解説者のプロフィール
加齢により体の性質が変化する

コツは「心地よい」と感じる力加減で行うこと
「アーユルヴェーダ」という言葉を、聞いたことがありますか?
一般に「インド伝承医学」といわれることが多いですが、直訳すると「生命の科学」となります。
その誕生は、謎に包まれています。ブラフマーという神が体系を作り、〝生類を生み出した神〟や〝神々の医者と呼ばれる神〟を経由し、人間の聖者たちに伝えられたとされます。
それを文字に著した古典の代表が、紀元前8世紀ごろに原作が作られたと推測されている、『チャラカ・サンヒター』です。全8巻120章から成り、内容は、現代でいう内科を中心に、外科、小児科、婦人科、精神科、アンチエンジング、毒物学など多岐にわたります。
それでは、アーユルヴェーダの診断について説明します。
アーユルヴェーダの根幹には、「トリドーシャ(三つのエネルギー)理論」という考え方があります。三つのエネルギーとは「ヴァータ(空風)、ピッタ(火)、カファ(水地)」の三つです。
人の本来の体質は、これら三つのエネルギーが、どのような配分になっているかで決まります。アーユルヴェーダの医師は三つのエネルギーの性質や働きを熟知していて、それをもとに患者の病状や体質を診断し、治療法を組み立てていきます。
加齢により、どんな体質の人もヴァータが増大していきます。ヴァータには、「冷たい、乾く、軽い、動く」という性質があり、このエネルギーが強くなると、体は冷え、乾きます。
そのため、骨は木が枯れるように、軽くスカスカになってしまいます。また、軟骨も油分や水分が失われて、骨と骨の間のクッションの役目を果たさなくなり、ひざなどの強い荷重が加わる関節に、痛みを感じるようになってしまうのです。
アーユルヴェーダの治療原則は、「反対の性質を取り入れる」というものです。加齢によるひざ痛は、ヴァータの増加が原因と考えられますから、「冷たい、乾く」というヴァータの主な性質と反対になるよう、温め、潤いを与えるのです。
アーユルヴェーダの「乾く」は、「水分の低下」と「油脂分の低下」の、両方の意味を含んでいます。そこで、乾燥の対策として油脂を用います。

実際にピンダスヴェーダが行われている様子
本場の方法を家庭用にアレンジ
アーユルヴェーダを行う病院では、加齢によるひざ痛の患者に「ピンダスヴェーダ」という治療法を行います。
まず、生のハーブを刻み、薬用の油で炒めて、それを布に包んでピンダ(団子)と呼ばれる、ボール状のものにします。これに温かい油を染み込ませて、あらかじめオイルマッサージをしておいたひざに、ヤケドをしないように注意しながら、ピンダを当てて温めるのです。
これをご家庭で行うのは難しいので、簡易法を下で紹介しています。実際に、私も行っている方法です。
オイルは、マッサージ用のものがお勧めですが、どうしても手に入らないときは、食用のオリーブオイルや、生のゴマを搾った、色やにおいのほとんどないゴマ油でも代用できます。
マッサージは、心地よいと感じる力加減こそが、最大の効果を引き出すコツ。なでるようにさする、しっかりともむなど、お好みで調整してください。
余裕があれば、太ももまでオイルを塗って、マッサージするとよいでしょう。特に、太もも内側の筋肉を、丁寧にほぐします。痛みのない側のひざにも行うと、痛みの防止になります。
この方法は満腹時さえ避ければ、いつ行っても構いません。また、時間がないときは、オイルを塗ってマッサージをした後、ティッシュペーパーなどで軽くふいて、お風呂に入るだけでもよいでしょう。
1日おきか、週に2~3回行うのがお勧めですが、最大の成果を得るために大切なのは、習慣にすることです。
とはいえ、アーユルヴェーダでは、「どんなによいことでも、不慣れなことを急に取り入れてはいけない」とされます。行うことが精神的な負担になったり、ストレスや苦痛をもたらすことのないよう、まずは、できるときだけ行えばよい、という心持ちで始めましょう。
オリーブオイルやゴマ油で行う「オイルマッサージ」のやり方

加藤幸雄
整形外科医院にて鍼灸治療、リハビリテーションに従事した後、日本アーユルヴェーダスクールにて10年以上教鞭を取る。アーユルヴェーダの古典を、わかりやすく解説する授業に定評がある。