野球ひじの種類と特徴

キャッチボールや投球でひじに痛みが出た場合、そのすべてを「野球ひじ」といいます。
野球ひじにはいくつか種類がありますが、小学生に最も多く発生するのは「内側型野球ひじ」、発生頻度は低いものの重症化しやすいのは「外側型野球ひじ」です。
その違いは写真③を見ていただくと、わかりやすいでしょう。写真は右ひじを正面から見たX線写真です。向かって右側がひじの内側、左側が外側になります。
それでは、以下に、それぞれの特徴を見ていきましょう。
内側型野球ひじ

内側型野球ひじは、ひじの内側に発生する野球ひじです。
ボールを投げるときには、ひじの内側には引っぱられる力が働きます。すると、ひじの内側にある靱帯や筋・腱が伸ばされます。靱帯や筋・腱は、ひじの内側にある骨の出っぱり(上腕骨内側上顆)につながっていて、小学生の場合、ここには成長軟骨があります。成長軟骨はまだ弱いため、投球動作をくり返すと、引っぱられる力で傷ついたり、場合によっては骨端がはがれたりすることがあります(写真④を参照)。また、靱帯もゆるんだ状態になります。
内側型の野球ひじは、最初はひじの違和感程度から始まります。この時点では、投球後や練習が終わってしばらくすると違和感のなくなることが多いため、ほとんどの場合、気にせず放置しがちです。
しかし、放置して投球を続けると、少しずつ痛みが出てきます。ひじの中では引っぱられる力が働き続け、軟骨の傷が徐々に大きく、深くなってきます。さらに無理をして投球を続けると、1球ごとにひじが痛んだり、痛みが何日も続いたりするようになり、骨端がはがれた状態になります。
違和感を覚えた段階や、一晩寝れば痛みが消えるような段階で診断を受け、投球を休んだり投球数をへらしたりするなど、無理をしなければ自然によくなります。傷ついた軟骨や骨端もきれいに固まって、将来に影響することはほとんどありません。
一方、無理をして投げ続けて骨端がはがれてしまった場合は、のちのち影響の出ることがあります。この場合、治療を受けてリハビリを行うことで、多くの場合、痛みは消えます。しかし、このときの傷が原因で、骨が成長してもしっかり閉鎖しないケースがあります。
すると、高校生や大学生、社会人になって大人の骨がしっかり出来上がった時点で、閉鎖しなかった小さな骨のかけらが大きくなり、神経を圧迫したり靱帯がゆるんだままになったりすることがあります(写真⑤を参照)。このようなケースは、私たちの調査では、内側型野球ひじの12〜13人に1人、8〜9%の割合で見られます。
内側型野球ひじは、初期の段階でも違和感や痛みが現れます。このタイプの野球ひじは、早めに見つけて休むことで問題が解決するケースがほとんどです。違和感や痛みのサインを感じたら、すぐに受診し適切なケアを行いましょう。

外側型野球ひじ(はがれた軟骨や骨が関節に残った状態を、いわゆる「関節ねずみ」という)

外側型野球ひじは、ひじの外側に発生する野球ひじです。
ボールを投げるときには、ひじの外側にある上腕骨小頭という骨の先端部分と、橈骨頭という骨の先端がぶつかるような圧迫される力が働きます。くり返しこの力がかかると、小学生のまだ弱い骨や成長軟骨が傷ついてささくれ立ったり、穴が開いたり、軟骨と骨が壊死(組織の一部が死ぬこと)を起こしてはがれたりします(写真⑥を参照)。はがれた軟骨や骨が関節に残った状態を、いわゆる「関節ネズミ」と呼んでいます。
外側型の野球ひじのほとんどは小学生で発生します。
内側型に比べて発症頻度は低いものの、重症化しやすいのがこのタイプの特徴です。外側型野球ひじは、発症して間もない時期には、痛みなどの自覚症状がほとんどない場合があります。そのため指導者や保護者はもちろん、本人も野球ひじになっていることに気がつきません。
何事もなく投球を続けていて、ある時期からひじの曲げ伸ばしができなくなったり、痛みが現れてきたりします。こうなってから医療機関で検査を受けることが多いのですが、この時点ではすでに症状が進行していて、治るまでに数ヵ月単位の時間がかかります。進行度合によっては手術が必要なケースもあり、その場合はポジションの変更が必要になり、最悪の場合は野球ができなくなります。
小学生で早期の外側型野球ひじを発見できた場合、適切なケアを行えば完治します(写真⑦を参照)。
しかし、小学生時に発生したまま大きな症状がなく経過し、中学生あるいは高校生になって初めて症状が現れるケースも少なくありません。とくに、中・高校生で大人の骨になってから見つかった場合は、自然に治すのはむずかしく、かなりの確率で手術を選択せざるを得ません。手術をした場合、復帰までは少なくとも半年はかかります。
重症化しやすい外側型野球ひじは、子供たちにとっては野球をするという大切な時間が失われることになり、プロ野球選手をめざすような子がその道を閉ざされてしまう可能性もあります。発見が遅れないよう、小学生の時期は、年に1回は野球ひじの検診を受けることが重要であり、その検診を受ける機会を組織的に作ることが必要であると考えています。
内側型野球ひじは痛みなどのサインがある「アピール型」、外側型野球ひじは知らないうちに進行していく「沈黙型」といえます。タイプの違い、症状や治癒率の違いはあれ、どちらのタイプも、野球を愛する子供たちに経験をさせてはいけない障害であることに違いはありません。
子供たちが痛い思い、悲しい思いをしないための予防の方法と、野球ひじが見つかった場合のセルフケアの方法を次回紹介します。

解説者のプロフィール
山本智章(やまもと・のりあき)
1959年、長野市生まれ。
76年、長野県屋代高校入学と同時に野球班に所属。
79年、新潟大学医学部入学。準硬式野球部に入部。
85年、新潟大学整形外科入局。93年、米国ユタ大学骨代謝研究室。
2001年、新潟リハビリテーション病院整形外科勤務。
10年、同病院院長。
日本体育協会公認スポーツドクター、新潟アルビレックスベースボールクラブチームドクター、新潟市野球連盟副会長、新潟市少年硬式野球連盟医事顧問、野球障害ケア新潟ネットワーク代表。