平野 薫
1987年、九州大学医学部卒業、同整形外科教室入局。新日鐵八幡記念病院などを経て、2010年、ひらの整形外科クリニックを開院。東洋医学や天城流湯治法などを加えた独自の治療で成果を上げている。
脊柱菅狭窄症の9割は「腰」が原因ではない
「足がしびれる」「太ももの外側からお尻にかけて痛む」「歩き続けたり、長く立っていたりすると、足や腰に痛みやしびれが出るが、しゃがんでしばらく休むと症状が治まる(間欠性跛行と呼ぶ)」
このような症状を訴えて病院へ行くと、多くの場合、「脊柱管狭窄症」と診断されます。
脊柱管狭窄症とは、一般的には、腰椎(背骨の腰の部分)の中を通る馬尾神経の空間(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されて、痛みやしびれ、筋力低下などの症状が出る病態をいいます。脊柱管が狭くなる主な原因は、姿勢の悪さや加齢とともに、背骨の構造が弱くなり、不安定になるのに伴って、馬尾神経の後方にある靭帯(黄色靭帯)が肥厚するためと考えられています。
つまり、お尻や足の痛み・しびれといった脊柱管狭窄症の症状は、すべて腰からきているということです。
しかし、果たしてほんとうにそうなのでしょうか。
実は私は、外来で脊柱管狭窄症と診断される人の9割以上は腰での神経の圧迫が原因ではないと考えています。
MRI(核磁気共鳴画像)で神経の圧迫が確認できて、画像と一致する部位にマヒ症状が起こっていたり、膀胱直腸障害(頻尿や便秘、生殖器や肛門のしびれなど)があったりする場合、確かに馬尾神経が圧迫されていることが原因かもしれません。しかし、外来患者の多くは、そうしたマヒ症状は少なく、足腰の痛みやしびれだけの場合がほとんどなのです。
私も1年前までは、脊柱管狭窄症の原因は腰にあると考えていたので、一般的な治療を行っていました。血流改善薬の投与や、局所麻酔剤で痛みを抑えるブロック注射などです。そして、マヒが進行する場合や、頑固な足のしびれが続く場合は、狭窄されている部分を削って広げる手術もあります。
けれども、ブロック注射を何本打っても、いっこうに痛みが引かない人がいました。手術をしても、しびれが残ったり、逆に悪化したりするケースもあり、治療に難渋することも少なくありませんでした。
腰に問題があるなら、腰を治療すればよくなるはず。それなのに、なぜよくならないのか。ずっと疑問に思っていたのです。
脊柱管狭窄症の症状は、足の第四趾に原因がある
2016年、健康プロデューサーの杉本錬堂氏が考案された独自のメソッド(天城流湯治法という手当て法)と出合い、その謎が解けました。
錬堂氏によると、脊柱管狭窄症の症状は、足の第4趾が縮んだり、変形したりすることによって起こるというのです。
日本人は足型に合わない靴をはく人が多く、第4趾の指先が靴に当たって圧迫され、縮んでいる人が少なくありません。ひどい場合は、第4趾が第3趾に踏まれて、さらに縮んでいることもあります。
第4趾が縮むと、足の甲にある腱(筋肉と骨をつなぐ組織)が引っ張られてかたくなり、そこからつながる、すね、太ももの外側、お尻の横までの腱も引っ張られます。そのせいで、お尻や足の筋肉がかたくなって、血流も滞り、痛みやしびれが起こるのです。
この理論を聞き、改めて患者さんを診察すると、お尻から足にかけての痛みやしびれを訴える人の9割以上の、足の第4趾が縮んで曲がっていました。
そして、第4趾を伸ばし、すねから太もものかたくなった筋肉をほぐす天城流湯治法のメソッドを行うと、痛みやしびれが軽減したのです。MRIで神経の圧迫が認められた人でさえも、改善するケースがあります。
また、筋力低下があっても、この手当て法でよくなる人もいます。筋力低下ですら、必ずしも神経の圧迫によるマヒではないということです。第4趾の縮みと、筋肉の癒着による血流の滞りにより、動きが鈍くなっている可能性があるのです。慌てて手術をする必要はないのではないでしょうか。

椎間板ヘルニア、腰椎すべり症の症状が改善した
脊柱管狭窄症の症状に対する天城流湯治法のメソッドとは、「足の骨ぎわはがし」という方法です。
まず、第4趾を手で引っ張って伸ばします。次に、第4趾の腱、すね、太ももの外側の筋肉を、手でほぐして緩めます。かたくなった腱や筋肉は骨に癒着しているので、骨からはがすようにして緩めるのがポイントです。
下から上へ、1㎝くらいずつずらしながら、ほぐしていきましょう。太ももまで緩めれば、そこに引っ張られていたお尻の筋肉も自然に緩みます。
明らかなマヒがなく、「お尻から足にかけて、痛い、しびれる、歩くと痛くなる」といった症状が主であれば、まず、足の指をチェックして、第4趾が曲がっていればそれが原因と考えていいでしょう。ぜひ、足の骨ぎわはがしを行ってください。
天城流湯治法は、「自分の体は自分で調整する」という考えが基本になっています。当院でも、2016年3月から治療に取り入れていますが、医師や理学療法士にやってもらうだけでなく、自分でも足の骨ぎわはがしを熱心にやっている人ほど、効果がきちんと現れています。
実際によくなった人の例を紹介しましょう。
Aさん(87歳・男性)は、2003年と2005年に椎間板ヘルニアの手術をしたあと、両足の外側にしびれが続いていました。一般的には、脊柱管狭窄症と診断される症状です。
しかし、MRIで神経の圧迫は見られません。そこで、Aさんの足を見てみると、やはり第4趾が曲がっていたのです。
足の骨ぎわはがしを指導し、2016年の6月から実践してもらったところ、10年間続いたしびれが10日後に軽減。9月には、わずかにしびれが残る程度にまで改善しました。
Bさん(76歳・女性)は、ほかの病院で15年前にすべり症(背骨の一部がズレて起こる病気)、3年前に脊柱管狭窄症と診断され、投薬治療を受けていました。2016年2月に当院を受診された際、Bさんの足の第4趾が曲がっていたため、足の骨ぎわはがしを指導するとともに、薬はやめてもらいました。すると、初診時は40分歩くと痛みが出ていたのに、6月には60分歩いても平気になりました。
ただ、当院でリハビリを受けたあとは調子がよいものの、その後、しばらくするとまた症状がぶり返すとのこと。そこで、自分でも足の骨ぎわはがしを行うように勧めたところ、8月には足のしびれがなくなりました。
天城流湯治法では、滞りの原因は咀嚼不足と考えています。噛むことが不足すると、筋肉が滞り、血流も悪くなって、血液が汚れてしまうのです。現代医療の薬(化学薬品)は血液を汚しますので、飲まないにこしたことはありません。足の骨ぎわはがしは血流もよくするので、血流を改善するような薬も必要ないのです。
足の骨ぎわはがしのやり方


第4趾が第3趾に踏まれ、さらに縮む