自分の疑問に対する答えがこれだった!
最近になって、腰痛やひざ痛など、慢性痛に悩む人たちの間で「トリガーポイント」(後述)が注目を集めています。
私のクリニックでも、5年前の開業時から、このトリガーポイントを利用した治療法を積極的に取り入れてきました。
これまで病院の勤務医として教科書で勉強したり、先輩から教わったりした整形外科学は、レントゲンやMRI(核磁気共鳴画像法)などの画像診断と神経学的な診察が中心でした。
例えば、腰痛と下肢痛で来院する患者さんに、教科書どおりの神経所見(筋力、知覚、反射など)をとり、レントゲンやMRIを撮影します。
もちろん、椎間板ヘルニア(背骨を構成する椎骨と椎骨の間にある椎間板が飛び出した状態)や腰部脊柱管狭窄症(背中内部の神経の通り道が狭くなって起こる病気)などが見つかることもありますが、たとえ椎間板ヘルニアが確認されたとしても、神経所見とは一致しないことが多々ありました。
ましてや、神経所見のない患者さんには湿布と痛み止めを処方するだけで、その場で痛みを取ってあげることはできませんでした。
患者さんに痛みの原因を聞かれて、「レントゲンで背骨に棘(骨棘)ができているから」とか「椎間板がすり減っているから」と説明しながらも、自分の中で、本当の痛みの原因がそれでよいのかと、ずっと疑問が残っていたのです。
そんなときに出合ったのが、痛みの治療で全国的に知られる加茂淳医師が、トリガーポイントについて書かれた本でした。
神経が原因ではない、筋肉にできたトリガーポイントが、さまざまな痛みの原因になりうることを知った私は、これが自分の疑問に対する答えだと納得しました。
以来、トリガーポイント治療を始めたのです。
理学療法士とともにクリニックで治療をし始めると、薬を使わなくてもその場で痛みが和らぎ、なかには痛みがほとんど取れてしまう患者さんが多くいることに私自身が驚きました。
私のクリニックに痛みで悩んで来る患者さんの中には、さまざまな画像検査を行っても原因不明と言われた患者さん、手術を受けたにもかかわらず痛みが続いている患者さん、どんな痛み止めも効かなかった患者さんがたくさんいます。
痛みを訴えても「気持ちのせい」と言われ、本当に自分の心がおかしいのだと思い込もうとしていた患者さんもいました。
しかし、その患者さんの肩の筋肉に軽く触れてみると、それだけで強烈な痛みを訴えるのです。
原因は「気持ち」ではなく、長い間見逃された「筋肉の痛み」だったのです。

ズーンと響くように感じるところ
私のクリニックでは、トリガーポイント注射とリハビリ、薬物療法を組み合わせて治療をしていますが、患者さんにも「自宅でできるトリガーポイント療法」を教えて宿題にしてもらっています。
ここであらためて、トリガーポイントとはどのようなものなのか、ご説明しましょう。
トリガーポイントとは、筋肉のこりの中心であり、「痛みの親玉」です。
「トリガー」という言葉は、「引き金」という意味で使われます。
最近では筋肉を包む膜である「筋膜」が筋肉痛の原因であるという研究も進んでいます。
慢性痛を持つ患者さんの体を触診して、筋肉が硬くなった部位を押すと「ズーン」と響くように感じるところがあります。
そこがトリガーポイントです。
患者さんは、トリガーポイントを圧迫すると、「あ~そこです、そこです」と、身もだえするのですぐにわかります(笑)。
トリガーポイントが現れる原因は、自分の持つ筋力以上の力がかかった場合(ギックリ腰など)や、日常生活での慢性の筋肉疲労です。
「慢性筋疲労」は日常生活の中で、同じ姿勢や同じ動作を長時間続けることにより生まれます。
この「慢性筋疲労」が、筋肉を硬直させ、しこりを生じさせます。
そして、筋膜がよれてシワができ、それが動作時の「つっぱり感」を生むのです。
筋膜は、全身を包むボディスーツのようなものであり、体の一部にできたこり(シワ)は、あたかもシャツのすそを引っ張ったとき、シャツ全体がつっぱるように、全身の筋膜に緊張を生みます。
その状態を放置すると、硬直した筋肉により毛細血管が押しつぶされて血流が滞り、ますます筋肉は疲れやすく、痛みやしびれのもとにもなるのです。
この一連のしくみが、トリガーポイントが「痛みの親玉」と言われるゆえんです。

体のあらゆる痛みに効く
この親玉(原発)トリガーポイントは、別の場所に新たなトリガーポイント(サテライト)を生むのでやっかいです。
トリガーポイントを生んだ筋肉は、短縮して伸びなくなり、つっぱり感が生じるだけでなく、筋力低下が起こります。
すると、短縮と筋力低下を補おうと、その他の筋肉に過度な負荷がかかって、そこが慢性的な筋疲労を起こし、サテライトトリガーポイントを生みます。
そして、サテライトは次のサテライトを生み、次々と広がっていきます。
痛みが長引けば、脳がその痛みを覚えてしまい、脳からの痛みのコントロール(下降性疼痛調節系)が弱まり、痛みの悪循環に陥ります。
最終的には「あっちも痛い、こっちも痛い、全身が痛い」という状態に陥ってしまうのです。
そのため、早期に治療して痛みの悪循環を断ち切ることが大切です。
さらに、トリガーポイントで重要な点は、患者さんが痛がっている場所が痛みの原因の場所ではないことがあり得る、ということです。
それを「関連痛」と言います。
そのため、腰が痛い人にふくらはぎに注射をしたり、頭痛やめまい、肩こりの人に後頭部に注射をしたりすることもあります。
関連痛の原因となるトリガーポイントを見つけるヒントとして、「頭痛・めまい・肩こりでは後頭部」「腕のしびれ・痛みでは肩甲骨」「ひざの痛みでは太ももからふくらはぎ」「腰痛・下肢痛では臀部の筋肉」を押してみるとよいでしょう。
トリガーポイント療法は、体のあらゆる痛みが対象となります。
慢性の頭痛、顔面痛、寝違い、肩こり、腕の痛み、しびれ、手のこわばり、背部痛、腰痛、殿部痛、大腿痛、ひざ痛、すねの痛み、足底の痛みなどです。
耳鼻科に行っても原因のわからないめまいや、これまで片頭痛と言われていて鎮痛薬が欠かせなかった患者さん、マッサージや整体に通っても治らなかったひどい肩こりや五十肩、慢性の腰痛、手術を勧められていた腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、座骨神経痛、変形性膝関節症や変形性股関節症などでも、一度診察を受けてみる価値はあります。
「年のせい」「打つ手なし」と諦める前に、慢性疲労の「筋肉」に目を向け、トリガーポイント療法を試してみてはいかがでしょうか。
解説者のプロフィール

斉藤究
さいとう整形外科リウマチ科院長。
1999年、国立浜松医科大学卒業。東京災害医療センター救命救急、刈谷総合病院整形外科、名古屋医療センター整形外科リウマチ科、同卒後教育研修センター指導医、米国Los Angeles Veterans Affairs hospital留学を経て、2011年、名古屋市に開院。トリガーポイント療法を積極的に治療に取り入れている。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医。MPS研究会会員。著書に『教えて!救急整形外科疾患のミカタ』がある。
●さいとう整形外科リウマチ科
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