解説者のプロフィール

弘兼憲史
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。73年、漫画家を目指して退職し、74年、『風薫る』で漫画家デビュー。その後『人間交差点』で小学館漫画賞、『課長島耕作』で講談社漫画賞、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、日本漫画家協会賞大賞を受賞し、2007年、紫綬褒章を受章。漫画以外の著書も多数あり、『弘兼流60歳からの手ぶら人生』(海竜社)などがある。
モノも人間関係も維持に手間がかかる
私は今年、70歳になりました。
私の作品を長年読んできてくれた読者のかたがたも、定年を迎える年代の人が増えてきました。
そんな理由もあり、ここ数年、定年後の生き方を考えることが増えました。
漫画はエンディングが大事です。
どんな物語も、終わらせかたしだいで、傑作にも駄作にもなります。
人生も、漫画と同じです。
寿命を80年とすれば、60歳からの20年間は、起承転結の「結」。
「終わりよければすべてよし」で、最後に「自分らしい、いい人生だったな」と納得し、満足して終われる人生にしたい。
仕事や子育てをリタイアしたあとは、エンディングに向けて準備する時期だと思います。
では、どんな準備が必要で、リタイア後はどんな生きかたがいいのか。
私が出した結論は、60歳からは「手ぶら人生」で行こう、です。
手ぶら人生とは、文字どおり、余計なモノを捨て、できるだけ身軽に、気楽に生きていくこと。
モノも人間関係も、維持するには時間とお金がかかりますし、年をとるにつれ体力も気力も衰えます。
モノやしがらみに縛られていては、身動きが取れなくなってしまいます。
そう考えた私が最初に着手したのは、身の周りのモノの整理と処分です。
「持ち物を半分にしよう運動」と名づけ、いらないモノをどんどん処分しました。
思い立った理由は、60代以降の貴重な時間を、モノにゴチャゴチャと囲まれた、わずらわしい生活にしたくないと思ったからです。
皆さんの中には「モノがなかなか捨てられない」と悩んでいる人も多いでしょう。
そこで、いくつかコツを伝授します。
最初は、なるべく思い入れがないモノから手をつけること。
思い出が詰まったモノや、捨てたら二度と入手できないようなモノは、後回しにするのが得策です。
家の中を見回してみると、目に飛び込んでくるモノはありませんか?それはあなたが「じゃまだな」「片づけなきゃ」と思っているモノです。
目障りなモノや、なるべく捨てやすくて、空間を占拠しているモノから着手します。
「身軽な人生に必要かどうか」を判断基準に、いらないモノはどんどん捨てます。
ある程度、処分が進むと楽しくなって、サクサク捨てられるようになります。
弘兼流「モノの捨て方」

執着を捨てると気持ちが軽くなる
一方、思い入れがあるモノについては、多少時間はかかっても、一つずつ吟味するのがいいと思います。
モノを減らすことが最終目的ではなく、「この先の人生を身軽に生きるために、必要なモノを見極めること」が目的ですから、モノを通して自分と向き合うことがたいせつです。
ただし、本やビデオテープ、CDなどに関しては、根本的に考え方を変えることも必要でしょう。
いまやAmazonなどを利用すれば、本や映画、音楽など、欲しいモノがいつでも簡単に手に入ります。
スペースを無駄にするくらいなら、手放したほうが気が楽かもしれません。
持ち物を見ると、自分がどんな人間かが見えてきます。
夢中になった物事はもちろん、自分が何に執着し、どんなこだわりにとらわれてきたかも、浮き彫りになります。
モノの処分を通して、つまらないこだわりや見栄を捨てられると、気持ちが軽くなります。
家もスッキリして、片づけや掃除が楽になります。
体も心も身軽になり、新しいことに挑戦する意欲や、好きなことを楽しむ心のゆとりも生まれます。
「老後はまだ先」という読者の皆さんも、節目節目で、身の周りのモノの整理と処分を行い、人生を見つめ直すことをお勧めします。