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【腱鞘炎の最新治療】ばね指・ドケルバン病の専門医は「手外科」

【腱鞘炎の最新治療】ばね指・ドケルバン病の専門医は「手外科」

手首や指の付け根に腫れや痛み、動かしにくさが生じる「腱鞘炎」。腱鞘炎は適切な治療を行えば、短期間で確実によくなる病気。ここでぜひ知っていただきたいのが、腕や手・指を専門的に治療する診療科「手外科」の存在です。【解説】福本恵三(埼玉成恵会病院 埼玉手外科研究所所長)


手首や指の付け根に腫れや痛み、動かしにくさが生じる「腱鞘炎」。
ちょっとした動作にも痛みや動かしにくさが伴い、日常生活に支障をきたします。

実は、腱鞘炎は適切な治療を行えば、短期間で確実によくなる病気。
ここでぜひ知っていただきたいのが、腕や手・指を専門的に治療する「手外科」の存在です。

腱鞘炎は手外科の得意とする病気の一つ。
一般の整形外科や接骨院などで漫然と治療を続けていて、なかなかよくならなかった腱鞘炎が、手外科にかかるとすぐに治り、驚かれる患者さんも多いといいます。

専門医は腱鞘炎をどう治療するのか。
埼玉成恵会病院・埼玉手外科研究所の福本恵三先生にお話を伺いました。

解説者のプロフィール

福本恵三
埼玉成恵会病院・埼玉手外科研究所所長。1986年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学形成外科学教室にて、埼玉手外科研究所初代所長の児島忠雄教授に師事し、形成外科学、手外科の研鑽を積む。東京慈恵会医科大学形成外科学教室等を経て、2012 年より現職。ヘバーデン結節、手根管症候群などの治療を得意とする。日本のみならず、海外の学会でも数多く講演を行っている。

●埼玉手外科研究所
埼玉県東松山市石橋1721
TEL 0493-23-1221
http://www.saitama-handsurgery-institute.com/

指に生じる腱鞘炎と手首に生じる腱鞘炎がある

――「腱鞘炎」という病名はよく聞くのですが、実際のところ、どのような病気なのでしょうか?

福本:まずは「腱鞘」とはなにか、というところからお話ししましょう。
手足や指の関節を動かすのは筋肉ですが、筋肉の先端にあって、骨と筋肉をつないでいるのが「腱」です。

筋肉が収縮すると、この腱が骨を引っ張って、関節を動かします。
腱鞘とは、この腱の周囲を包み込んでいる、トンネルのような組織のことを指します。

腱鞘の内部は滑液という液体で満たされていて、腱の動きを滑らかにする潤滑油として働いています。
この腱鞘に炎症が起こったり、腱そのものが腫れて、腱鞘の中での動きが悪くなったりするために起こるのが腱鞘炎です。

腱鞘炎にはいくつか種類がありますが、代表的なのは「ばね指(弾発指)」と「ドケルバン病」です(下の図参照)。
ばね指は、主に指の付け根側にある腱鞘に痛みや腫れが起こり、指の曲げ伸ばしに支障が生じる腱鞘炎です。

指を曲げるさいに使う屈筋腱には、腱が浮き上がらないように押さえている靱帯性腱鞘があります。
靱帯性腱鞘はベルトがたるまないようにする「ベルト通し」のようなもので、特に強く曲げる必要がある関節に存在しますが、指の付け根付近には力がかかりやすく、炎症を生じやすいところがあります。

屈筋腱と靱帯性腱鞘の間で炎症が起こると、痛みや腫れ、熱感(熱く感じる)などが生じます。
さらに、指が曲がったまま、あるいは伸びたままで動かせなくなるという症状が現れます。

少し時間がたつと動くようになりますが、そのさいにバネが弾けるように動くので、ばね指と呼ぶのです。
ひどい場合、指が曲がったままになり、反対の手で戻さないと伸びないこともあります。

なお、ばね指が起こるのは親指がいちばん多く、次いで中指、薬指にもよく起こります。

女性の患者数は男性の5倍以上

ドケルバン病は、手首の親指側に起こる腱鞘炎です。
手首の親指側には骨の出っ張っている箇所がありますが、ここに2本の腱が通っています。

親指を外側に広げる働きをする長母指外転筋腱と、親指を伸ばす働きをする短母指伸筋腱です。
この2本の腱は通常、一つの腱鞘で覆われていますが、腱鞘が厚くなったり、腱の表面が傷んだりすることによって起こってくるのがドケルバン病です。

ドケルバン病の症状は、強い痛みと腫れです。
親指を小指側に曲げたり、親指の曲げ伸ばしをしたりすると、激痛が走ります。

ものをつまんだり、握ったりする動作も痛みのために難しくなります。


――腱鞘炎が起こるのは、「手や指の使い過ぎ」というイメージがあります。
近年では、パソコンのキーボードやマウス操作のせいで腱鞘炎になる人が増えていると聞きますが……。


福本:そうした原因で起こる腱鞘炎も確かにあります。
しかし、これといった原因もないのに起こってくる腱鞘炎も少なくないのです。

意外と知られていませんが、腱鞘炎は圧倒的に女性に多く、男性の5倍以上の頻度で起こるとされています。
特に、妊娠出産期と更年期の女性に多く発症することから、女性ホルモンの変化がなんらかの形で関与していると考えられています。

また、ばね指は糖尿病や透析患者に起こりやすいことが知られています。
ドケルバン病の場合、前述したように通常は2本の腱が一つの腱鞘の中を通っているものなのですが、生まれつき、この腱鞘が二つに分かれていて、ドケルバン病になりやすい人がいることがわかっています。

いずれにせよ、手や指をよく使っていて、同じ箇所に負担のかかる動作をくり返すことが多い人は、その刺激で症状が悪化しやすいと考えられます。
ですから、手首や指に違和感や引っかかりなどの初期症状が出はじめたら、手を使わずに休める、湿布や冷水などで冷やすことが予防策として重要です。

ただ実際には、仕事や家事のために休んでもいられず、がまんを重ねるうちに症状が進み、ついに耐えきれなくなって病院を受診するケースが多いと思います。

基本は保存療法のステロイド注射

ところが、ここで問題があります。
整形外科などの医師の間でも、腱鞘炎の治療に関する知識が欠けていて、とりあえずシップ薬を出す、といった対応に終わってしまうことが多いのです。

腱鞘炎は本来、難しい病気ではなく、適切に治療すれば短期間で治ります。
それなのに、効果のない治療が漫然と続けられてしまうケースが少なくありません。

そして痛みのために手首や指を動かさずにいると、関節そのものが固まってきて、ほんとうに動かせなくなってしまうこともあります。
そうした事態に陥らないためにも、なるべく早期に、正しい治療ができる手の外科の専門医の受診をお勧めします。


――腱鞘炎の治療はどのように行うのですか?

福本:治療は大きく、保存療法と手術とに分けられます。
基本となるのは保存療法で、腱鞘内へのステロイド剤の注射になります。

それでもよくならない場合に手術を行うという流れが一般的です。
ステロイド剤と聞くと、副作用の心配をする人が多いのですが、腱鞘炎の治療では、「ケナコルト」というステロイド剤を0.1mlというごく微量、局所麻酔薬に混ぜたものを使うだけです。

この程度の量なら、副作用の心配はまずありません。
ただし、注射は確実に腱鞘内に注入することが必要で、細かい手技を要しますから、医師も経験を積んでいる必要があります。

手首に注射をするさいには、腱鞘の場所を正確に把握するため、エコー(超音波診断装置)を用いる場合もあります。
注射が確実に患部に入れば、麻酔薬の効果で痛みはすぐに消え、伸びなかった関節も伸びるようになります。

ただし、患者さんにぜひ知っておいてほしいのですが、ステロイド剤によって炎症や腫れを改善する治療効果が現れるまでには、少し時間がかかります。
一般に3~4日で改善が見られますが、その間はなるべく手や指を使うのを控えていただいたほうがいいのです。

麻酔で痛みが抑えられたからといって、無理をするのは禁物です。
1回の注射でそのまま治ってしまう人も多いのですが、1ヵ月くらいで再発する人もいます。

当院では、3回くらいステロイド注射をくり返して、大きな改善が見られない場合に、手術をお勧めすることが多いです。
指が動かせない症状が強い場合は、そのまま放置すると関節の動きが悪くなる恐れがあるので、最初から手術をお勧めすることもあります。

手術は外来ででき15分程度で終わる

――手術とはどのようなものですか?

福本:簡単にいえば、炎症を起こしている腱鞘を切り開いて、引っかかりをゆるめる手術です(下の図参照)。
手術そのものは単純で、皮膚を1㎝くらい切開して行います。

熟練した医師なら15分ほどで済みますから、外来・日帰りで手術可能です。
ただし気をつけなければならないのは、腱鞘の周囲には神経が多く、誤って神経を切断してしまうと知覚障害を起こして、感覚がなくなったり、ピリピリする症状に悩まされたりするようになることです。

その意味でも、専門医による治療が望ましいのです。
なお、腱鞘は複数あるため、1ヵ所を切開しても、動作に問題はありません。

ズボンのベルト通しが1ヵ所切れても、ベルトが落ちてしまうことはないようなものですね。
術後は3~4日、皮膚の傷の保護のために包帯をする必要がありますが、小さな傷なのですぐに治ります。

ただ、腱鞘炎だけでなく、関節そのものが傷んでしまっていた人の場合は、関節のリハビリを術後に行うこともあります。
当院では年間に200例以上の腱鞘炎の手術を行っています。

患者さんからは「今まで痛かったのがウソのように解消した。
もっと早くやればよかった」といった声もよく聞かれます。

腱鞘炎の治療法

手術を検討中なら症例数を参考に

――腱鞘炎の治療が得意な専門医は、どうやって探せばいいのでしょうか?

福本:腱鞘炎をはじめとする、手の治療は専門性の高い分野なのですが、そのことがまだあまり認知されていないのが現状です。

専門医を探されるさいには、「手外科」というキーワードを覚えておくといいでしょう。
手外科とは、整形外科の中でも主として腕や手・指を専門的に治療する診療科や医師のことです。

医療法による標榜科(病院や診療所が外部に広告できる診療科名のこと)として認定されたものではありませんが、近年、呼称として「手外科」を掲げる医療機関も少しずつ全国に増えてきています。

手外科の専門医や医療施設を探すには「日本手外科学会」のホームページにある手外科専門医の名簿や、認定医研修施設の名簿を参照するといいでしょう。
特に、手術を検討される場合、ある程度の症例数をこなしている医療施設で受けるほうが安心でしょう。

認定研修施設として挙がっている中から、お近くの病院を探し、実施している手術件数や実績を問い合わせてみるといいのではないでしょうか。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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