解説者のプロフィール

帯津良一(おびつ・りょういち)
●帯津三敬病院
埼玉県川越市大字大中居545番地
049-235-1981(代表)
http://www.obitsusankei.or.jp/
帯津三敬病院名誉院長。
1936年、埼玉県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学病院第三外科、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。西洋医学に中国医学や代替療法を取り入れ、医療の東西融合という新機軸を基に、ガン患者などの治療に当たる。『呼吸はだいじ』(マガジンハウス)、『本望な生き方』(徳間書店)など、著書多数。
息を吐くことが主 息を吸うのは従
皆さんは、1日のうちに私たちが何回呼吸しているかご存じでしょうか。
呼吸回数は、平均すると1分間に約15回、1時間に約900回。
1日にすると、およそ2万回になります。
ふだんは無意識に行っているこの2万回の呼吸のうち、例えば、100回をちょっと意識して行うだけで、体が変わってきます。
呼吸法しだいで、健康な病気知らずの体に作り変えることも可能なのです。
私がお勧めしたい正しい呼吸の基本は、「呼主吸従」です。
つまり、息を吐くことが主で、息を吸うのを従とした呼吸になります。
息を鼻からゆっくりと吐き出しましょう。
すべてを吐き切るまで吐いたら、その反動で息を吸います。
これをくり返せばいいのです。
呼吸には、呼吸時に胸がふくらむ胸式呼吸と、おなかがふくらむ腹式呼吸があります。
呼吸法としては、腹式呼吸をお勧めします。
さらに腹式呼吸には、息を吸ったときにおなかをふくらませる「順式」と、息を吐いたときにおなかをふくらませる「逆式」があります。
どちらでもよいので、お好きな方法で試してください。
一つ、基本的な呼吸法を紹介しましょう。
まず、両足を肩幅に開いてゆったり立ちます。
背すじを伸ばし、ゆっくりと息を吐いてください。
じゅうぶんに息を吐いたら、その反動で自然に息が胸に入るに任せます。
もう1回、ゆっくり吐いてゆっくり息を吸います。
そして、3回めにゆっくりと思い切り息を吐いて、若干、上体を前に倒します。
そして、上体を戻しながら息を吸います。
これが1セットです。
1回3セット行いましょう。
この呼吸法は、いすに座って行ってもいいでしょう。
呼吸を変えるメリット
自律神経のバランスを整える効果
ところで、呼吸を変えることで、私たちの体に、どんな変化が生まれるのでしょうか。
一つは、自律神経の変化です。
自律神経というのは、私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管などを調整している神経です。
交感神経と副交感神経の二つがあり、両者が拮抗して働きます。
昼のアクティブな活動を支えるのが交感神経、夜の休息の神経が副交感神経で、現代人の場合、過労やストレスなどの要因により、このバランスがくずれ、交感神経が優位の状態が続いています。
交感神経が過剰に働くことで、さまざまな不定愁訴が生じているのです。
呼吸では、息を吸うときに交感神経が働き、息を吐くときに副交感神経が働きます。
そこで、深く長く息を吐くようにすると、副交感神経を刺激できるのです。
これをくり返すことで、交感神経と副交感神経のバランスを回復させることができます。
そうすれば、体調が改善し、数々の不定愁訴が軽減できるでしょう。
「呼吸」を意識すれば内臓を効率よくマッサージできる
第2に、深い呼吸をくり返すと、胸部と腹部の境目にある筋肉の横隔膜が大きく上下し、腹筋群がじゅうぶんに動きます。
すると、腹腔の内圧がリズミカルに変動し、内臓をマッサージする効果が得られるのです。
さらに、深い呼吸により胸腔の内圧、背骨の中を通る脊髄の内圧も変化し、頭蓋内の内圧も変動します。
つまり、呼吸によって、全身の血行が改善するというわけです。
体内のゴミ「エントロピー」を排出!
第3に、私たちが生命活動を行った結果、体内にエントロピーと呼ばれるゴミのようなものが蓄積します。
エントロピーの放出手段は、汗、尿、大便、呼吸ですが、呼吸以外は私たちの意志で自由にコントロールできません。
呼吸だけが、意志でコントロールできるのです。
深い呼吸によって自律神経のバランスが整い、エントロピーが排出されると、体の機能がよく働くようになります。
1日5分でも、10分でもかまいません。
ぜひ、長く息を吐き切ることを意識して、呼吸を行いましょう。
呼吸法は、お金も時間もかけずに、全身が若返る最高の養生法です。
ゆっくり呼吸のやり方

つづいて、症状別に効果を現す呼吸法を紹介しましょう。
症状改善に効果的ですが、いろいろと試して、お気に入りの呼吸法を見つけるのも、また楽しいと思います。
首や肩のコリ
姿勢を調える「調身」、息を調える「調息」、心を調える「調心」は、呼吸法の基本ですが、この3つは関連しあっています。調息ができれば、体も心も調うのです。呼吸法を行うと、心を落ち着かせ、リラックスでき、全身を健康にすることができます。
■両手を上下させながらゆっくりと呼吸をくり返す
首や肩のコリは、心身の過労から生じています。
呼吸に合わせて両腕を上下させる方法で、過労を解消し、コリも取ることができます。

❶足を肩幅に開いて立つ。両わきに下ろした両手を、鼻から息を吸いながら、手のひらを上に向けて持ち上げる。
❷肩の高さまで両手を上げたら、ひじを左右に張り、手のひらを下に向ける。口から息を吐きながら手を下ろし、顔を左に向ける。
❸腕を下ろしたら、視線をさらに後ろに向けていく。
❹再び両手を、手のひらを上に向けて持ち上げ、息を吸う。肩の高さまで持ち上げたら、手のひらを下に向けて下ろし、顔を正面に戻しながら息を吐く。
※反対側も同様に行う。これを1日3セット行う。
更年期障害
■両手を広げ、片足ずつ持ち上げて呼吸する
閉経という体の変化により、体内のさまざまな秩序が混乱して起こるのが更年期障害です。
毎日呼吸法を続けることで、心身の秩序が回復し、症状を和らげることが可能です。

❶息を吸いながら両腕を肩の高さまで左右に上げる。両手の手のひらは上に向け、手を上げるのと同時に左ひざを上げる。
❷息を吐きながら、手のひらを下に向け、上がっていた左足を、一歩前に下ろす。
❸息を吸いながら、再び手のひらを上に向けて、右ひざを上げる。
❹息を吐きながら、手のひらを下に向け、右足を一歩前に下ろす。
※足を床につけるときは、足の裏を意識して、ゆっくり下ろす。①〜④を3回くり返す。
ぜんそく
■あおむけで、両手を頭上に持ち上げながら呼吸する
ぜんそくは、一筋縄で対処できる病気ではありません。
アレルギーを引き起こす原因、遺伝的な問題、ストレスなどが複雑に絡み合って起こります。
呼吸と関係の深い病気ですから、ストレスを解消する呼吸法を毎日行うことで、ぜんそく発作を予防しましょう。

❶あおむけになり、下腹で両手の手のひらを合わせる。鼻から静かに息を吸い、下腹がへこむように鼻からゆっくり吐く。
❷鼻から息を吸いながら、両手を左右に開いて、頭上に持ち上げる。今度は、口から息を吐きながら、両手を体のわきに戻す。
❸鼻から息を吸いながら、両手を一文字に左右に伸ばす。
❹今度は、口から息を吐きながら、右ひざを抱えて、息を吐き切る。
※①〜④を同様に行うが、今度は左ひざを曲げて、息を吐き切る。これを1日3セット行う。
頭痛
■両手で頭をたたきながらゆっくり呼吸する
ストレスや疲労からくる頭痛なら、両手を頭に当てて、ゆっくり呼吸を行うことで痛みの軽減になります。

❶左の手のひらを額に当て、右手の手のひらを後頭部に当て、2〜3回ゆっくりと呼吸する。
❷両手で同時に頭を軽くたたき、少しずらして再度たたき、頭を一周する。一周につき、5回ほど頭をたたく。呼吸は自然にゆっくり行いながら、トントンたたく。
※①〜②を4回くり返す。吐く息で頭から痛みを追い出し、吸う息でエネルギーを取り込むつもりで行う。1日1回行う。
耳鳴り
■歯をかみ合わせながら両手で耳をたたく
耳鳴りは、耳の周辺の血行を盛んにして、ストレスを解消すれば、軽減することがあります。
一度、呼吸法をお試しください。

❶自然に呼吸を②〜③回くり返し、リラックスする。口を閉じ、上下の歯を少し開けて、下あごを左右に18回動かす。鼻からのゆっくり呼吸をしながら行う。

❷歯をカチカチと軽くかみ合わせながら、両手の手のひらで同時に、左右の耳を軽く20〜30回たたく。
※1日1回行う。