解説者のプロフィール
ひざの裏をほぐすと腰が急速に緩む
全身の痛みの中で、最も発生頻度が高いのは、やはり腰痛ではないでしょうか。中高年者に限っていえば、腰痛を全く経験したことがない人は、まずいないと思います。
その腰痛の発生原因として、近年、注目されているのが脊柱管狭窄症です。背骨の中には神経が走っています。脊柱管狭窄症の患者さんは、その神経の通路となる管が狭くなっています。腰が痛くなったり、足がしびれたりするのも、脊柱管の狭窄により神経が圧迫されるためといわれています。
しかし、たとえ脊柱管が狭くなっても、周囲の筋肉をほぐせば、腰痛や足のしびれなどの症状は楽になります。たびたび休まないと歩けなかった人も、コリがほぐれれば、また歩けるようになるのです。
ただし、腰痛の人の中でも、とりわけ脊柱管狭窄症の患者さんの腰は、筋肉のコリが顕著です。そのガチガチの筋肉を直接ほぐしていくのは、容易な作業ではありません。針治療に温熱刺激や通電刺激を加えても、全く歯がたたないケースが少なくないのです。
しかし、ひざの裏を治療すれば、その頑固なコリも自然にほぐれます。ひざの裏のコリがほぐれると同時に、腰の筋肉も緩みだし、痛みが楽になるのです。
症例を紹介しましょう。
症例報告
Kさん(60代・女性)の腰痛は、主訴とするうつ病が完治しかけたころに始まりました。その後、症状は急速に悪化し、整形外科で脊柱管狭窄症との診断を受けたのです。
その際、「手術で治癒する確率は50%」といわれたらしく、「何をやってもいいから、とにかく歩けるようにしてほしい」と、私は懇願されました。
そこで、まずは腰の治療を試みましたが、コリは思うようにほぐれていきません。しかし、触診によって太ももの裏側にもひどいコリが認められたため、ひざの裏の治療を加えると、腰の筋肉も急速に緩み、痛みやしびれも改善。おかげで、手術も回避することができました。
同じく、整形外科で脊柱管狭窄症と診断されていたОさん(52歳・男性)にも、ひざの裏治療が著効を発揮しました。
Оさんは、胃ガンの再発転移予防で通院されていました。あるとき、「腰がおかしい」と訴えられ、触診した結果、腰とともに左のひざの裏に著明なコリを確認。その左ひざを狙って治療をしたところ、その場で腰痛も楽になりました。
こうして、ひざの裏の治療の効果を認めたОさんは、以後、自分でも毎日、ひざの裏の治療を行い、現在は痛みのない良好な体調を維持しています。
ちなみに、ひざの裏を使った腰痛治療は、東洋医学では経絡治療に属します。経絡とは、全身に張り巡らされた、気(生命エネルギー)の流れるルートです。腰とひざの裏は同じ膀胱経の支配を受けているため、ひざの裏の治療で腰痛が改善される可能性が高いのです。
足の血流がよくなり想像以上の治療効果
また、脊柱管狭窄症では、腰だけでなく、お尻や太ももの筋肉もこっているのが普通です。ひざの裏は、その太もも後面の筋肉とふくらはぎの筋肉の付着部に相当します。
筋肉は、柔軟に伸び縮みしますが、その付着部は収縮性のない腱線維でできた、血流の停滞しやすい部位です。つまり、ひざの裏は、腰と経絡でつながるうえ、太ももの血流を左右する部位と考えられます。そんな発想から刺激してみたところ、想像以上の治療効果が確認されたというわけです。
加えて、自分でできるのも、ひざの裏の治療の大きなメリットといえるでしょう。
皆さんは腰痛がつらいとき、「自分で自分の腰がもめたら、どんなにいいだろう」と思ったことはありませんか?
私は、いつもそう思います。どこがこっているかは、自分がいちばんよくわかるからです。
しかし、ひざの裏なら自分の手が届きます。範囲も狭いので、ポイントを外すこともまずありません。
筋肉の付着部は、ひざのお皿の真裏で、ほぼ左右中央にあります。まずはひざの裏のコリコリとした部分や、強い痛みやしこりを感じる場所を探してください。そこが治療のポイントです。左右の足で異常の現れ方が異なる場合もあるので、必ず両足を探って調べましょう。

治療ポイントを確認したら、下の写真の要領で刺激し、コリをほぐしていきます。いつやってもかまいませんが、お勧めは入浴時です。湯ぶねの中で全身を温めながら行うと、温熱刺激との相乗作用で、より腰の筋肉もほぐれやすくなります。
どこが悪いかわからない場合や、指での刺激でじゅうぶんな効果が得られない場合は、ひざの裏に使い捨てカイロ(小)を貼って、継続的に温熱刺激を与えていくのもよい方法です。
日中にズボンの上から貼り、熱くなったら外すようにすれば、低温ヤケドの心配もないでしょう。夜にカイロを用いる場合はズボン下を着用する、あるいはひざにタオルを巻いたうえで、パジャマの上から貼ってください。
ひざの裏押しのやり方

班目健夫
1954年、山形県生まれ。岩手医科大学大学院にて、医学博士号取得。日本自律神経免疫治療研究会理事。現在、青山・まだらめクリニック自律神経免疫治療研究所院長。著書に、『「湯たんぽを使う」と美人になる』(マキノ出版)などがある。