解説者のプロフィール

西村淳(にしむら・じゅん)
南極料理人。作家。
1952年北海道出身。海上保安官として、第30次(88-90年)、第38次(96-98年)の2回にわたり、南極地域観測隊に食材手配・管理・調理の担当として参加。その経験を描いたエッセイ『面白南極料理人』(新潮社、シリーズ続巻あり)が好評を博し、映画化もされた。海上保安庁を退職し、現在は、著述業の他、講演会、料理教室、商品開発など幅広く行っている。
http://aurorakitchen.co/
地球上最も過酷な環境で1年4ヵ月を過ごす
海上保安官として巡視船に乗っていた36歳のときに「南極に行ってください」との辞令を受け、南極の昭和基地での食糧管理や調理の担当として、南極地域観測隊に参加。
44歳のときにまたしても南極ドームふじ観測拠点(現ドームふじ基地)での9名の越冬隊として派遣される。
そんな2度にわたる南極での特異な経験をつづっていたら、いろいろあって本になり、映画化されて、現在は「南極料理人」として、故郷の北海道を拠点に全国を飛び回っています。
私が2度目の越冬をしたドームふじ基地がどんなところか。
南極大陸の沿岸にある昭和基地からさらに1000㎞離れた南極の内陸部、標高3810mと富士山頂上より4m高いところに位置し、平均気温は氷点下57℃、最低気温は氷点下80℃。空気は薄く、お湯は85℃で沸騰します。ペンギンどころかウイルスさえも生存できない、地球上で最も過酷な環境と言われています。
南極沿岸から雪上車で物資を引っ張って登りながら到着するまでに1ヵ月かかるようなところだから、何かが足りなくなったからちょっと買ってくるなんてことは絶対にできません。
野菜や果物、肉・魚・卵、調味料に至るまで、1年4ヵ月分の食糧を、基本的に冷凍食品と乾物、缶詰で何トンも買い付けて運んで行き、大事に大事に使っていくわけです。
冷凍食品ばかりじゃさぞや悲惨な食生活だったろう、と思われるかもしれません。けれど近頃の冷凍食品は、風味も歯触りも想像以上にうまく作られていて、アイディアしだいでどうとでも作れるな、というのが実感です。
「料理は気合と笑顔と少しのごまかし」が私のモットー。
しょうゆの入った一斗缶がガッチガチに凍ってしまって、「まずい、これは融かすのに時間がかかるな~」と内心で焦っているときにかぎって、仲間から肉ジャガをリクエストされてしまったことがありました。
そんなときにも、コーラに塩を加えて、冷凍タマネギと冷凍フライドポテトを煮た「コーラ肉ジャガ」で乗り切りました。
ほかにも、ラーメンばっかり食う隊員のせいで、あっという間にラーメンのめんが底をついたときには、ふくらし粉をかんすい代わりに「ラーメンもどき」を作ったり、持ち込み忘れたシャンパン代わりに白ワインにサイダーを加えたり。意外になんとかなるものです。
まとめて切って冷凍しておくと便利
「コーラ肉ジャガ」でも活躍したタマネギは、家庭でも時間のあるときにまとめて切って冷凍しておくと、とても便利ですよ。みじん切りや薄切りにして、油をちょっとまぶしてから冷凍保存袋に入れて凍らせておけば、袋の上から軽くもむだけでパラパラになるので、必要量だけ取り出せます。
おまけに、おいしいけれど本格的に作ろうとしたら30分近くかかってめんどうな「オニオンアッセ(あめ色になるまでじっくり炒めたタマネギ)」も、冷凍タマネギを使えば、5分できれいに出来上がります。
まぁ、そうは言っても、越冬も終盤に差し掛かると、生の野菜が食べたくなるもの。
年明け(南極の夏季)にヘリで補給物資を少しだけ持って来てくれるのですが、私は上空にあるときから、タマネギが積んであることをにおいで嗅ぎつけたほど、待ち遠しかったですね。
久しぶりの生タマネギを使った料理で、仲間たちがいちばん喜んでくれたのが「タマネギみそ」。トロトロに軟らかくなり甘味が引き出されたタマネギとみその風味が絶妙な一品です。
私も調理担当とはいえ、3度の食事だけを作っていればよいというわけにはいきません。
なにせ人手がないので、雪上車やボイラーのメンテナンス、観測気球打ち上げや氷サンプリングといったほかの隊員の任務のサポート、チェーンソーで雪の塊を切り出し天然冷凍庫作り、燃料輸送や通信など、なんでもやっていました。
そんな多忙な雑務のすき間に基地に戻り、分厚い羽毛コートを脱いで、急いで仲間の食事を作るのですから、まとめて作っておけば、いろいろに活用できるタマネギみそにはとても助けられました。
そのままで酒の肴によし、ご飯やトースト、豆腐などにのっけて食べてもよし、肉や魚のソースとしてもよし。カツオ節とお湯を加えれば、即おいしいみそ汁にもなります。皆さんもぜひ作ってみてください。

『南極料理人』監督:沖田修一 Blu-ray・DVD発売中(販売元:バンダイナムコアーツ ©2009『南極料理人』製作委員会)
映画では、俳優の堺雅人氏が西村淳役を演じた。
南極でも大人気!「タマネギみそ」の作り方

【材料】
タマネギ…1個につき
みそ…大さじ山盛り1の割合で用意する

❶タマネギは皮をむき、繊維に沿って薄切りにする。

❷タマネギとみそをボウルに入れて混ぜる。飯べらを使うと混ぜやすい。

❸最初は混ざりにくいが、少し混ぜたら一休みしながらみそを全体になじませる。全体にみそが回ったら、15分に一回くらい、ときどき混ぜる。

❹タマネギがしんなりして、みそがトロッとしてきたら、最後にひと混ぜして終了。

❺そのままでもよいが、ザルに入れてボウルにのせ、冷蔵庫で一晩水切りすると、保存しやすい。

出来上がり
保存は冷蔵庫で2週間程度。
長期保存は冷凍庫で。
作りおきで超便利!「タマネギみそ」アレンジレシピ
焼き魚のちゃんちゃん焼き風

【材料】(1人分)
焼き魚(※)…1切 ※魚はサケ、アジ、ニシンなどお好みで
タマネギみそ…大さじ1、みりん…小さじ1、バター…大さじ1
【作り方】
❶フライパンにタマネギみそ、みりん、バターを入れ、火にかける。
❷バターが溶けて全体が混ざったら、焼き魚を加える。
❸ソースが絡んで、魚が温まったら完成。
厚揚げのタマネギみそ田楽

【材料】(1人分)
生揚げ…1丁、タマネギみそ…大さじ山盛り2
七味唐辛子…適量
【作り方】
❶生揚げを食べやすい大きさに切り、タマネギみそをのせる。
❷オーブントースターでこんがりと焼き上げる。
❸お好みで七味唐辛子を振る。