解説者のプロフィール

倉治ななえ(くらじ・ななえ)
1979年、日本歯科大学卒業。同大学補綴学教室第2講座入局。1983年より現職。歯科医師として
日々患者に接しながら、子育て歯科、マタニティ歯科など、予防歯科の浸透に力を注いでいる。著書に『むし歯・歯周病の最新知識と予防法』(日東書院)などがある。歯学博士。日本フィンランドむし歯予防研究会副会長、日本歯科大学附属病院臨床教授。
●クラジ歯科医院
東京都大田区大森東1-35-4-101
TEL 03-3766-4184
http://www.drnanae.net/
歯の冷え症が違和感の原因に
歯周病を引き起こす原因の一つに、「歯の冷え症」があります。
といっても、歯そのものが冷えるのではありません。
歯の周囲にある、毛細血管の血流が悪くなって起こる症状のことで、分かりやすいようにそう名づけました。
私の元に訪れる患者さんの多くは、「しかるべき治療を受け、歯科医師に言われたとおりのホームケアをし、歯周病は治っているはずなのに、まだ歯がしみたり、浮いたりする感覚がある」とおっしゃいます。
それらの症状は、歯の冷え症を改善することで治まることが少なくなく、なかには歯科医師に「抜歯するしかない」と言われたのに、歯の冷え症を改善したことで、今日まで抜歯をせずに済んでいる人もいらっしゃいます。
歯の冷え症による歯の違和感ならば、抜歯をせずに改善できても不思議ではないのです。
逆に、抜歯をしても歯の冷え症を改善しなければ、残った別の歯に再び痛みや違和感が現れることもある、ということです。
歯の冷え症は、体の冷え症と同じ仕組みです。
体力不足や加齢などの理由で、体の末端にある毛細血管にまで血液が行き渡らず、酸素や栄養が運ばれにくくなり、末端部分が冷えやすくなります。
加えて、歯肉や歯周組織は、特に毛細血管が多く張り巡らされている場所。
普段は痛くない歯が、体調の悪いときには浮いたりしみたり感じるのも、これが原因の場合があります。
自らの歯の不調から考案した方法
歯の冷え症を改善する策として、これからご紹介する「口の血管マッサージ」を考案できたのは、東洋医学でツボについて学んだ経験があったからです。
11年ほど前、私は奥歯がグラグラする感じに悩まされていました。
歯周病やムシ歯ではなかったのですが、体全体が不調でした。
そんなとき、ふと東洋医学の先生が、「痛い所があったら、最も痛い場所にいちばん近いツボを押すと痛みが和らぐ」と教えてくれたのを思い出しました。
それならばと、自分の口と歯を使って試してみたのです。
最初は口の外、頬ほ おの上から押してみましたが、特に何も感じませんでした。
続けて口の中に人さし指を入れて、ツボを押してみたところ、とても気持ちがいいのです!
しばらくくり返すと、唾液がたくさん出るようになりました。
唾液には、歯周病菌とたたかう力があります。
同時に、歯肉がキュッと引き締まる実感もあったことから、「口の中をマッサージすれば、歯周囲の血行促進になり、ひいては歯周病の改善にもなるのでは?」と思い、西洋医学にも準じたマッサージ方法を考えることにしました。
そして、試行錯誤しながら作り上げたのが、動脈の血行を促す、口の血管マッサージです。
血管には動脈と静脈があり、動脈は酸素や栄養を届け、静脈は老廃物を排泄する役割を担っています。
口の血管マッサージは、酸素や栄養を届ける動脈の血流をよくすることで、歯周囲を健康にするという方法です。
肌ツヤがよくなるので美容目的に行う人もいる
口の血管マッサージは、歯ブラシ1本で簡単に始められます。
歯ブラシの柄を口の中に入れ、頬と歯肉の境目を、少しずつ位置をずらしながら、70g程度の力でプッシュする動作をくり返します(詳しいやり方は下記参照)。
70gの力は、キッチンのはかりを使って感覚をつかむとよいでしょう。
空いているほうの手は、「壁」の役割として頬に添えます。
肌に触れるか、触れないかの感覚で構いません。
また、口の中を傷つけないよう、歯ブラシの柄はできるだけ丸みがあるものを選びましょう。
そして、息を細く長く吐きながらプッシュして、パッと離します。
これにより、一時的に血流が遮断され、続いて遮断した血液が流されます。
医学用語で反応性充血といい、くり返すことで血管の内面にある内皮細胞が刺激され、毛細血管にまで血液が行き渡りやすくなります。
内皮細胞が刺激されると、血液を拡張する働きを持つ一酸化窒素の分泌が促され、毛細血管まで血液が行き渡るようになります。
口の血管マッサージは、血管の中でも、その健康度に注目が集まる内皮細胞を刺激できる、理にかなった方法です。
口内の血行がよければ、肌の色も生き生きし、表情が明るく見えるため、美容も兼ねて続けている、という人もいらっしゃいます。
歯周病の治療をしたのに治った気がしない人、大事になる前に歯周病予防をしたい人は、ぜひ、口の血管マッサージを試してください。

口の血管マッサージのやり方
上あご側

下あご側

頬

注意点
●粘膜を傷つけないよう、柄の先端にある程度の厚みがあり、角が丸くなっている歯ブラシを使用する。また、必ず清潔なものを使う。
●箸などのとがったものや、スプーンなどの金属製の器具は使用しない。
●口の中に傷や炎症がある場合には、歯科医師と相談の上で行うこと。