解説者のプロフィール

松岡佳余子(まつおか・かよこ)
アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。1948年、和歌山県生まれ。電気鍼による治療「良導絡」の開発者・中谷義雄医師の内弟子として、鍼灸修行をスタート。中国各地(上海、北京、瀋陽、鞍山)の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。鍼灸をさらに発展させた手指鍼で、高い効果を上げる。『巻けば即やせ! 手のひらバンドダイエット』(マキノ出版)など著書多数。現在は、最新療法の研究と後進の指導に当たっている。
●アジアンハンドセラピー協会 http://asian-hand.jp/
手のツボへの刺激は即座に脳へと伝わる
私は鍼灸師で、日本で一般的に行われている鍼灸治療のほか、「手指鍼」を取り入れた治療を行っています。手指鍼はその名のとおり、手や指にあるツボを鍼などで刺激して、病気や不調を改善する治療法です。
手指鍼の優れた点は、手や指に施術を行うだけで、全身のあらゆる病気や不調に対処でき、しかも即効性があることです。
手には、全身に対応するツボが集中しています。手のひらと手の甲には、14本の経絡(気と呼ばれる一種の生命エネルギーの通り道)が走っており、その流れにそって、直径1~1.5mmという小さなツボが、345個も存在しているのです。
これらのツボは、まるで「全身の縮図」のように、規則的に並んでいます。例えば、中指の第1関節までが頭部に対応し、親指と小指が両足に、人さし指と薬指が両腕に対応している、といった具合です。
そして、不調のある臓器や器官と関連した、手や指の部分を刺激することで、その臓器や器官の血流や機能を活性化・正常化して、健康な状態へと導くことができるのです。
しかも、手は全身の中でも、最も感覚が繊細な部分です。手には、約1万7000本もの神経が走っており、その1本1本が、脳へ信号を送っています。
手や指のツボを刺激すると、その刺激が即座に脳へと伝わり、病んで問題を起こしている体の部位に向けて、修復に必要な指令が出されます。その結果、体のさまざまな不調や痛みが、速やかに改善するのです。
このように、手指鍼は全身の不調や痛みに対して、即効性のある治療法ですが、研究や治療を続けるうちに、症状に関連する手や指のツボを刺激しても、まったく効果が表れない人もいることがわかりました。
そうした人たちに対しても効果がある方法を模索した末に発見した手法が、今回ご紹介する「中指の一点刺激」なのです。
中指の一点刺激では、中指の爪の生え際の、左右中央のやや下(第1関節寄り)のポイントを刺激します。このポイントの有効性に初めて気付いたのは、6年前。手指鍼の研究会でのことでした。
ストレスにさらされている人には最良のツボ
研究会では、症例研究として、毎回患者さんに登場いただき、その場で私が治療を行います。その回では、胃痛に悩む患者さんに出ていただきました。ところが、胃に関連するツボはもちろん、症状から考えられる手や指のツボを押しても、変化がないのです。
ほかに考えられるポイントはどこだろう、と探っていったところ、中指の爪の生え際のやや下を押したときに、初めて反応が出て、胃痛が消えたのです。その後も、同じようなケースを何回も体験しました。
中指の爪の生え際のやや下は、後頭部に相当するポイントです。このポイントの刺激によって、後頭部とは直接関係のない部位の体の痛みが緩和するということは、「精神的なストレスが体の痛みに関与しているせいかもしれない」、と考えました。後頭部に相当するポイントは、ストレス解消の特効ツボだからです。
痛みは、通常、ケガや病気などで体に損傷が起こったことを知らせる警報です。神経を通じて、痛みの信号が脳に伝わり、脳が痛みを認知します。痛みを感じているのは、脳なのです。
しかし、損傷が改善したり、もともと起こっていないのに、痛みを感じることが少なくありません。
大きなストレスにさらされたり、ストレスにうまく対応できなかった結果、全身をコントロールしている脳が変調を来します。そして、ほんのちょっとした刺激を過敏にとらえて、強い痛みやしびれとして感知してしまうことがあります。
痛みの原因がすでになくなっているのにもかかわらず、神経や脳に残った「痛みの記憶」が引き出されることで、脳が痛みを感じてしまうためです。
いわば脳と神経の誤作動なのですが、特に骨や筋肉に異常が見つからず、どんな治療を受けても効果がなく、慢性的に起こる痛みの場合、このような心理的原因で、くり返し痛みに苦しめられているケースが非常に多いのです。
中指の爪の生え際のやや下のポイントは、脳に働きかけて、ストレスの影響で変調をきたした脳の機能を正常化すると考えられます。そこで私は、このポイントを「ストレスポイント」と名付けました。
その後、私は手指鍼の研究会でストレスポイントについて報告し、医師や鍼灸師の人たちに、治療に取り入れてもらいました。その結果、「パニック障害やうつ病に効果があった」「治療の効果がなかった首、肩、腰の痛みに効いた」「ひざ痛が改善し正座もできた」などの報告が相次いでいます。
ストレスポイントを押すと痛い人は、ストレスが体の痛みや不調の原因である可能性が高く、中指の一点刺激を行うことで、症状の改善につながると考えられます。

手には全身に対応するツボがあり、後頭部の下に当たるのが「ストレスポイント」
「中指の1点刺激」のやり方
家庭でも簡単にできる中指の一点刺激のやり方を、ご紹介しましょう。
中指の一点刺激に必要な道具は、つまようじ(頭が丸いもの)1本、アルミホイル、肌への刺激が少ない医療用ばんそうこう(サージカルテープ)です。これらは、手指鍼の治療で使う道具を、家庭の身近なもので代用しました。
手指鍼では、先が細く丸い専用の金属棒の先端で患者さんの手や指を押し、押すと痛みを感じる圧痛点を探します。この圧痛点が、その人が治療すべきポイント。ここに、小さな粒をはるなどして、刺激を与えます。
一般の家庭では、これらの代わりにつまようじと、1.5cm角ほどのアルミホイルを硬く丸めたものを使うわけです。

【用意するもの】
・つまようじ(頭が丸いもの)1本
・アルミホイル
・肌への刺激が少ない医療用ばんそうこう(サージカルテープ)
では、やり方を具体的に説明しましょう。
つまようじの頭(丸いほう)を使い、中指の爪の生え際の左右中央から第1関節に向かって、下になぞっていきます。爪の生え際と第1関節のほぼ中央あたりに、ややくぼんだような感触の個所を見つけたら、そこをつまようじの頭で押してみてください。
強い痛みを感じたら、そこが「ストレスポイント」です。ストレスポイントがうまく見つからない場合は、周辺を同様にして探します。それでも痛みのある個所が見つからない場合は、ストレス以外の原因によって、痛みが起こっているものと考えられます。

【やり方】
❶つまようじの頭(丸い方)を使い、中指の爪の生え際の左右中央から、第1関節に向かって下になぞり、ややくぼんだような感触の箇所を探す。
❷①の箇所をつまようじの頭で押す。強い痛みを感じたら、そこがストレスポイント。
さて、押すと強い痛みを感じたら、中指の一点刺激が有効です。アルミホイルを丸めた粒を圧痛点に置き、上からばんそうこうで固定します。
ばんそうこうは、基本的にはりっ放しにします。気になる症状が改善するまで、続けるとよいでしょう。ただし、かぶれなどが起こった場合は、速やかにはがしてください。
痛みを感じる側の中指をアルミホイルの粒で刺激しますが、両中指に痛みを感じる場合は、同時に刺激してもOKです。

❸アルミホイルを1.5cm角ほどに切る。

❹切ったアルミホイルを硬く丸める。

❺アルミホイルを丸めた粒をストレスポイントに置き、上からばんそうこうで固定する。
※ばんそうこうは基本的にはりっ放しにする。期になる症状が改善するまで続ける。
※ただし、かぶれなどが起こった場合は、すみやかにはがす。
ストレスの強い人などは、ストレスポイントを押すと激痛を感じます。
ひどく痛む場合は、アルミホイルの粒をはらず、つまようじの頭でストレスポイントとその周辺を軽くさするだけで十分です。また、冷えのひどい人は、ストレスポイントに温灸をして、穏やかな温熱刺激を与えても効果があります。
いろいろな治療法を試しても改善しない、体の痛みや不調を抱えている人や、原因不明の体の痛みが慢性的に続いている人は、ぜひ試してみてください。