弁慶の泣き所刺激のやり方


肩から上の症状によく効く
ひざ痛の人は、例外なく、すねが張っており、それが痛みの原因の一つになっています。
すねが張っていると、ひざはすねと太ももの両方に引っ張られて、ひざに強い負担がかかります。さらに、加齢に伴って、骨と筋肉が癒着したり、ひざの周辺部の組織が石灰化したりしてきます。そのため、ひざが曲がりにくくなったり、変な方向に引っ張られたりして、痛みが出てくるのです。
ところが、弁慶の泣き所刺激ですねがゆるむと、ひざへの引っ張りがなくなります。さらに、すねの血流もよくなるので、癒着や石灰化が改善して、痛みが和らいでいきます。
また、すねがゆるむと、肩こり、首のこり、頭痛、目の疲れ、顔のむくみといった、肩から上の症状も改善します。これには二つの理由があります。
一つは、すねから続いている足の指先までの筋肉がゆるむことです。リフレクソロジーでは、足裏の指先から3分の1は、肩から上の部位に相当します。すねがゆるむとその部分がほぐれ、肩から上の症状が好転するのです。
目がパッチリ!顔はリフトアップ!
もう一つは、すねを通っている経絡(東洋医学でいう生命エネルギーの通り道)の滞りが取れることです。すねの外側には胃経と胆経、内側には肝経という経絡があります。ここが硬くしこっていると、経絡の気(一種の生命エネルギー)の流れが悪くなり、全身の同じ経絡上にそれが反映されるのです。
「弁慶の泣き所」の状態でわかる体の不調

例えば、首、肩のこりは胆経、目の下のくまなどは胃経、肌や髪の状態などは肝経に関係があります。すねをゆるめると、それぞれの経絡の滞りが改善し、肩から上の症状もよくなっていくのです。
また、すねには体調や心の状態も反映されます。
すねの外側のゾーンを通る胃経は、消化器をつかさどります。ここの張りは、胃腸の機能の低下のサイン。胃痛、胃もたれ、むかつき、食欲不振などがある人は、このゾーンがたいてい張っています。
精神面では記憶力、思慮深さなどにかかわりますから、ここの状態がよければ、思考力・記憶力とも良好で、物事を落ち着いて考える思慮深さがあります。反対に硬く張っているときは、思い込みが激しかったり、考え過ぎていたり、取り越し苦労が多かったりと、情緒面に不安定さが見られます。
一方、すねの内側を通っている肝経は、肝機能や血液と深い関係があります。この部分が張っている人は血の気が多く、怒りっぽい、イライラしやすい傾向があります。反対に、やせ細っている人は血の気が少なく気力がない、ふさぎがちといったうつ的傾向を示します。
肝経は解毒や生殖器にも関係しているので、ここが詰まると生理不順や不妊、ED(勃起障害)、アレルギー、顔のくすみやむくみなどが出てきます。
弁慶の泣き所刺激は、このようにひざ痛、肩・首のこり、目の疲れ、顔のむくみやくすみ、頭痛(特に緊張性頭痛)、胃腸障害などがある人にお勧めします。私の経験では、足のほてりにもよく効きました。
さらに面白いのは、やると目がパッチリと大きくなり、顔がリフトアップして引き締まること。セミナーで生徒さんにやってもらうと、前後で本当に顔が変わります。顔のたるみが気になっている人にもお勧めです。
1日1回3分で効く!
では、具体的なやり方を説明しましょう。
「弁慶の泣き所」刺激は、正座したすねの下にねじったタオルを置き、そのタオルに体重をかけてすねを刺激するものです。フェイスタオルが1本あれば、いつでもどこでも手軽にできます。
ポイントは、
①ひざから足首まで、すね全体をまんべんなく刺激する。
②特に痛いところ、気持ちのよいところがあったら、そこを集中的に刺激する。
以上の2点です。②では、体を前後に動かすのに加え、左右にも揺らすと、すねの横側も刺激でき、より効果的です。
弁慶の泣き所刺激は、1日1回、目安としては3分くらい行うといいでしょう。いつ行っても構いませんが、朝起きてすぐにすると、朝の光の刺激とともに体が活性化されます。
お風呂の前や後にしても構いません。入浴前にすれば、お風呂で発汗が促され、解毒効果が高まります。すねが張り過ぎている人は、入浴後にすると、刺激が緩和されます。
弁慶の泣き所刺激をするときは、パジャマやスラックス、タイツなどをはいてするといいでしょう。ただし、ジーンズのような厚手のものはふさわしくありません。また、ベッドやふとんの上ですると刺激が弱くなるので、床や畳の上で行うといいでしょう。
この弁慶の泣き所刺激のよいところは、自分の体重を利用して行うことです。体重で圧をかけるので力がいらず、しかも無理な圧がかかりません。
やってみて「痛過ぎる!」と感じる場合は、タオルのねじり方をゆるめにしてください。逆に、刺激が物足りないという人は、タオルをきつくねじれば、刺激が強くなります。「イタ気持ちいい」ぐらいの強さで行うのがコツです。
なお、正座ができない人は、片足ずつ行う方法もあります。片足を立てひざにし、もう片方のひざの下にタオルを置いて行います。立てひざができない人は、イスの上に片ひざを乗せ、立ってやってもいいでしょう。両足に行うのが理想ですが、痛くてできない場合は、痛くないほうの足を行うだけでも、痛みの改善に役立ちます。
それも無理なときは、ペットボトルを利用して刺激します。
ホット飲料用のペットボトルに、熱めのお湯(60℃くらい)を口までいっぱいに入れます。先に水を入れてからお湯を注ぐと、温度調節がしやすくなります。お湯は熱めのほうが気持ちよいですが、熱くて持てないときは、タオルなどで包んで持ちます。
このペットボトルの側面をすねに当てて、さすり上げたり下ろしたりします。すねの外側は上から下に、内側は下から上に動かすのがポイントです。底を使って回しもみしたり、キャップの部分で押しもみしてもいいでしょう。お湯の熱でしこりがゆるみ、筋肉がほぐれやすくなります。
弁慶の泣き所刺激は、どんな人にでもお勧めできる健康法ですが、わずかですが血管を圧迫しますので、高血圧や動脈硬化のある人は、足首を回したり、そけい部をゆるめるために屈伸をしたりして、血管のウオーミングアップをしてから行うことを勧めます。
解説者のプロフィール

市野さおり
1968年生まれ。英国ITEC認定リフレクソロジスト。スピリチュアルカウンセラー。自衛隊中央病院整形外科・集中治療室勤務後、各科外来勤務を経ながら、「統合医療ナース」として臨床実践や指導を行う。2003年より3年間「統合医療ビレッジ」にて看護部長を務める。現在は完全予約制鍼灸院「Confianza せき鍼灸院」での施術・セラピーの傍ら、セミナー・講演・執筆活動などで活躍。『足うらない』(世界文化社)など著書多数。最新刊は『カラダの不調を整えるスパイス白湯』(宝島社)。
「イタ気持ちいい」ぐらいの力で行う