皮膚の色が抜け落ちて、ある部分だけが白くなってしまう病気「白斑」をご存じでしょうか。
あのマイケル・ジャクソンの肌の色が徐々に白くなっていったのも、この病気のためだったことが知られています。
まれな病気と思われがちですが、実は白斑は人種を問わず、人口の1~2%程度に起こるともいわれています。
白斑は従来、あまり有効な治療法がない難治の病気とされてきました。
しかし近年、治療が大きく変わってきたようです。
白斑の最先端治療に取り組む新宿皮フ科院長の榎並寿男先生は「8割以上の白斑は改善可能」と明言されています。
詳しいお話をうかがいました。
解説者のプロフィール

榎並寿男
新宿皮フ科院長。
1947年、岡山県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業、同大学院修了。79年より中部地方を中心にクリニックを開く。光線療法に関する研鑽に努め、2006年に東京・市ヶ谷に国内初の白斑専門治療院「市ヶ谷皮フ科日本白斑センター」を開設。2008年、東京・新宿に移転し「新宿皮フ科日本白斑センター」と改称する。白斑治療に関して国内屈指の実績をもつ。
●新宿皮フ科
東京都新宿区新宿3-24-1新宿エム‐スクエア10F
TEL 03-3354-4112
http://www.neopolis-clinic.or.jp/
【白斑とは】メラノサイトが破壊されメラニンが作られなくなる
―白斑とはどういう病気なのでしょうか?
榎並 皮膚の色素が一部、もしくは広範囲にわたって抜け落ち、白い斑点や斑紋(まだらのもよう)が現れる皮膚病です。
医学的には「尋常性白斑」といいますが、昔から俗に「白なまず」とも呼ばれます。
尋常性白斑は主に、次の二つのタイプに分類されます。
①汎発型:最も多いタイプで、体中いたるところに白斑が現れます。
②分節型:体の右半分だけ・左半分だけといった局所に白斑が現れるタイプです。
分節型は、ある神経の通り道に沿って白斑が出ることが比較的多いです。
汎発型に比べて、主な治療法である光線療法で治りにくいタイプです。
白斑を引き起こす根本的な原因については、いまだによくわかっていません。
ただし、皮膚の色が抜け落ちてしまうメカニズムは、そう理解しづらいものではありません。
皮膚の色は、主として表皮(皮膚のいちばん外側の部分)の基底層に一定の割合で存在する「メラノサイト(色素細胞)」が作り出す、茶褐色の色素「メラニン」によって決まります。
メラニンはシミの原因として知られるために悪者と思われがちですが、本来、紫外線の影響から皮膚を守る大事な役割を担っています。
なお、メラノサイトの数は人種による差はなく、皮膚の色は、メラノサイトから産生されるメラニンの量の違いによります。
このメラノサイトがなんらかの理由で破壊されたり、機能を失ったりしてメラニンを作り出せなくなると、その部分の皮膚は外側から白く見える。
これが白斑というわけです。
原因に関して現在、最も有力視されているのは「自己免疫疾患説」です。
自己免疫疾患とは、本来は病原菌などから体を守る免疫細胞が、自分自身の正常な細胞にまで過剰に反応してしまうことによって起こる病気のことです。
例えば、小さな切り傷、やけど、紫外線によるダメージなど、なんらかのきっかけでメラノサイトが傷つけられたとします。
この傷ついたメラノサイトを免疫細胞が「異物」と見なし、排除しようと攻撃します。
それだけで済めば問題ないですが、免疫細胞が今度は正常なメラノサイトまで攻撃するようになると白斑はどんどん拡がる(進行する)という説です。
ほかにも、遺伝的要因などが関与していると考えられています。
人種・性別・年齢に関係なく誰もがかかる可能性がある
─白斑が起こりやすい人種や性別、年代などはあるのでしょうか?
榎並 白斑は一般に、人口の1~2%に起こるとされています。
ということは、日本には120~240万人くらいいることになります。
発症する割合に人種差はほとんどありませんが、皮膚の色が濃い黒人や黄色人種は白斑が目立ってしまいます。
男女差もほとんどありません。
年齢では、一般に30代を中心にして30~50代に発症するケースが多いとされますが、何歳でも発症する可能性があります。
白斑は、痛みやかゆみなどの肉体的苦痛が伴うわけではありませんが、他人の目が気になる点で患者さんにとっては心の痛む病気です。
それなのに、従来はあまり有効な治療法がなく、病院へ行っても「治す方法はありません」と門前払い同然の扱いを受けることも少なくなかったと思います。
しかし近年、白斑の治療は進歩を遂げ、かなり高い率で改善できるようになってきました。
当院では「3ヵ月で患者さんの白斑部に80%色素再生を起こす」を治療マニフェスト(公約)として掲げ、そのとおりによい結果を得ています。
白斑が治せる時代になってきたことを知っていただきたいと思います。
皮膚の色が抜け落ちるメカニズム

中波長の照射が有効だが分節型は効果が出にくい
─白斑の新しい治療とは、どのようなものなのですか?
榎並 まず近年の大きな変化は「光線療法」の照射機器の進歩です。
光線療法は、紫外線を照射することでメラニン産生を促す治療法です。
しかし、過度に紫外線を照射すると皮膚がんのリスクが高まるという問題が生じます。
皮膚科で行われる光線療法は医学的根拠に基づき、安全性を考慮したものです。
日焼けサロンで肌を焼くような行為とはまったく違うことをご理解ください。
日本では従来、一般に「PUVA療法」という光線療法が行われてきました。
PUVAは、紫外線に対する反応力を高める薬「ソラレン」を投与した後、長波長紫外線(UVA)を照射する治療法で、50年ほど前から行われてきました。
しかし、白斑の面積が半分以下に縮小する例は、全体の2割に満たない程度でした。
色素の再生が起こっても、周辺の皮膚の色調と異なり、結局はまだらになってしまうという限界もありました。
加えて、ソラレンに吐き気や発がん性などの副作用があるといった問題もあります。
これに変わって近年、登場したのが中波長紫外線(UVB)を用いる光線療法です。
中波長とは波長が280~315nm(ナノメートル)の紫外線を指しますが、白斑に有効なのは波長311±2nmを放出する「ナローバンドUVB療法」と308nmだけを放出する「メル療法」です。
ナローバンドUVB療法は光の照射量は弱く、広い範囲に用いることができます。
以前のPUVA療法と比べれば、周辺の皮膚とのカラーマッチもよくなるケースが多く、これだけでも大きな進歩でした。
さらに近年、登場したのが前述したメル療法です。
メル療法は比較的、狭い範囲にしか用いられませんが、ナローバンドで効果の見られない人でも色素再生が起こるケースがあります。
患者さんの体質や、照射した患部の状態を的確に判断し、患者さんに合った二つの療法機器を上手に合わせる(当クリニックでは15台ある)ことで、当院では色素が再生する可能性は8割以上にまで高まりました。
ただし、これらの光線療法でもまだよくならない人もいます。
分節型の白斑には、残念ながら光線療法の効果が現れにくいのです。
どうしても改善しない残り1~2割の患者さんをなんとか治したいと、当院では10年ほど前から「ミニグラフト移植」という治療を導入しています。
工夫・改良を重ねながら、これまで1000例以上を実施し、良好な成績を収めています。
正常な皮膚細胞を移植して色素を復活させる「ミニグラフト移植」
─具体的にどのような治療なのでしょうか?
榎並 簡単にいうと、頭皮などからメラノサイトがある正常な皮膚細胞を採取し、これを白斑部に移植する手術です。
従来から白斑部を大きく削り取って、そこに正常皮膚を移植する手術はありました。
しかし、この手術は入院を必要とする上、皮膚を取った箇所には傷跡が残るし、移植した部分と正常皮膚との色のマッチもよくありませんでした。
そこでなるべく患者さんの負担にならず、さらに傷が残りにくい手法として考え出されたのが、ミニグラフト移植です。
メラノサイトの存在しない白斑部に正常な皮膚細胞を点々と植え込み、それを定着させた後、ナローバンドUVBやメルを使ってメラノサイトを育て、健全な皮膚を取り戻そうという手法です。
イメージとしては、さら地(白斑部)に種(正常な皮膚細胞)を植えるような要領です。
ミニグラフト移植では、白斑部に専用のマシーンを使って直径0.6~1.3mmの小さな穴を開けます。
その後、同じように頭皮から正常細胞を採取します。
正常細胞を取った部位、移植した患部ともに傷跡が小さく、数週間でまったくわからなくなるのがメリットです。
マシーンで均一に移植するので、移植後の皮膚が凸凹になるようなことも起こりにくいです。

移植後3ヵ月で80%以上肌の色が再生される
頭皮はメラノサイトの活性が高く、最も多くメラニンを産出している部位で、色素再生にいちばん適していますが、以前は髪の毛を数センチ四方剃らなくてはいけないという問題がありました。
しかし当院では現在、特殊な採取マシーンを使うことで、頭髪を剃らずに、髪の生えている隙間から細胞を取ることができるようになりました。
この方法は日本国内、おそらく世界でも唯一、当院だけが行っている方法だと自負しています。
手術は局所麻酔で行い、約2時間で終了するので、日帰りで行えます。
なお、移植した正常皮膚を定着させるために約1週間ほど患部を固定する必要があり、その間は患部に水をつけられません。
皮膚の定着率は99%以上です。
早い人では術後1ヵ月で白斑部の半分以上、3ヵ月で80%以上、色が出てきます。
光線療法単独より、改善効果が早く現れるのもミニグラフト移植の長所です。
最近では、海外からも患者さんがお見えになります。
先日はモンゴルから9歳のお子さんが来て、「日本に滞在できる1ヵ月で白斑を治してほしい」と頼み込まれました。
ミニグラフト移植と光線療法を行うと、1ヵ月で50%以上の色素再生が起こりました。
帰国後も適切な光線療法を受けられれば、さらに改善するでしょう。
なお、光線療法は健康保険の適用となりますが、ミニグラフト移植は自費診療となります。
料金は移植を行う正常皮膚1個移植したら2000~2500円で、仮に100個の移植をしたら20~25万円ということになります。
他の治療法で満足な効果が得られなかった患者さんも「ミニグラフト移植+光線療法」で改善する可能性が高いですから、ぜひあきらめないでいただければと思います。
