解説者のプロフィール

藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。
1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒業。東京大学医学系大学院修了、医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、東京医科歯科大学名誉教授。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年、寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝搬経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。
便秘、アトピー、疲労にも 効果がある
話題の「発酵タマネギ」を私も食べてみました。生のタマネギよりマイルドで、食感が柔らかく、タマネギ臭もしないので、そのままでもおいしくいただけました。
味に深みが出るのは、発酵の主役である菌のおかげです。菌たちはタマネギの糖分をエサに増え、タマネギの成分を分解します。
この働きで、タマネギのうまみが増したり、においが消えたりするのです。これは味噌やしょうゆ造りと、まったく同じ仕組みです。
ちなみに私が食べたのは、作って3日目の発酵タマネギ。もう数日たてば、さらに乳酸菌が増えて酸味が増すはずです。
発酵タマネギの魅力は、おいしさだけではありません。健康面でも発酵タマネギには、
●糖尿病を改善する
●肥満を改善する
●便秘を改善する
●アレルギーやうつ症状を緩和する
といった、まるで万能薬のような効果を期待できます。
正確に言えば、発酵タマネギを食べて腸内で作られる物質に、優れた健康効果があります。
この物質を「短鎖脂肪酸」といいます。短鎖脂肪酸には、
●インスリンの分泌を促し血糖値が上がるのを抑える(※1)
●脂肪の取り込みを抑える
●腸のぜん動運動を促す
●アレルギーやアトピー、うつや疲労の原因になる体の炎症を抑える
といった働きがあることがわかっています。
糖尿病や肥満を予防し、腸内環境もよくすることから、高血圧の改善につながる可能性もあります。
そして、発酵タマネギは、この短鎖脂肪酸を増やすのに、たいへん適した食べ物なのです。
※1 短鎖脂肪酸が「インクレチン」というホルモンの分泌を促す。インクレチンは、膵臓からのインスリンの分泌を促す
万能薬の作り手「腸の善玉菌」が激増する
腸には、無数の腸内細菌が住んでおり、人間に有益な働きをする善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)、健康に悪影響を及ぼす悪玉菌(病原性大腸菌やウェルシュ菌など)、優勢な菌に加勢する日和見菌が互いに暮らしています。
万能薬である短鎖脂肪酸は、腸内で善玉菌たちによって作られます。そのため、短鎖脂肪酸を増やすには、腸内の善玉菌を増やし、元気にすることが必要です。
善玉菌を増やす方法のひとつは、善玉菌の仲間である乳酸菌やビフィズス菌を体に入れることです。これには、乳酸菌やビフィズス菌を含む発酵食品を食べるのがお勧めです。
食事で取り入れた乳酸菌やビフィズス菌は、胃酸で大半が死にますが、これらの死骸は腸に着くと、善玉菌を増やす働きをしてくれます。
善玉菌を増やすもうひとつの方法は、善玉菌にエサを与えること。エサは「オリゴ糖」と「食物繊維」です。オリゴ糖や食物繊維を摂取すると、善玉菌は急激に増えます。
ある実験で、オリゴ糖を摂取する前後で、被験者の糞便中の善玉菌(ビフィズス菌)の割合を測りました。オリゴ糖の摂取前は、善玉菌の割合は17%でしたが、オリゴ糖を摂取して1週間後には、善玉菌の割合は30・7%まで増えていました。
善玉菌がオリゴ糖や食物繊維をエサにして増えるときに、同時にさまざまな物質が生み出されています。
実は、このとき生まれる副産物のひとつが、短鎖脂肪酸なのです。

腸の善玉菌は、オリゴ糖と食物繊維を食べると、副産物として万能薬の「短鎖脂肪酸」を生み出す
1日スプーン1杯でも効果を期待できる
それでは発酵タマネギの成分を見てみましょう。タマネギには100gあたり2.8gと、多くのオリゴ糖が含まれます。善玉菌のエサになる水溶性の食物繊維も、100gあたり0.6gと豊富です。発酵食品なので乳酸菌も摂れます。
3つの成分を同時に摂れるから、発酵タマネギは短鎖脂肪酸を増やすのに最適な食品と言えるのです。
先ほど紹介した効能以外にも、短鎖脂肪酸には、悪玉菌の増殖を防いだり、免疫力を高めたりする働きがあります。また、腸の粘膜を補修する働きがあるので、近年注目を集める「リーキーガット症候群」(※2)の改善にも役立ちます。
以前、被験者に3食中1食だけ、発酵させた野菜を食事に加えていただき、腸の状態がどう変わるかについて、調べたことがあります。
2週間後に被験者の腸内細菌を調べると、実験前より明らかに善玉菌が増えており、「1日1食、発酵野菜を加えただけで、2週間でこれだけ変わるんだ」と驚きました。
まずは1日1食、スプーン1〜2杯の発酵タマネギを食事に加えるだけでも、2週間も続ければじゅうぶん効果が実感できると思います。
※2 腸内環境が悪化するなどして、腸の粘膜に穴があき、ウイルスなどの有害物質や未消化の食べ物、毒素などが体じゅうにまん延する病気。主な症状に、うつ、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、自己免疫疾患など