解説者のプロフィール

山田知生(やまだ・ともお)
スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター、同大学アスレチックトレーナー。
1966年、東京都生まれ。プロスキーヤーとして活動後、アメリカ・ブリッジウォーター州立大学でアスレチックトレーニングを学ぶ。卒業後、サンノゼ州立大学大学院でスポーツ医学とスポーツマネジメントの修士号を取得。2002年よりスタンフォード大学アスレチックトレーナーに。著書に『スタンフォード式 疲れない体』(サンマーク出版)がある。
久しぶりに帰国してビックリ日本は砂糖と塩を使いすぎ
私は、米国西海岸にあるスタンフォード大学で、15年以上、医局のアソシエイトディレクター、アスレチックトレーナーを務めています。
スタンフォード大学というと、頭のいい大学という印象があるかもしれませんが、実はスポーツでも名門です。リオ五輪では学生がメダルを27個取得し、水泳、野球、バスケットボールなど、超一流の選手が揃っています。
私はこの大学で、選手のケガの予防、疲れの予防を担当しており、ケガの手当て、リハビリ、疲労がたまった選手の体のケアといったメンテナンスも行っています。
疲れない体を作るためには食事も重要で、2015年にはアスリート専門の食事施設も開設されました。
一方、今回、久々に帰国して驚いたのは、日本で普通に食事をすると、アスリートのための食事とは真逆で、疲労をためてしまう食事が多いということでした。
特に気になったのは、砂糖があふれかえっていることです。和食の煮物や和え物に砂糖は欠かせません。和菓子をはじめ、おやつにも摂取許容量を超えた砂糖が使われています。お米をよく食べるので、糖質(炭水化物)の摂取も多いですね。
糖質を許容量以上に摂取すると、ビタミンを消費し、血糖値を急激に上昇させ、体が疲れやすくなってしまいます。さらに、漬け物やみそ汁などの伝統食は塩分が多く、胃に負担をかけます。揚げ物も消化するのに内臓が疲れてしまうでしょう。
そこで、疲れない体を作るために何を食べるのがよいか、スタンフォード式の食事スタイルをご紹介したいと思います。
■2016年リオ五輪では27個のメダル獲得

スタンフォード大学1校で、金メダル14個、銀メダル7個、銅メダル6個と、大国並みのメダルラッシュ!
スタンフォードでは「朝食抜き」は厳禁
私は、日頃から選手たちに、朝食は抜いていないか、何を食べたかを報告してもらっています。なぜなら、朝食に何を食べるかが、1日のパフォーマンスや疲れぐあいに大きく影響するからです。
朝食を抜くことで恐いのは、「血糖値スパイク」です。
朝食を抜いて、空腹のあと大量にランチを食べると、血糖値が極端に急上昇し、その後、急降下します。これが血糖値スパイクと呼ばれる現象で、眠気や疲労のもとになってしまいます。さらに、血糖値スパイクは、糖尿病や心臓病につながる可能性も指摘されています。
そのためチーム内では朝食抜きを厳禁にしています。そこで、何を食べるか、いつ食べるか、どう食べるか──疲れない体を作るために、次のように管理しています。
スタンフォード大学の選手たちは、朝5時45分くらいに起きて、エナジーバー(シリアル・果物・野菜・大豆などを原料にしたバーの形をした機能性食品)を食べて、6時から練習します。そして8時からビュッフェで朝食を取り、授業へ。
ランチは自由ですが、何を買って食べたかは、カードの記録に残るしくみになっています。ナッツやバーは、間食として自由に食べていいのですが、カードによって何個食べたかがわかるよう管理されています。
15時30分から18時まで練習があり、練習後はすぐに、プロテインシェイクを飲んで、タンパク質と糖分を補給してもらいます。そして18時30分からビュッフェで夕食です。
■血糖値の乱高下をいかに抑えるかが大事

朝食を抜くと、その後の食事で血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」を招く。これが眠気や疲労のもとになる
食べてほしいものから並べるビュッフェのレイアウトの知恵
日本でビュッフェというと「ごちそうが食べ放題」というイメージがありますが、スタンフォードの選手たちのビュッフェは、「シンプルでヘルシー」が基本です。
また、ビュッフェのレイアウトも綿密に考えられています。
皆さんも、ビュッフェで食べるとき、サラダが手前に並んでいることが多いのではないでしょうか。
例えば、夕食の場合、スタンフォード大学のビュッフェでは、食べてほしいものから誘導するため、まずは「サラダ」から並べています。
その次に「豆類」。そして「主菜」のトリ肉やビーフ、魚が並びます。
サラダと主菜でお皿の大部分の面積が埋まるため、炭水化物を乗せられるスペースはあまりありません。
炭水化物を先に食べてしまうと、血糖値スパイクのリスクがあるため、炭水化物は奥まった場所に、パスタ、玄米や雑穀(できるだけ色のついたライス)、パン(全粒粉)の順に並べており、最初に炭水化物を摂らないよう工夫しています。
ちなみに、1日の食事の中で、タンパク質と炭水化物の割合は、3対1がスタンフォードの原則です。
朝食は、サラダ、無糖ヨーグルト、たまごやベーコン、できるだけ少量のポテトの順に並べて、やはり炭水化物は最後に少しだけが基本です。
とはいえ、学生たちが部屋でこっそりお菓子を食べていることも。女子はまじめですが、男子は食事の規則を守らない選手もいます。そんなときはコーチに報告し、オーバーしたカロリーを消費するため、練習時間を長くする場合もあります。

スタンフォード大の選手は、朝と晩の2食がビュッフェ。食べてほしいもの順にレイアウトされていて、筆頭はサラダ、そして豆類、主菜と続く
「スタンフォード式食事術」の4つの鉄則
疲れない体を作るための食べる順番は、サラダ(ビタミン、ミネラル)、肉や魚(タンパク質)、ご飯・パン・パスタ・いも類など(炭水化物)です。
特にトリ胸肉は、鳥がずっと飛んでいても疲れない物質(イミダペプチド)が含まれていることから、疲労回復に最適なのです。
トリ肉では、胸肉のほかにも、脂肪分が少ないささみもお勧めです。
また、赤身肉もOKで、疲労回復のアミノ酸として知られるL‐カルニチンが豊富です。
低カロリー、高タンパクの白身魚も、主食にはいいでしょう。
間食をするなら、お菓子ではなく、ナッツやフルーツを選びましょう。
ナッツは、塩をまぶした落花生ではなく、クルミ、ピスタチオ、アーモンド、カシューナッツなどを。
フルーツは、糖質が多いのですが、疲労回復に役立つビタミンも豊富で、必要です。
日本食はヘルシーと言われていますが、甘辛い味つけの煮物が多く、疲労につながる、砂糖の糖分やしょうゆの塩分が気になります。
また、油で炒めると、油の消化が体に負担をかけることがあります。
そのため、調理法は食材をそのまま蒸したり、薄く下味をつけてからゆでたりするのがお勧めです。
ただし、野菜はゆでると栄養分がなくなるので、ほんの30秒ほど、さっとゆでるのが基本です。
焼くときは、テフロン加工のフライパンなどで油を使わずに焼くといいでしょう。
また、疲れを呼び込まないためには、どの食事も腹八分目までにするのも鉄則です。満腹まで食べてしまうと、消化に時間がかかり、日中の倦怠感を誘発しています。ただし、空腹は避けたいので、「鉄則①」の間食をすることで、空腹から暴食してしまうのを防いでください。
野菜には、疲労回復物質を助けるビタミンが豊富で、消化も促進してくれます。
野菜の栄養分をまるごといただくためには、なるべく生のままで食べたいものです。できるだけ無農薬のものを選ぶと、さっと洗うだけで安心して食べられます。
アメリカでは、ブロッコリーやカリフラワー、マッシュルーム、カボチャ、ホウレンソウなども生のままで食べます。
また、サラダには、ドレッシングをかけすぎないこともポイント。
最初にサラダ全体にドバッとかけるのではなく、食べるたびにその上に少しずつかけるようにすると、取りすぎることがなくなります。
砂糖が含まれるドレッシングは、かけないにこしたことはないのですが、サラダをモリモリ食べてもらうために、少量のドレッシングは許容範囲にしています。
炭水化物は必要な栄養素ですが、日本人は炭水化物の摂取量が多いため、少なめを意識したほうがいいと思います。
炭水化物は、白いものではなく、茶色いものを選ぶようにすると、栄養価がアップします。精製された小麦粉でできたパンや白米よりも、ライ麦パンや玄米といった茶色いものがお勧めです。
サラダに雑穀を入れるのもいいでしょう。雑穀は食物繊維とビタミンが豊富で、血糖値の上昇を抑え、内臓疲労を解消してくれます。キヌア、キビ、アマランサス、ヒエなどを積極的に取り入れてみてください。
試合があるときは、その時間に最高のパフォーマンスを出せるよう、逆算して食事を考えることも必要です。試合前に空腹はダメですが、「消化に時間がかかるものを食べない」、血糖値スパイクを起こさないために「炭水化物から食べない」などを注意しましょう。
「スタンフォード式食事術」を体感できるレシピ
実は、私は学生時代から料理が趣味で、今でも旅先で時間があると、半日程度の料理教室に参加するようにしています。
ここでは、上に説明した「スタンフォード式食事術の鉄則」を体感していただけるように、私の定番レシピをご紹介します。
私は、選手が100%のパフォーマンスを発揮できるよう、「疲れない食事術」を目指しているのですが、スポーツに限らず、仕事や習い事でも「100%のパフォーマンスを発揮できるように」という願いは、誰でも同じだと思います。ぜひ、上の料理をお試しになって、体の負担度を確かめてみてください。
そして、ここで紹介した私の話が、皆さんが買い物に行った際、食品のラベルを確認する、加工食材を吟味する、揚げ物や炭水化物中心の食事を見直す、和食の濃い味つけに慣れていることを自覚する、などにつながることを願っています。
スタンフォード大・山田先生の定番!

【材料】(2人分)
トリの胸肉…1枚、バルサミコ酢…大さじ2
オリーブオイル…大さじ1
ニンニク…1片、タマネギ…1/2個
玄米…1カップ、コンソメスープ…2カップ
白ワイン…大さじ4、塩・コショウ…各少々
イタリアンパセリ…2枝、プチトマト…4個
パルミジャーノチーズ…大さじ2
ルッコラ…1束
オリーブオイル…大さじ1、塩・コショウ…各少々
【作り方】
❶菜箸などでトリの胸肉にまんべんなく穴を開け、バルサミコ酢をかける
❷大きめの鍋にお湯を沸騰させ、沸騰したら火を止める
❸①をファスナー付きのプラスチック袋に入れて、ストローなどで中の空気をなるべく抜いてチャックを閉じ、②に入れそのまま20分湯せんする

❹フライパンにオリーブオイルを入れ、火にかけ温める
❺④に潰したニンニクを入れ、香りを出す
❻タマネギのみじん切りを入れる
❼玄米を入れる
❽コンソメスープを入れる
❾塩、コショウ、白ワインを入れる
❿ふたをして20分煮て火を止める

⓫③のトリの胸肉を袋から出し、スライスして、⑩のふたを開けて上に載せる
⓬ざく切りにしたイタリアンパセリをふる
⓭パルミジャーノチーズをふる
⓮プチトマトを半分に切って載せる
⓯全体をざっくり混ぜる

⓰皿にまず玄米だけ盛り付ける
⓱その上にトリ肉を盛る
⓲オリーブオイル、塩、コショウをまぶしたルッコラをいちばん上に載せてできあがり

食べるときは、上から食べる。ルッコラ、トリ肉、玄米のリゾットの順