解説者のプロフィール

丁宗鐵(てい・むねてつ)
医学博士。百済診療所院長。
1947年東京生まれ。横浜市立大学医学部卒業。米国スローン・ケタリングがん研究所に客員研究員として留学後、東京女子医科大学特任教授を経て、現在は日本薬科大学教授。
『スパイス百科』(丸善出版)好評発売中。
シソの薬効
中国では薬用として親しまれてきた
シソ酢はシソと黒酢から作ります。シソと黒酢は、中国で身近な食品ではありながら、古来、薬用として親しまれています。今回はその歴史や効能についてお話しします。
まずシソから説明しましょう。
中国・三国時代の故事に、シソについての話があります。
カニを食べて食中毒を起こして死にかけた若者に、華侘という名医が紫色の葉を煎じて飲ませたところ、たちどころに快癒。これがシソの名前(中国名で紫蘇)の由来となったといいます。
以来、生薬としても珍重され、気管支炎、セキ・痰の改善、うつや不眠の治療などに広く用いられてきました。
こうしたシソの薬理効果は、西洋医学からのアプローチによっても裏付けられてきています。
近年は、免疫力の向上、腎機能の改善、血流促進に働くという研究報告もあります。これらの効果は、まだ研究段階のものも多いです。
次は、シソが漢方でどのような効果があるか、主な効能をまとめておきましょう。
■胃腸の調子を整える
夏は冷たい物の取りすぎや自律神経のバランスがくずれやすいことから、胃腸の働きが低下しがち。それが夏バテや体調不良を招くことが少なくありません。
ちなみに、自律神経とは循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために、意志とは関係なく24時間働き続けている神経です。
自律神経は、交感神経と副交感神経からなり、両者がうまく機能しているときは心身に異常はでません。しかし、そのバランスがくずれると支配下にある臓器の働きが低下してきます。
特に夏場は、脱水や不眠などによるストレスで自律神経のバランスがくずれやすくなります。
シソは、おなかの気(エネルギー)の巡りをよくし、低下した胃腸の働きを元気にしてくれるのです。
■不眠の改善
寝苦しい夏には不眠にも悩まされ、それが体調をくずす引き金になることも少なくありません。
漢方では、不眠は気の停滞(うっ滞)が主な原因と考えられています。シソには、そのうっ滞を取り除いて精神を安定させることで安眠を導く効果が期待できます。
■優れた抗菌・殺菌作用
夏場、特に気をつけたい食中毒対策にも、シソは頼りになります。シソには魚介類などの食品についた細菌を殺す作用があるからです。
よく刺し身にシソが添えられたり、お寿司にもシソ巻がありますが、これは香りや味を楽しむと同時に、食中毒を防ぐ意味合いもあるのです。
黒酢の薬効
ダイエット効果を促進!
一方、シソ酢に含まれる黒酢の薬効パワーも、シソに負けていません。
まずは、体内のpH(ペーハー)の調節です。pHとは水溶液の性質(酸性・アルカリ性の程度)を示す単位のことです。血液など、私たちの体の60%以上を占める水分にもpHがあり、健康と密接に関係しています。
一般的には弱アルカリ性で保たれている状態が健康体ですが、食習慣やストレスから、現代人は酸性に傾きやすい傾向にあります。夏場にはこれが不眠や疲労などを招き、夏バテに拍車をかけてしまいます。
優れたアルカリ性食品である黒酢には、酸性に傾いたpHを整えてくれる作用があるのです。
さらに、黒酢に含まれている酢酸やクエン酸には、体の代謝を高めて疲労回復を速やかにする作用もあります。
もう一つ、基礎代謝を促進する黒酢の作用によるダイエット効果も見逃せません。
夏場は代謝が低下しやすいことなどから"夏太り"に悩まされることが少なくありません。そんな人にも、シソ酢はもってこいの健康飲料といえるでしょう。
酢の選び方
「黒酢がどうも苦手……」という人は、もろみ酢、玄米酢、リンゴ酢など、ほかのお酢を使ってもいいです。漢方では、「おいしい」「また飲みたい」と感じる味は、体が欲しているので、健康的と捉えています。
黒酢は精米、玄米、大麦など、商品によって材料が異なるので、味に差が出やすいです。もし黒酢の味が合わない場合は、産地やメーカーを変えてみると、自分に合うものが見つかるかもしれません。
シソ酢に使う、酢の種類は、醸造酢を選ぶようにしましょう。食酢には、醸造酢と合成酢があるのですが、後者は化学調味料や、食塩を人工的に加えています。
そのため、シソ酢には、自分の舌に合い、その上、添加物の含まれていない醸造酢を用いるようにしましょう。

シソ酢は夏バテにも効果がある