解説者のプロフィール

伊賀瀬道也(いがせ・みちや)
愛媛大学大学院老年神経総合診療内科特任教授・愛媛大学附属病院抗加齢・予防医療センター長
1991年、愛媛大学医学部卒業。99年、愛媛大学大学院修了。2003年、米国ノースカロライナ州ウェイクフォレスト大学医学部高血圧・血管病センターに留学。2006年よりアンチエイジングドック、2011年よりアンチエイジング相談外来を行う。著書に『見た目が20歳若返る!血管健康法』(実業之日本社)などがある。
脳の血流が悪い場所に白質病変が現れる!
「ゴースト血管」という言葉をご存じでしょうか。これは、血液の流れがなくなり、消えていく毛細血管のことです。血流が途絶えると血管細胞が壊死して、最終的には毛細血管そのものが消えてしまうことが、最近の研究でわかってきました。
毛細血管は、動脈と静脈をつなぐ重要な血管です。全血管の99%を占めるともいわれ、割合から考えても決して軽視できるものではありません。
その毛細血管がゴースト化すれば、皮膚や臓器に多くの悪影響が及ぶと考えられるため、最近は毛細血管に大きな注目が集まっています。
なかでも脳は、体に取り込んだ酸素の約2割を消費するため、豊富な血流を必要とする臓器です。脳の毛細血管がゴースト化すると、酸素が十分行き渡らず、脳の機能に異常を来す可能性が出てくるのです。
私がセンター長を務める愛媛大学附属病院抗加齢・予防医療センターでは、寝たきり老人にならないためのアンチエイジングという考え方から、さまざまな項目を検査する「抗加齢ドック」を行っています。
そのなかには認知機能の検査もあり、軽度認知障害(MCI)に高い感度を持つ検査法「MCIスクリーン」を、日本でいち早く導入しました。軽度認知障害とは、認知機能が正常より低下しているものの、まだ認知症ではない状態のことです。
一方で、脳のMRI(核磁気共鳴画像)検査を行うと、血流の悪い場所に白質病変といって、白く光る病変が見られる人がいます。白質病変が多い人ほど、将来、脳梗塞を起こしやすいといわれています。
2005年に私たちが行った研究では、59歳から75歳までの1400人中、約6割に白質病変が見つかりました。そして、白質病変がある人は、白質病変がない人に比べて、軽度認知障害の割合が2倍に上ることが明らかになったのです。
脳には血液脳関門といって、必要なものを通し、必要でないものは通さない構造があります。認知機能が低下するということは、必要なものが届いていないということです。
つまり、毛細血管のゴースト化が関係しているのではないでしょうか。白質病変のある人は脳にゴースト血管を抱えていて、それによって軽度認知障害のリスクが高まるのではないかと、私は推測しています。
また、三重大学の富本秀和教授は、「毛細血管がゴースト化すると、アルツハイマー病の原因物質となるアミロイドβが脳に蓄積しやすくなり、アルツハイマー病の進行が加速する」と述べておられます。
毛細血管は不要物を回収する役割を担っています。毛細血管がゴースト化すれば、アミロイドβも回収されずに蓄積されていくということは、確かに考えられるでしょう。
■白質病変が認知症のリスクを高める!

※脳に白質病変のある人は、ない人に比べ、軽度認知障害の発症リスクが2倍になると判明(838人対象・愛媛大学調べ)
足の筋肉を鍛え毛細血管のゴースト化も防ぐ!
さらにもう一つ、私たちが行った研究で、「足の筋肉量が少ない人は、認知機能が低下している」という結果が出ています。
CT(コンピュータ断層撮影)画像から足の筋肉量を測定し、認知機能との関連を調べたところ、足の筋肉量が少ない人は脳が萎縮していて、認知機能も低い傾向にあったのです。
目を開けて片足立ちできる時間が20秒未満になると、60秒できる人に比べて、軽度認知障害や認知症の人が圧倒的に増えるというデータも出ています。
太ももやふくらはぎは、筋肉のポンプ作用で下半身の血液を心臓に戻す大切な役割をしています。筋肉が少ないと、このポンプ作用がうまく働きません。これが血流を悪くし、ゴースト血管をつくる一因になっているといえるでしょう。
そこで、認知症予防に役立つのが、足の筋肉を鍛えることです。立った状態で、両足のかかとをリズミカルに上げ下げする「かかと落とし」は、ふくらはぎの筋肉を鍛えるのに有効です。さらに、毛細血管のゴースト化を防ぐこともわかっています。
かかとを上げる高さは、2〜3㎝でかまいません。1回1分、1日3回を目安に行いましょう。
太ももを鍛えるには、エアロバイクを使った自転車こぎがよいでしょう。1回20分を目標に行ってください。
私は、息ははずむけれど会話ができる程度の「ニコニコ運動」を推奨しています。いずれの運動も無理のない範囲で、ニコニコ楽しんで行うのがコツです。
愛媛は俳句の町なので、俳句を詠みながら歩く「俳句ウォーキング」もお勧めしています。俳句は黙読するのではなく、自分で考えて詠むことで脳の血流量が増えるとわかっています。脳の若返りのために、ぜひ試してみてください。
かかと落としのやり方

❶足を肩幅に開いて立つ。体の力を抜く。
❷かかとをトントンとリズミカルに上下させる。かかとを上げる高さは2~3㎝程度でよい。
※1回1分、1日3回を目安に行う。