解説者のプロフィール

横井伸幸(よこい・のぶゆき)
●横井接骨院
愛知県豊明市前後町善江1735 パルネス1号館
0562-98-3210
https://balancelab.jimdo.com/
横井接骨院院長。
柔道整復師。平成8年に開業。痛みの原因は体のねじれによる無意識のつっぱりや、脳から筋肉を動かす命令がうまく働いていないと考え、さまざまな手法を学び、短時間で全体的な体のねじれを調節する「軸ピタ療法」を施術に活用している。
腰が引けた姿勢からねじれが始まる
私はいつも、患者さんに「姿勢を正す必要はありません。むしろ、らくな姿勢で過ごしてください」と言っています。
一般には、腰やひざ、股関節などに痛みが出ると、姿勢の悪さが問題視されます。
しかし、無理に姿勢を正したところで、それを維持するのは難しく、すぐに元の姿勢に戻ってしまいます。なぜなら、姿勢が悪くなるのは、その人の体がそうならざるを得ない状態になっているからです。
ここで、痛みが出るメカニズムについて、説明しましょう。
私は、痛みの原因の多くは、体のねじれにあると考えています。疲れやストレスがあると、内臓が疲れます。すると人の体は内臓を守ろうとして、どうしても前屈みになります。
同時に、加齢や運動不足、冷暖房完備の快適な環境で暮らしていることで、外の環境に耐えられず、体内に熱がこもりやすくなる人も多くいます。それもまた、前屈みの原因の一つです。
前屈みの姿勢になると、おなかの奥深くにある筋肉などがうまく使えなくなります。すると、腰が後ろに引けてしまうのです(へっぴり腰)。
腰が引けると、大腿部にねじれが生じます。それを修正するために、今度は下腿がねじれ、ひざがねじれ、足首がねじれていく……といった具合に、体がどんどんいびつになっていくのです。
体がねじれると、動かせる範囲が狭くなるため、どうしても同じところばかりを使わざるを得なくなり、負担が1ヵ所に集中するようになります。
そして、痛みが出るようになると、今度はそれをかばって、ほかの部位に負担が行くようになります。その部位も疲れてくると、今度は、負担を骨で受け止めようとします。その結果、骨の変形が起こり、さらに痛みへとつながっていき、負の連鎖が起こるのです。
ねじれを取るだけで体は本来の形に戻る
ねじれた状態で姿勢を正しても、負荷が増強されて、さらにねじれがひどくなっていくだけです。らくな姿勢=負荷が少ないということですから、むしろ無理に姿勢を正さないほうが得策なのです。
とはいえ、痛みを放置しておくわけにはいきません。では、どうすればよいのでしょうか。答えは簡単です。体のねじれを取ってあげればよいのです。
ねじれが取れれば、動かせる範囲が広くなるので、1ヵ所に集中していた負荷が分散されます。また、ねじれがないと、らくに正しい姿勢がとれるようになり、同時に大腰筋もうまく使えるようになるでしょう。
つまり、ねじれを取るだけで、その人の自然治癒力によって体が本来の形に戻り、痛みを軽減していくことができるのです。
その、ねじれを取って動きやすくする手法が、「軸ピタ体操」です。普段は私が治療として行っているものですが、今回は皆さんが自宅でできる、ごく簡単で効果のある体操を二つ紹介しましょう(やり方は下記を参照)。
一つめは、股関節周辺の疲れを取る体操です。イスに浅めに座って、痛いほうの足を反対の足に乗せるだけ。これで、奥のほうにある筋肉の疲れを取ることができます。
二つめは、ねじれを取る体操です。床に座ってかかとを突き出し、上半身をほんの少し前に傾け、足先を倒します。
「軸ピタ」体操のやり方
その① 股関節の疲れを取る体操

❶イスに浅めに座り、両足をらくにして、軽く伸ばす。

❷股関節が痛むほうの足を、反対の足首の上に乗せてだらりと力を抜き、そのまま30秒静止する。
❸これを1日2〜3回行う。

ココがポイント!
・痛いほうの足を内側に持ってくるのがつらい場合は、反対側の足を、痛いほうの足首の下に入れるとやりやすい。
・②のとき、股関節に痛みを感じる場合は、時間を短くするか、上体を起こすか、もしくはひざを軽く曲げるとよい。

・よいほうの足は、やってもやらなくてもOK。
・あおむけに寝た状態で行ってもよい。その場合は、背中の下に座布団などを入れて、腰の負担を減らすとよい。
・首が反る場合は、枕などで頭を補助するとよい。
その② 体のねじれを取る体操

❶床に座って、左足を伸ばす。右足はらくなところにおく。

❷左ひざ辺りに軽く両手を添えて、上半身をほんの少し(1cm程度)前に傾け、左のかかとを軽く突き出し、さらに小指側に足首をほんの少し(1cm程度)傾ける。そのまま30秒静止する。

❸もう片方の足も同様に行う。
❹これを1日2〜3回行う。
ココがポイント!
・上半身は倒しすぎないよう注意。ストレッチではないので、ふくらはぎと太ももに軽く刺激を感じる程度(物足りないくらい)でOK。
・体操を行った後、立って足踏みして、足が軽くなっていればねじれが取れた証拠。
歩くのも困難だったが痛みが消え歩ける!
では、症例をご紹介しましょう。
病院で変形性股関節症と診断された75歳の女性は、痛みがかなり強く、歩くのも困難な様子でした。おそらく、整形外科では手術を勧められるレベルに達していたと思います。
しかし、当院での治療とともに、軸ピタ体操を自宅でも実践したところ、今はひょこひょことではありますが、ほぼ不自由なく歩けるようになりました。
ご本人は、「痛いときに軸ピタ体操をやると、らくになる」とおっしゃっています。
ねじれを取ることは、股関節に限らず、腰痛、ひざ痛、足首の痛みなど、すべてにおいてよい結果をもたらします。
「姿勢を正しましょう」「前屈みになるような生活習慣を改めましょう」と言われても、なかなかできることではありませんし、体がゆがんだままそれをやっても、ますますゆがみが強くなるだけです。
それよりも、簡単にできる軸ピタ体操で、日々、ねじれを取ることをお勧めします。