解説者のプロフィール

大谷内輝夫(おおやち・てるお)
●ゆうき指圧
大阪府大阪市住吉区我孫子1-2-4
TEL 06-6607-1013
http://www.yukishiatsuseitai.com/
ゆうき指圧院長。
1953年生まれ。「ひざ、股関節の治療では日本でいちばん信頼される人になりたい」という志を胸に、日々、ゆうきプログラムの研究や指導に当たっている。現在、ゆうきプログラムは400種類を超え、患者さん一人一人に合わせた療法を組み合わせて指導している。著書に『股関節痛の94%に効いた!奇跡の自力療法』(マキノ出版)などがある。
手術か痛みに耐えるかの二者択一ではない!
変形性股関節症と診断され、痛みや歩行困難が激しくなってきたら、整形外科では人工股関節の置換手術を勧めるのが、一般的です。
しかし、「できることなら手術は回避したい」というかたも少なくないのも事実です。
仕事や育児、介護などで、今は時間が取れない。人工股関節には耐用年数があり、年齢が若いと再手術を覚悟しなくてはならない。手術自体が怖い……。理由はさまざまだと思います。
とはいえ、歩くのもつらいと、通常の社会生活を送るのも困難です。毎日痛みに耐えていたのでは、人生を楽しむこともできないでしょう。
手術をしない患者さんに、病院がすることといえば、鎮痛剤を処方する程度です。筋肉をつける運動を勧める医師もいますが、効果は疑問です。
結局、手術をするか、痛みに耐えるか。そんな状況の中で、なすすべもなく苦しんでいるかたが多いのではないでしょうか。
そこでお勧めするのが、私が開発した運動療法「ゆうきプログラム」です。
最初に断っておきますと、ゆうきプログラムは、変形性股関節症を「治す」ものではありません。股関節に痛みが出るに至った体の使い方の癖を直し、今ある機能を最大限に利用できるようにする運動療法です。
世界で最も権威のある機関も認める保存療法
痛みが和らいで、歩行に困難がなくなって、普通の社会生活が送れるようになれば、患者さんが抱える問題の大部分は解決するはずです。
「手術を先延ばしにするための、猶予期間をつくる運動」と捉えてもよいでしょう。あわよくば、寿命を迎えるそのときまで、手術を回避できる可能性だって、大いにあるのです。
ゆうきプログラムは、多くの専門家に正式に認められている療法です。
福岡和白病院関節症センター長の林和生先生、佐久市立国保浅間総合病院整形外科部長の角田俊治先生等の多数の医師が、ゆうきプログラムの有効性を認め、治療に採用してくださっています。
林先生からは、「ゆうきプログラムを取り入れてから、手術適応の患者さんの7〜8割で、とりあえず手術を回避することができた」というお墨付きをいただいています。
また、林先生および、同病院リハビリテーション科の理学療法士・春口幸太郎先生とは、共同研究を行い、2015年の世界変形性関節症会議(本部アメリカ)で、ゆうきプログラムの成果が高い評価を受けました。
世界変形性関節症会議は、変形性股関節症の保存療法に関して、世界で最も権威のある機関です。
そしてもう一つ、私の自信の根拠は、なんといっても、患者さんたちの反応です。
痛みが消えた、杖が不要になった!
ゆうきプログラムがスタートして35年。これまでに実践してもらった変形性股関節症の患者さんは、延べ24000人に上ります。
最初にやり方を指導した後は、自宅で実践してもらうので、患者さんの当院への来院は数ヵ月に一度。そして、2年で7~8回の来院が平均です。
その間の継続率は94%。改善が見られたかたが継続しているので、この数字はそのまま改善率と考えています。
ゆうきプログラムで痛みが消えた、杖が不要になったという声も、枚挙にいとまがありません。
手術適応と整形外科で言われ続けている人でも、手術をせずに痛みと無縁で過ごせている人もたくさんいます。延期を含め、とりあえず手術が回避できた人は、7〜8割に上っています。
ここまで言っておきながら、実は、私は手術を否定はしていません。むしろ、条件さえ整えば、手術は得策だと考えていますし、なかには、手術をしなければ、よくならないケースもあると断言もしています。
名医にかかれば、社会復帰までにかかる期間も短くて済み、再手術なしで何十年と過ごすことも不可能ではありません。
ですから、当院では信頼できる医師と提携し、下記の表の基準に該当する人には、手術を勧めています。
ゆうきプログラムは、術前・術後のリハビリとしても、とても有効です。手術を勧めたかたが、術後にまた当院に戻ってきてくださるのも、ゆうきプログラムの効果を実感している証でしょう。術後の回復も、飛躍的に早くなります。まずは実践してみてください。
大谷内輝夫先生の
手術をすべきか?温存するか?の判断基準
① 左右の足の長さが3cm以上の差がある(見かけ上の脚長差)
② 太ももの周囲が4cm以上の左右差がある
③ 立って、ひざが17cm以上持ち上がらない
④ 足が肩幅より開かない
⑤ 正座の姿勢でお辞儀ができない
⑥ 床に落としたものが拾いにくくなった
⑦ 杖をついても15分以上歩けなくなった
⑧ 痛み止めを服用しても痛みが取れない
⑨ 腰痛が激しくなった
以上、①~⑨の症状があるかたで、ゆうきプログラムを1ヵ月行っても少しも改善しない場合は、手術を勧めている。
骨と骨とを結びつける靭帯と関節包に着眼
ゆうきプログラムが、痛みの改善に高い効果を上げている理由。それは、一般に言われている「痛みのメカニズム」とは異なる、新しい発想から生み出した運動療法だからです。
変形性股関節症の痛みのメカニズムとしてよく言われているのは、「軟骨がすり減って、骨と骨がぶつかるから痛む」という説です。
しかし、患者さんに聞くと、痛むときもあれば、らくなときもあるといいます。もし骨が原因なら、四六時中、痛いはずです。骨だけに痛みの原因があるとは、どうしても私は考えられませんでした。
では、筋肉が原因でしょうか? 一般には「股関節痛の改善には、周辺の筋肉を鍛えましょう」と言われます。
確かに、股関節周辺の筋肉をほぐし、鍛えると、痛みは和らぎます。しかし、その改善度合いは人によってまちまちです。
そこで思い至ったのが、靭帯です。そもそも関節内で骨と骨を結びつけ、関節を制御しているのは、筋肉ではなく靭帯です。関節の可動域が狭くなったり動きが悪くなったりすると、当然、靭帯と、関節を包む組織である関節包(関節を包んでいる柔軟性のある袋状の組織)が拘縮します。
靭帯と筋肉は連動しているので、筋肉をほぐすことも、もちろん重要です。しかし、筋肉より前に靭帯をほぐさなければ、痛みの解決にはならないのではないでしょうか。
つまり、私が考える痛みのメカニズムはこうです。
股関節の骨の変形が進み、動きが悪くなると、靭帯と関節包が緊張します。靭帯が拘縮して体のバランスがくずれると、筋肉の荷重点(力がかかる場所)が本来の場所からずれてしまいます。
加えて、関節を曲げるときに働く筋肉(屈筋)、伸ばすときに働く筋肉(伸筋)、横や斜めの動きを担う筋肉(斜交筋)の、それぞれの力のバランスに差が生じます。その結果、特定の筋肉に負担がかかり、靭帯や関節包がますます拘縮して、痛みが生じるのです。
■股関節周囲の4つの靭帯
*靭帯は骨と骨をつなぐコラーゲン線維の束で、関節を固定するとともに、関節の運動を制限している。

❶腸骨大腿靭帯
腸骨と大腿骨を結ぶ、体の中で最も強靭な靭帯。股関節の伸展(上がった太ももを下げたり、後方に反らす)、外転(足を開く)、内転(足を閉じる)、外旋(足を外側に回す)を制限する靭帯
❷恥骨大腿靭帯
恥骨と大腿骨を結び、股関節の伸展、外転、外旋を制限する靭帯。特に外転を制限
❸座骨大腿靭帯
座骨と大腿骨を結び、股関節の伸展と内転、内旋(足を内側に回す)を制限する靭帯
❹大腿骨頭靭帯
大腿骨頭と寛骨臼を結び、股関節の内転を制限する靭帯
四つのアプローチで改善率が94%にアップ
この考えに基づき、ゆうきプログラムは次の四つのカテゴリーで構成されています。
①荷重点調整法
荷重点のずれを調整し、本来の場所に戻す運動
②筋力間バランス法
力が強すぎる筋肉は弱くし、弱すぎる筋肉は強くして、屈筋、伸筋、斜交筋の力のバランスを正す運動
③関節腔拡大法
変形でいびつになった関節腔(骨と骨のすき間)を広げる運動
④靭帯調節法
関節の変形で拘縮した靭帯・関節包をほぐす運動
この新発想のアプローチにより、改善率はなんと94%にまで上昇したのです。
なお、ゆうきプログラムでは、スクワットのような筋力強化やウオーキングは、一切行いません。これらはかえって軟骨をすり減らす運動だからです。
現在400種類以上あるゆうきプログラムは、患者さんに「何をすればらくになるか」を聞いて考え出したものばかり。そのため、痛みを伴うエクササイズではなく、誰もが簡単に、自宅で安全に行えるセルフケアであることも大きな特徴です。
痛みの緩和や可動性の改善に即効性がある
今回は、数あるゆうきプログラムの中から、痛みを緩和したり、動きをスムーズにしたりするのに即効性のある、五つの体操をご紹介します。
■足の横上げは、股関節全体の痛みを和らげる体操です。大腿筋膜張筋を鍛えて骨盤を安定させ、筋力バランスを正し、荷重点を本来の位置に戻すのに役立ちます。
■内回り・外回りは、大転子周辺のこわばりを取り、股関節周辺の靭帯をほぐす体操です。膝蓋骨の可動域を拡大し、股関節痛に伴うひざ痛も改善します。
■イスに座ってつま先固定の8の字ゆらしは、拘縮した靭帯をほぐす体操です。それによって、そけい部と大転子周辺の痛みが和らぎます。
■ひざ下を通して関節腔をあける体操は、強くなりすぎた内転筋の筋力をゆるめて、筋力バランスを整えます。また、関節腔を広げて滑液の循環を高めたり、可動域を拡大して大転子周辺の痛みを緩和します。
■イルカ体操は、クールダウンの体操です。全身を柔軟にし、変形性股関節症の人に多い、背中の緊張をほぐし、腰痛や臀部痛を緩和します。
これらの体操は、すでに股関節の手術を受けられた人が、もう片方の股関節を悪くしないために行うのも非常に有効です。行うときは、下記の注意事項を厳守してください。
股関節痛が消えて歩きやすくなる!「ゆうきプログラム」のやり方
注意点
❶ 運動中に痛みやしびれが発生した場合は、すぐに中止する。
❷ 体調の悪い日は行わないこと。
❸ 股関節周囲に痛みや熱感、腫れがある場合は、無理して行う必要はない。
❹ 記載した回数以上は、絶対に行わないこと。
❺ 運動を行っていいかどうか分からない場合は、必ず医師に相談すること。
ゆうきプログラムの運動法は現在400種類以上あります。
今回は、その中でも股関節の痛みに特に有効な、基本的な運動となる5つをご紹介します。
いずれの体操も、上記の注意事項を守って、指定の回数を行ってください。
その① 足の横上げ
不安定な骨盤をしっかり安定させる筋肉をつけて、股関節全体の痛みを和らげる体操

❶右足を上にして、横向きに寝る。

❷右足を腰の高さに上げ、まっすぐ伸ばした右足の内くるぶしの下に、枕や本を置く。
右足と床が平行になるように、枕や本の厚さを調節する。左足は軽く曲げ、らくにする。

❸右足の親指を自分の顔のほうに向け、そのまま15秒静止した後、足指の力を抜く。これを15回くり返す。
❹反対側の足も同様に行う。

ココがポイント!
・大腿筋膜張筋を鍛えて骨盤を安定させ、股関節全体の痛みを和らげる体操。
・足先を顔のほうに向けるとき、かかとを突き出さない。かかとを突き出すと腰痛を起こすことがあるので注意。
・足先を顔のほうに向けるとき、股関節からポキポキ音がする場合は、一時中止する。
・逆に、ポキポキと音がしない場合は、②の上の足の位置を5~10度ほど前に出して行うと効果的(右の写真参照)。
その② 内回り・外回り
膝蓋骨の可動域を広げ、大転子周辺のこわばりを取る体操

❶うつぶせに寝る。

❷左ひざを90度に曲げる。

❸ひざを支点にして、かかとで小さな円を描くように内回りに20回回す。同じように、外回りにも20回回す。
❹反対側の足も同様に行う。

ココがポイント!
・大転子の周囲の筋肉や靱帯、関節包の拘縮や可動域の制限が解消されやすい。
・股関節痛の人は大きく回そうとせず、必ず小さく回すこと。小さく回すほうが、大転子周囲をほぐす効果が大!
その③ イスに座ってつま先固定の8の字ゆらし
下半身の全体の可動域を広げ、そけい部(足のつけ根)と大転子周囲の痛みを和らげる体操

❶やや座面の高いイスに座り、つま先は床につけて、かかとは上げる。

❷かかとを上下させることで、ひざで8の字を描くように動かす。
①縦8の字、②逆から縦8の字、③横8の字、④逆から横8の字、の4種類の8の字を描く。

縦8の字は「Z」、逆縦8の時は「逆Z」をイメージし、横8の字は「い」、逆横8の時は「逆い」をイメージして、順に、各15回動かす。

ココがポイント!
・下肢全体の靭帯や関節包の拘縮をほぐして、可動域を広げる運動。また、外転筋や内転筋の柔軟性も高めて、股関節がより開きやすくなる。
・股関節よりひざが高くならないよう、やや座面の高いイスを使う。座布団などで座面を調整してもよい。
・脚力に自信がない人は、両手を太ももに添えて、片足ずつ行ってもかまわない。
その④ ひざ下を通して関節腔をあける体操
大転子周辺の痛みの緩和し、強くなりすぎた内転筋の筋力をゆるめる体操

❶あおむけになり、左ひざを曲げて右ひざの下に通す。

❷左の足首にタオルをかける。

❸お尻のほうにゆっくり引き上げるように引っ張る。そのまま10秒静止。これを4回くり返す。
❹反対側の足も同様に行う。
ココがポイント!
・大転子周辺の痛みを緩和する。また、強くなりすぎた内転筋の筋力をゆるめる。
・4回以上は行わないこと。
・関節唇損傷の人、各種の股関節手術を受けられた人、リウマチ、急速破壊性関節炎の人は行う前に必ず医師に相談してから行うこと。
・運動中、股関節に違和感や痛み、不安感が生じた場合は、すぐに中止する。
その⑤ イルカ体操
全身の柔軟性を高め、腰痛や臀部(お尻)痛を和らげる体操

❶あおむけに寝て、両足をそろえて、軽くひざを曲げ(約150度)、足裏は床につける。

❷両手を真横に広げベッドなどから落ちないようにする。


❸ひざをそろえたまま、腰と背中を中心に左右交互に、できるだけ大きくうねるように倒す。10秒間行う。
ココがポイント!
・変形性股関節症の患者さんは、片方の足を体全体で引き上げるように歩くため、腰や背中の筋肉が緊張しているので、それをほぐす体操。腰や背中の筋肉を軟らかくほぐし、腰痛を防止する。
・左右に体を揺らすスピードは、気持ちよく感じる程度に自分で調整する。
・腰に違和感が生じた場合は、すぐに中止する。