リスクが高くなる手術を避けたいと思った
会社で外回りの多い部署に異動になったのは、36歳のときでした。その結果、歩くことが増え、右の股関節にズキズキした痛みが出始めたのです。
最初のうちは痛みが出たら、1~2日安静にすることで、症状は治まっていました。外出が必要な仕事を後回しにして、痛みがなくなってからそれらを片付けました。
しかし、痛みは徐々に慢性的なものになりました。股関節に力を入れると激痛が走り、どこかにつかまらないと立ち上がれません。歩くときは右足を引きずるようになり、外回りなどとても無理な状態となりました。
近くの整形外科で見てもらうと、股関節炎との診断。軟骨は摩耗し、大腿骨と臼蓋は削れてギザギザになっていました。
この状態が治ることはなく、人工関節を入れる手術をするしかない、とのこと。その後、大学病院にも行きましたが、やはり診断結果は同じでした。
実は、私はI型糖尿病(自己免疫によって細胞が攻撃されインスリンを分泌できなくなる病気)です。そのため、医師からは「手術は可能だが、通常よりリスクが高くなる」と言われました。
そこで、他に選択肢はないかと自分で調べ、柳川リハビリテーション病院で井上明生先生が指導されている「貧乏ゆすり」を知ったのです。
私の股関節にも効果があるか井上先生に一度診てもらい、適応外なら手術しよう、と私は覚悟を決めました。
実際に病院に行けたのは、その翌年です。その結果、「よくなる可能性はあると思うよ」と力強い言葉をいただくことができました。
ただし、普通の生活を送っていては改善が難しく、「1ヵ月入院して足にかかる負荷をなくし、集中的に貧乏ゆすりをやってみてはどうか」と提案を受けました。私はその勧めに従うことにしたのです。
削れてギザギザだった臼蓋も丸みを帯びていた
入院中は、ずっと車イスで生活し、股関節に負担をかけないようにしました。
一方、貧乏ゆすりは、足を載せるだけで自動でできる機械をメインに利用して行いました。
実は、私は井上先生のところを受診する前に、自動で貧乏ゆすりができる機械を、自費で購入していました。ただ、買ってはみたものの、どのくらい使えばいいのかがわからず、自宅で使用することはほとんどありませんでした。
それとまったく同じ機械が、病院でも使用されていたので、入院中はそれを使って、合間を見つけては、10分間の貧乏ゆすりを12回程度行っていました。トータルすると、1日2時間ほど、ということになるかと思います。
入院中は、松葉杖をつく練習も行いました。股関節への負荷を抑えるために、退院後も半年ほどは、左右とも松葉杖をつくことになったからです。
そんなスケジュールをこなしていたら、1ヵ月はあっという間に過ぎ、退院する日がやってきました。
レントゲンで確認した結果、この1ヵ月の努力は実を結んでいました。軟骨が再生していて、股関節と臼蓋の間にはすき間ができていたのです。削れていた骨も丸みを帯び、元に戻りかけていました。

油断はせず今後も続けていきたい
ただ、その時点では、車イスや両松葉杖を利用しているので、痛みがどうなっているのかまでは、わかりませんでした。でも、ここまでよくなっているならちゃんと治したい、と思いを新たにしたのです。
その後は半年間、松葉杖で過ごし、さらに1年間は右足を杖で支えて過ごしました。
といっても、杖をつくのが面倒に感じ、たまに家に置いていく日もありました。それでも痛みが出ないのを確かめ、徐々に杖なしで過ごす日を増やしていった感じです。
もう大丈夫、と自信がついたのは最近のこと。時間はかかりましたが、痛みと決別し、手術せずにすんだ幸せを今はかみしめています。
退院後も、自宅で貧乏ゆすりの機械を使って、1日に1~2時間は貧乏ゆすりを行っています。痛みがなくなったからといって油断はせず、今後も続けていくつもりです。
貧乏ゆすりの有効性を確信させるレアケース(柳川リハビリテーション病院名誉院長 井上明生)
人工関節手術しかないと思われた末期の股関節の状態から、わずか1ヵ月でこのような結果を出したのは、当院でも初めてです。非常にレアケースですが、私たち専門医もとても驚き、かつ勇気づけられました。
退院の半年後には、MRI(核磁気共鳴画像診断)で、股関節のすき間が軟骨であると確認しました。貧乏ゆすりの有効性を、さらに確信させてくれた症例となりました。