歩くたびに股関節からギィギィ音がした
私がキアリ骨盤骨切り術(以下、キアリ手術)を受けたのは、6年前の55歳のときです。
その10年ほど前から、左の股関節に痛みを感じるようになり、しだいに、足を引きずらなければ歩けなくなりました。
さまざまな病院の整形外科を受診しましたが、どこに行っても「末期の変形性股関節症です。人工関節の手術をするしか治る方法はありません」と言われました。
人工関節にすると、正座が制限されると聞いて、普通の生活を送りたい私は、どうしてもそれがいやで、痛みを我慢したのです。
そのうち、歩くときは左右に大きくギッタンバッタンと横揺れするようにしか歩けなくなり、近所の人もあまりに気の毒に思ったのか、私に声をかけるのもはばかられるようでした。
歩くたびに、左の股関節から「ギィィ……ギィィ」と音がするのがわかります。股関節の痛みは神経に触るほどで、うつにもなりかけましたし、何度となく、下半身を切り取ってほしいと思ったほどです。
そんなあるとき、テレビに井上明生先生が登場し、キアリ手術という関節を温存する手術があること、さらに貧乏ゆすりで軟骨が再生したことなどをお話ししていました。
私はすぐさま、井上先生のいらっしゃる柳川リハビリテーション病院に予約を入れました。
治るのに時間はかかるが軟骨が再生する手術
初めての診察で、私のレントゲン写真を見た井上先生は「よく我慢しましたねえ」と言ってくださいました。そんなことは、誰からも、どの医師からも言われたことがなかったので、涙が止まりませんでした。
井上先生が言うには、キアリ手術は、骨盤を横に切って臼蓋の面積を広げ、体重のかかる面積を広げることで、股関節の負担を軽減する手術だそうです。
病気が初期であれば、年齢を問わずに誰でも適用だそうですが、病期が末期の段階では、適応年齢が60歳以下としているそうです。
ほかの手術と違って、術後に新たに股関節の軟骨を再生させることができるのが、大きなメリットだそうです。
難点は、切った骨がくっついて、軟骨が再生するには患者さんの修復力や術後のリハビリテーションが重要なため、治療に時間がかかるとのことでした。
レントゲンを撮るたびに改善していくのがわかる

こうして期待と覚悟を持って受けたキアリ手術は、当初、期待したほど臼蓋と大腿骨頭との間があかなかったと報告を受けました。ですが、とにかく井上先生を信じきっている私は平気でした。
井上先生からは「CPM(足を持続的にゆらす機械)を3時間やりましょう」と提案があり、看護師さんが2人がかりでその大きな機械を病室に持ってきてくれました。
CPMをやりながら、貧乏ゆすりも行っていたところ、それからは急激に軟骨が再生していったのです。井上先生も、レントゲンを撮るごとに「おっ、あいた!」「またあいた!」と喜んでくださいました。
股関節の痛みがなくなると、人生が変わる。それを実感した1年だったと思います。手術の1年後には、固定していたボルトとワイヤを抜き、今では自分の好きなときに、どこへでも出かけられます。
私に希望をくださった井上先生には、どんなに感謝してもしきれないと思っています。
貧乏ゆすりがキアリ手術の適応を広げた(柳川リハビリテーション病院名誉院長 井上明生)
キアリ手術後、多くの場合は股関節のすき間がすぐあいて、軟骨再生が期待できます。
しかし中には、あかない人がいて、それは常に頭痛の種でした。
白川さんも残念ながら、術後にすき間があかなかったのですが、このとき初めて、CPMを3時間使用することを思いつきました。
そして、骨切り部の骨癒合が確認されてからは、貧乏ゆすりを追加しました。
それからの快進撃は、今でも鮮明に覚えています。4週間ごとにレントゲンを撮るのですが、すき間がその都度広がっていくのです。白川さんと2人、手を取り合って涙したものです。
私にとって同じ症例は一つとしてなく、いつも患者さん一人ひとりが先生です。白川さんのケースでは、キアリ手術の適用が広がるということを教えていただきました。