解説者のプロフィール

能見登志惠(のうみ・としえ)
とちの実健康倶楽部クリニック医師。
日本東洋医学会漢方専門医、日本麻酔科学会麻酔科認定医。鳥取大学医学部卒業、同大麻酔科入局、同大学手術部から公立豊岡病院麻酔科部長を経て、平成13年に山本記念病院へ。平成17年よりやまびこクリニックを兼務後、平成21年より山本記念会都筑ふれあいの丘クリニック院長、漢方外来や在宅医療を担当。学生時代より東洋医学を探求して、気功歴20年。現在とちの実健康倶楽部クリニックにて、気功体操の指導や講演会にも精力的に取り組む。
患部を直接もまずに痛みを軽減する耳刺激
肩こりがひどくなってしまうと、どんなに直接もんだとしても、いっこうによくならないことがあります。また、腰痛や首痛がひどいときも同様です。患部に痛みがあったり、炎症があったりする場合、腰や首をもんでも効果が出ないばかりか、かえって逆効果になることも多いのです。
こうしたケースで大いに役立つのが、今回紹介する耳への刺激です。
耳を上手に刺激することで、腰痛や首痛、背中痛などの悩みを軽減することができるのです。
ところで、なぜ、耳への刺激が、耳から遠く離れた腰の痛みを解消してくれるのでしょうか。
耳は、音を聴くという役割のほかに、私たちの体調とも密接な関係を持っています。例えば、冬場に厳しく冷え込んだとき、耳を温めてみましょう。すると、体自体もすぐに温まってくるはずです。
また、耳には、非常にたくさんのツボが存在しています。
東洋医学では、昔から、体の各部の場所は、耳の特定の位置に対応しており、体になんらかの不調があれば、それが耳の特定のポイントに現れてくると考えられてきました。
逆に、その反応点を刺激することで、元の体の悪い部分を改善することも可能になります。
耳と体の対応関係は、耳たぶの中に、逆さになった赤ん坊の形でしばしば図示されます。赤ん坊の体のそれぞれのパートが、耳の各部位に対応しているのです。
今回の耳への刺激も、この考え方に基づいています。
痛み止めの注射を打ったような効果!
次に、刺激法を説明しましょう。
耳を、上部、中央部、下部と三つに分けると、上部が腰、中央部が背中、下部が首に対応することになります。
親指と人差し指を使って、耳全体をもみましょう。
上から下へ、下から上へはさむ部分をずらしながら、くり返しもんでください。
目安としては10回程度。
耳をもみながら、上下に行ったり来たりするといいでしょう。
腰痛の人は耳の上部に、背中痛の人は中央部に、首痛の人は下部に、それぞれ反応が現れている可能性がありますので、そこを重点的にもんでもかまいません。
この耳への刺激を行うと、患部の痛みから生じる全身の筋肉の緊張を、緩和する助けとなります。
また、腰痛などの痛みがあると、耳全体がかたくなり、耳の色が白くなります。
白くなっているということは、血行があまりよくないということを示しています。
耳をもんでいると、しだいに体がカーッと熱くなってくるでしょう。
それは、血行が改善されてきた証拠です。
東洋医学では、気という生命エネルギーを想定し、気が通る道すじを経絡と呼んでいます。
病気は、経絡を通る気の流れが滞ることによって生じると考えます。
つまり、耳をもむことで、経絡の気の流れがよくなります。
全身の血行改善効果との相乗作用で、痛みの軽減に役立つと考えられます。

❶親指と人差し指で、耳全体をもむ。
❷上下にずらしながら、10往復程度くり返す。
※腰痛は耳の上部、背中痛は中央部、首痛は株を重点的にもんでもよい。
実際に耳をもんで、症状が改善したかたがたのお話をご紹介しましょう。
一人めは、80歳代の女性です。
このかたは肩が痛くて、全く腕が上がりませんでした。そこで、耳もみを実践しました。特に、耳の下の部分をもむと、驚いたことに、その場で痛みが軽減。上がらなかった腕が上がるようになりました。
以前は、腕が痛くて、背中をかいたり、反対の肩に腕を回したりは、とてもできませんでした。痛みが消えた今では、できなかった動作が楽にできるようになったといいます。
二人めは、70歳代の女性。
この女性は、腰痛に悩まされていました。そこで、特に耳の上のほうをよくもんだところ、腰痛が和らぎ、以前はできなかった前屈ができるようになりました。立ったまま前屈して、両手を床につけられるくらい、体を曲げられるようになったのです。
まるで、痛み止めの注射を打ったような効果で、大変驚いたそうです。この耳への刺激は、とても簡単なものですから、この体験例を参考に、ぜひ試してみてください。