解説者のプロフィール

小泉幸道(こいずみ・ゆきみち)
東京農業大学名誉教授。
1973年、東京農業大学農学部醸造学科卒業。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行う。87年日本缶詰協会逸見賞受賞。2001年及び09年に日本農芸化学会論文賞受賞。14年北海道地方発明表彰発明協会会長奨励賞受賞。テレビや雑誌などで「お酢博士」として活躍中。
我が家では貝のみそ汁に必ず酢を入れる
昔の日本人の食生活は、非常に質素でした。それでも健康でいられたのは、みそ汁のおかげといわれています。
みそ汁の材料であるみそは、大豆に、麹と塩を合わせて発酵させた、栄養価の高い発酵食品です。
みそが調味料として使われ始めたのは、紀元前1世紀ごろ、みそ汁が一般に普及したのは室町時代といわれます。江戸時代になると、みそは毎日の食卓に不可欠な食品となりました。
みそ料理の代表であるみそ汁は、具を変えることで、毎日食べても飽きません。また、具だくさんにすれば、りっぱなおかずの一品となります。
最近では、みそ汁に酢を入れて、「酢みそ汁」にして飲む人が増えているようです。
我が家でも、アサリやシジミのみそ汁を作るときは、必ず酢を入れます。作り方は下の図解をご覧ください。酢は種類によって酸味が異なるので、味を見ながら調節しましょう。
酢にも、さまざまな健康効果があります。
まず、血圧を下げる作用です。酢の主成分である酢酸は、血圧を上げるレニン・アンジオテンシン系というホルモンの調節機構を、緩やかに抑えます。
ほかにも内臓脂肪を減少させたり、血糖値の上昇を抑制したり、疲労回復を促進したりするなどの効果があります。
脳卒中や心筋梗塞が心配な人に最適の食養生
今回注目したいのは、食材からカルシウムを溶出させ、吸収を促す酢の作用です。
高齢者がちょっとしたことで骨折し、そのまま寝たきりになるという話をよく耳にします。
『壮快』読者のなかにも、気にしているかたが多いのではないでしょうか。
そこで、骨の材料となるカルシウムを食材から引き出し、さらに体内への吸収を促進する酢を、ぜひ活用してほしいと思います。
カルシウムには、骨を強くする働きのほかに、動脈硬化を予防したり、イライラを解消したりする役割があります。私たちの体にとって、必要不可欠なミネラルです。
そこでお勧めしたいのが、アサリやシジミなどを具にした酢みそ汁です。
酢を入れた水で殻つきの貝を煮ると、殻に含まれるカルシウムが酢の成分と結びついて、煮汁に溶け出します。酢を入れずに煮た場合と比べると、3倍以上ものカルシウムが溶け出すことがわかりました。
つまり、貝を入れた酢みそ汁を飲むと、カルシウムを効率よく摂取できるのです。
酢の健康効果は、「1日大さじ1〜2杯(15〜30㎖)を、継続してとることで得られる」というデータがあります。高血圧の人に、酢を含んだ飲料を毎日とってもらった研究結果です。
血圧の推移を記録したところ、最初の2週間で、早くも血圧の降下が見られました。ところが、飲用をやめると、血圧はまた上がってしまいました。ですから、毎日大さじ1杯程度の酢を、継続してとることが大切なのです。
酢みそ汁なら、1日2杯飲めば、大さじ1杯の酢を摂取できます。朝晩のみそ汁に酢を入れる習慣をつければ、無理なく健康増進ができるわけです。
ここで、みその効果についても触れておきましょう。
みそは、種類によって多少の差はありますが、14〜19%をたんぱく質が占めています。さらに、そのたんぱく質を構成するアミノ酸は、リジンやロイシンといった必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)が多く含まれます。
また、発酵の過程で生じるリン脂質の一種、レシチンは、高血圧の予防に効果があります。同様に生じるリノール酸は、心臓や脳の毛細血管を丈夫にします。脳卒中や心筋梗塞など、血管系の疾患が心配な人には、酢みそ汁が最適の食養生です。
さらに1981年、国立がんセンター研究所の平山雄博士によって発表された「みそ汁を飲む頻度と胃ガンの死亡率との関係」という調査では、みそ汁を摂取する頻度が高くなるほど、胃ガンの死亡率が低いことが判明。特に男性では、みそ汁を全く飲まない人の死亡率は、毎日飲む人に比べて50%も高くなるというものでした。
そのほかの研究でも、心筋梗塞、肝硬変などで同様の傾向が見られます。また、コレステロールの抑制、老化防止、美肌効果、消化促進などの効用も報告されています。
発酵食品は、体に有益な食べ物なので、日常の食事に積極的に取り入れたいものです。「発酵食品×発酵食品」である酢みそ汁を食べて、健康な毎日を送りましょう。
貝入り「酢みそ汁」の作り方

【材料】(2人分)
シジミやアサリなどの貝…100g
水…400ml
酢…大さじ1
みそ…小さじ4

【作り方】
❶鍋に水と酢、貝を入れ、沸騰したら弱火で8分煮る。

❷火を止めて、みそを溶き入れたら出来上がり。