解説者のプロフィール

オザワエイコ
手づくり調味料研究家。編集者。自家製調味料の仕込み教室「かもしラボ」主宰。2000年頃から自家製みそを仕込み始める。2008年から安全、安心でおいしい素材を求めて家庭菜園をスタート。以来、自分で育てた食材を使った自家製調味料の試作を重ねている。著書に『だからつくる調味料』(ブロンズ新社)がある。
梅仕事には楽しみが詰まっている
春のウキウキした気分が終わった頃、スーパーや八百屋さんの店頭に並ぶのが青梅です。以前は店で梅を見つけると、衝動的に買って帰り、梅酒や梅シロップを作っていました。旬の短い梅は、見かけたときに買わないと、あっという間に姿を消してしまいます。
私は手作り調味料を研究し、仕込み教室を開いて、みなさんに調味料を手作りする楽しさをお伝えしています。
そのきっかけになったのは、梅干し、ラッキョウ、みその手作りでした。どれも日本の伝統的な保存食です。とりわけ梅干しは、長いこと薬や縁起物として使われてきた歴史があり、梅にまつわる古いことわざも、たくさん残っています。
その中には、「梅干しにカビを生やすと、その家に不幸が起こる」といった迷信めいたものもありますが、あながち悪い意味とは限りません。
常備薬である梅干しがカビでダメになってしまうと、病人が出たときに薬がなくて、災いが起こる。だから手抜かりなく梅仕事をして、カビを生やさないように。そんな教訓も込められているのです。
一方で、「梅はその日の難逃れ」、「梅干しは三毒を断つ」など、梅の効能をうたったことわざもたくさんあり、梅や梅干しが健康食であることは、日本人の共通認識になっています。
とはいえ、私が梅干しを漬けるようになったのは、健康のためでも、特段梅干しが好きだったからでもありません。梅を使って何かを作る「梅仕事」が大好きで、その王道が梅干しだったからです。
梅仕事は、毎年小梅から始まります。青い小梅はカリカリ漬けに、黄色くなった小梅は梅干しや、後でご紹介するぽってり梅漬けにします。
小梅が終わると大きい青梅が出てきますから、まず梅酒や梅シロップを作ります。また、調味料として、梅しょうゆや梅みそもこの時期に作ります。
黄梅になったら、いよいよ梅干し漬けとぽってり梅漬けを漬け、梅ジャムも作ります。梅しょうゆ、梅みそは、黄梅でも作れます。青梅なら酸味が強く、黄梅はフルーティになります。
こうして梅の時期は梅仕事に追われますが、その忙しさも楽しみの一つ。梅はいろいろな顔で私を楽しませてくれます。
ぽってり梅漬けは梅干し嫌いにも大好評
これほど梅仕事が好きな私ですが、実は子どもの頃から、酸っぱい梅干しが苦手でした。梅干しを家で漬けていた記憶もなく、覚えているのは、祖父が作った梅酒の梅が好きだったことです。
結婚し、梅干しを漬けるようになりましたが、夫も酸っぱい梅干しが大の苦手。そこで作るようになったのが、ぽってり梅漬けです。
ぽってり梅漬けは干す必要がなく、簡単にできて、塩分も酸味も控えめな、まろやかな梅漬けです。しかも失敗することもありません。これを作るようになって、そのまま食べるのはぽってり梅漬け、料理用には梅干しと、使い分けています。
このぽってり梅漬けなら、梅干しが嫌いな夫も食べてくれます。また、梅仕事をしたことのない母も、ぽってり梅漬けを毎年作るようになりました。
手作りの梅仕事のよいところは、自分の味にアレンジできることです。梅干しなら、塩分を控えめにしたり、赤ジソを入れたり入れなかったり、干したり干さなかったりと、いろいろな作り方ができます。
私は、まずいろいろな作り方で少量ずつ試して、気に入ったものを翌年たくさん作っています。例えば梅酒は、お酒(ホワイトリカー、日本酒、ホワイトラム、ジンなど)と砂糖(氷砂糖、ハチミツ、黒糖など)をそれぞれ組み合わせて、少量ずつ作ります。その中で気に入った日本酒とハチミツの梅酒を、今はたくさん作っています。

塩分も酸味も控えめで食べやすいぽってり梅漬け
こうして、梅レシピは日々更新されています。
また、手作りすれば、使っている材料がわかって安心です。
以前、塩分を減らして梅干しを作り、カビを生えさせてしまったことがあります。そのとき、塩分があるからこそ、常温で長く保存できることを実感として知りました。減塩梅干しは、塩の代わりに何が使われているかわからず、かえって不安です。
梅干しを作って失敗すると、二度と作らなくなってしまう人がいます。でも、失敗を恐れないでください。失敗すると、失敗から学ぶことがたくさんあります。失敗した原因もわかるので、次は失敗しなくなります。
梅仕事のもう一つの楽しみは、作った梅干しや梅酢でいろいろな調味料ができることです。今回は、ご家庭にある梅干しで簡単に作れる、お勧めの調味料を3種類ご紹介します。
梅びしおは野菜スティックにつけたり、梅ドレッシングはサラダに、煎り酒は白身魚のお刺し身を食べるときに、しょうゆ代わりに使ってみてください。
こうした調味料を作って常備しておくと、和えたりかけたり、つけて焼いたりするだけで、おいしくて見た目も美しい料理 が手早くできます。
このように、梅や発酵食品をよく食べているせいか、私は忙しいのにやたら元気で、周りからとても若く見られます。本当の年を明かせないのが、残念なくらいです。
暑い夏を乗り越えるためにも、私にとって、梅干しや梅シロップは欠かせません。梅のクエン酸は夏の疲れをすっと軽くしてくれます。
梅仕事は、梅雨の時期の、一瞬の季節をつかまえる仕事です。だから、楽しくてやめられないのだと思います。みなさんも、この楽しみをぜひ味わってください。
梅干しで作る手作り調味料3種

※昔ながらの赤ジソ梅干し(塩分18~20%)を使ったレシピです。

梅びしお
【材料】
梅干し……3個 砂糖……大さじ1 みりん……小さじ1
【作り方】
❶梅干しは2~3時間水に入れ、軽く塩味がする程度に塩抜きする。
❷①の種を取り除き、果肉を包丁でたたいて裏ごしする。
❸小鍋に②と砂糖、みりんを入れ、こげないように混ぜながら弱火で加熱する。好みの硬さに煮詰めて出来上がり。
※冷蔵で1ヵ月保存可能。

梅ドレッシング
【材料】
梅干し……3個 白ゴマ……小さじ1/2
サラダ油……50ml リンゴ酢……大さじ2
砂糖……小さじ1/2 しょうゆ……小さじ1/2
だし……小さじ1
【作り方】
❶梅干しは種を取り除き、果肉を包丁でたたく。白ゴマは軽く炒り、粗く刻む。
❷①と残りの材料をすべて混ぜ合わせる。
※冷蔵で約2週間保存可能。

煎り酒
【材料】(出来上がり約80ml)
梅干し……2個
日本酒……200ml
塩……小さじ1/4
コンブ……5cm角1枚
カツオ節……5g
[作り方]
❶鍋に日本酒とコンブを入れて30分ほど置く。
❷①に梅干しをほぐして入れ、中火にかける。コンブは沸騰直前に取り出す。
❸日本酒の量が半分ぐらいになるまで煮詰めたら、カツオ節を加え、弱火で1分ほど加熱して火を止める。粗熱が取れたらふきんなどでこす。
❹③を鍋に戻し、塩で味を調える。
※冷蔵で約1週間保存可能。