手軽にできる全身運動
「太極拳のような、体にいい運動をやってみたい」と思いながら、「難しそう」「時間がない」などの理由で、あきらめている人は多いのではないでしょうか。
そんな人にぜひお勧めしたいのが、誰でも簡単にできて、健康効果の高い腕ふり運動「スワイショウ」です。
スワイショウは、中国語では「甩手」と書きます。
甩は日本にはない文字で、「ポーンと放り投げる」という意味です。
その字のとおり、手(腕)を放り投げるようにしてふるのが、スワイショウの特徴です。
私たちは、太極拳の準備運動として、スワイショウをやっています。
手軽にできて、しかも全身運動になるので、ウォーミングアップに最適なのです。
このように、準備運動として活用しているスワイショウですが、実は、太極拳よりはるかに歴史は古く、紀元前から行われてきた気功法の一種です。
ですから、スワイショウだけを行っても、心身への多彩な効果があります。
主な効果を挙げてみましょう。
●ダイエット
意外と重い腕(体重60㎏の人で両腕8㎏)を勢いよくふりながら姿勢を維持するので、下肢(足)や体幹(胴体)の筋肉を使います。
そのため、知らず知らず全身運動になり、代謝が高まるため、効果的にダイエットできるのです。
1日1回のスワイショウで、5〜10㎏、なかには20㎏のダイエットに成功した人もいます。
●高血圧
適度な運動には、血圧を下げる効果があります。
毎日、ほどよい運動を続けるのは難しいものですが、スワイショウなら、空き時間に手軽にできて、高血圧の改善に役立ちます。
●ひざ痛・腰痛
運動不足や姿勢のゆがみは、ひざ痛や腰痛の大きな原因になります。
スワイショウは、簡単にできて体に優しい運動であり、姿勢も整える効果があるので、ひざ痛や腰痛の改善・解消に効果的です。
ただし、足腰に痛みがある人は、後述する「前後のスワイショウ」を、痛みが増さない範囲で始め、徐々に時間や強度を増やしましょう。
●肩こり・首こり
肩や首の筋肉がほぐれるとともに、血行がよくなるので、肩や首のこりの改善・解消に効果的です。
●冷え症
全身の血行がよくなるので、冷え症も改善・解消できます。
●便秘
腕をふることで、自然に腹筋が使われ、腹部の内臓が刺激されます。
特に、後述する「左右のスワイショウ」では、体のひねりによって内臓のマッサージ効果が得られ、便秘解消につながります。
●ストレスに強い心身をつくる
スワイショウのようなリズミカルな運動を行うと、ストレスに強い心身をつくる、セロトニンという神経伝達物質の分泌が高まることがわかっています。
セロトニンには、痛みを軽減したり、うつを防いだり、自律神経(内臓や血管の働きを支配している神経)を安定させたりする作用もあるので、スワイショウは間接的にこれらの効果も発揮します。
このほか、心身が疲れたときの疲労回復や、病後・術後の体力回復、脳の活性化、高齢者の筋力維持、食欲不振の改善など、幅広い効果があります。

1日1〜2回2〜3分でOK
スワイショウにはいくつかの種類がありますが、今回ご紹介するのは「前後のスワイショウ」と「左右のスワイショウ」です。
どちらも簡単に行えますが、前後のスワイショウのほうが、より初心者向けです。
体力に自信がない人や、足腰に痛みがある人などは、まず前後のスワイショウを、無理なくできる範囲から始めてください。
続けていると体力がついてきますから、そうしたら徐々に、左右のスワイショウも組み合わせていくとよいでしょう。
もちろん、無理なくできる人は、最初から左右のスワイショウをやっても構いません。
できれば、前後と左右をセットで行うと、使われる筋肉が違うので、より効果的です。
スワイショウは、1日1〜2回、各2〜3分を目安に行いましょう。
回数にすると、前後は40〜50往復、左右は25〜30往復程度です。
簡単なので、なかには多くやり過ぎて、めまいなどに襲われる人もいるようです。
そんなときは中止して休み、気分がよくなってから、適度な回数を行うようにしてください。
一つ注意が必要なのは、左右のスワイショウを行うときの、ひざの向きです。
スワイショウのやり方
体をひねったとき、ひざが内側に入ると、ひざを傷いためる原因になります。
ひざが横ぶれしないよう、つま先とひざは、なるべく同じ方向に向けておくようにしましょう。

また、左右のスワイショウでは、体のひねりに合わせて、重心も移動させることがポイントです。
重心が動くことで、血流促進効果や、下肢の筋力向上効果がより高まります。
難しい場合は、まずは上半身だけをひねることから始めましょう。
一般に、よほどの重病で運動を禁じられている人以外は行えますが、病気で治療中の人は、念のために主治医の許可を得て行ってください。
スワイショウは、初心者でも簡単にできる運動ですが、実は、やればやるほどその奥深さに目覚める体操でもあります。
ぜひやってみてください。
全体の決まり
●呼吸は自然に行う。
●腕の力を抜き、ゆったりとしたスピードで腕をふる。
●無理に腕をふり上げたり、体をひねったりしない。自分のできる、気持ちいい範囲内で行う。
●ヘルニアや脊柱管狭窄症など、整形外科的治療を要する人は行わない。
●腕がぶつかる物がないところで行う。
前後の腕ふり
腕を前後にふるだけです。とても簡単にできるので、どんな人にもお勧めできる方法です。
まずはこれから始めてみましょう。
【やり方】
①足は肩幅ぐらいに開き、ひざや股関節の力をゆるめて立つ。
②腕や肩の力を抜いたまま、両腕を前後にふる。1回につき2~3分程度行う。
※慣れてきたら、ひざを少し曲げて行うと、筋力強化によい。

左右の腕ふり
●でんでん太鼓を回すイメージで、体をひねります。腕の力は抜いて、自然に体に巻き付くように。
●体をひねることで体幹の筋肉がまんべんなく使われ、内臓のマッサージ効果が期待できます。
●重心の移動のさせ方によって、やり方が2種類に分かれます。
どちらのやり方でもいいので、やりやすいほうで行ってください。
【やり方】
①足は肩幅ぐらいに開き、ひざや股関節の力をゆるめて立つ。
②腕や肩の力を抜いたまま、「視線で体を引っ張る」つもりで、左右に体をひねる。
1回につき2~3分程度行う。

解説者のプロフィール

日本健康太極拳協会理事長
楊進(よう・すすむ)
●日本健康太極拳協会
https://www.taijiquan.or.jp/