10mもまともに歩けなかった!
内科医である私が、脊柱管狭窄症との診断を受けたのは、今から10年ほど前のことです。
もともと、20代から慢性的な腰痛を抱えていて、年に一度は、いわゆる「ギックリ腰」を発症していました。
椎間板ヘルニアも患っています。
5年ほど前からは、しびれや痛みの症状が、さらに悪化しました。
セキをすれば腰に響き、電車内では立っていることができません。
就寝時は、寝返りすら打てないほどです。
脊柱管狭窄症の特徴的な症状として、長く歩くことができない間欠性跛行というものがありますが、私の場合も、この症状が出ていました。
10mもまともに歩けません。
歩くのがやっとで、荷物も持てず、普通のかばんではなく、キャリーバッグを引いて通勤していました。
鍼灸治療も試しましたが、その効果は一時的なもので、歩ける距離がせいぜい20mに伸びた程度です。
診察にも支障が出てきて、「このままでは医師として、やっていけないのではないか」と、悩んでいました。
この間に、5人の整形外科医にかかりました。
MRI(磁気共鳴画像法)を撮ったところ、私の場合、脊柱管が狭くなっている部分が、首で2ヵ所、腰の近くで3ヵ所あるとわかりました。
もちろん、手術も考えました。
実際、最初にかかった医師には、脊柱管を広げる手術を勧められました。
しかし、手術が成功しても、症状が残るケースもあることと、ほかの4人の医師には手術を勧められなかったことから、踏み切れなかったのです。
けっきょく、血行をよくする薬や痛み止めなどを飲んでは、その場をしのいでいました。
そんな私を見かねて、患者さんが「テニスボール指圧」を勧めてくれたのが、3年ほど前のことです。
わざわざテニスボールまで買ってプレゼントしてくれたので、わらをもつかむ気持ちで試したのが、最初でした。

「腰痛持ち」を忘れるほど調子がいい!
テニスボール指圧をしたところ、翌朝には、「あれ?少し調子がいいかも」と感じました。
さらに1週間続けると、「先週よりも長く歩けている」と気づきました。
そして、1ヵ月もすると、「明らかに症状が改善している。これまでと全然違う!」と、実感できたのです。
テニスボール指圧をするに当たっては、さかいクリニックグループ代表・酒井慎太郎先生の著書を読みました。
酒井先生は、骨盤にある仙腸関節が重要だと述べておられましたが、私は筋肉をほぐすことが大事だと考えたので、独自のやり方をすることにしました。
私は、二つのテニスボールをしっかり固定するために、ガムテープでぐるぐる巻きにして、ピーナッツ型にしたものを使っています(下の写真)。
これを、まず腰に当てます。
私の方法は、当てる位置を背骨に沿って少しずつ上にずらしては押し、ずらしては押して、肩甲骨の辺りまで移動させていくものです。
指圧ポイントは、10ヵ所程度はあるでしょうか。
テニスボールを当てている時間は、1ヵ所につき、長くても3分ほどです。
最初は痛いのですが、徐々に、「痛気持ちいい」感覚になってきます。
指圧を行うのは、就寝前の1日1回。
余裕がある日は、朝晩の2回、行いました。
こうして続けるうちに、1年ほどで、しびれや痛みの症状が、驚くほど改善したのです。
長く歩き続けることができるようになり、急ぐ朝には、駅まで走れるほどまでになりました。
当然、通勤時のキャリーバッグも不要です。
薬を飲むこともなくなりました。
しかし、テニスボール指圧は、きちんと継続することが肝心なようです。
症状の改善に気をよくして、指圧を少々サボりがちになっていた一昨年のこと。
サウジアラビアに行く機会があったのですが、なんと向こうでギックリ腰になってしまったのです。
幸い、ピーナッツ型にしたテニスボールを、お守り代わりに持参していたので、2日という早さで復活できました。
最近では、調子がよいので、「腰痛持ち」であることを忘れるほどです。
今回、またしばらくテニスボール指圧をサボっていたことに気づきましたが、これからも続けたいと思います。
渡辺式テニスボール指圧のやり方

【用意するもの】
テニスボール(硬式)…2個
ガムテープ…適宜

【作り方】
2個のテニスボールをピッタリとくっつけた状態で、ガムテープでしっかりと巻き、固定する。
左右上下、グルグル巻きにするとなおよい。

【やり方】
❶畳やフローリングなど、硬めの床の上に、あおむけに寝る。
❷テニスボールを腰の下に入れ、「痛気持ちいい」と感じるところを探す。
❸2つのボールの間に背骨がはまるようにテニスボールを置き、1~3分間、押し当てる。
背骨に沿って、肩甲骨の辺りまで、位置を少しずつずらして指圧する。
※指圧するのは、1ヵ所につき、長くても3分まで。
1日1回、できれば朝晩の2回行う。
解説者のプロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)
東京女子医科大学医学部教授(東医療センター内科)。
聖マリアンナ医科大学医学部卒業。1984年、同大学院博士課程修了。1995年、ミネソタ大学時間生物学研究所客員助教授として渡米。専門は高血圧を中心とした循環器内科。
1987年8月から携帯型血圧計を装着、以来31年にわたり365日24時間、自分の血圧を測る血圧ドクター。わかりやすい指導と笑いの絶えない診察室が評判で、遠方からの患者さんも多い。
『血液循環の専門医が見つけた 押すだけで体じゅうの血がめぐる長生きスイッチ』(サンマーク出版)ほか著書多数。