解説者のプロフィール

宝田恭子
宝田歯科医院院長
●宝田歯科医院
東京都江戸川区南小岩7-29-17サザンコート1階
TEL 03-3657-4525
http://takarada-dc.com/
舌で歯と歯ぐきの表面をなぞるだけで食べカスを除去
歯周病は、痛みがなく進行するため、気付いたときには、歯の周りが破壊され、歯が抜けてしまった、という例も少なくありません。
歯周病の患者さんの中には、ムシ歯にも罹患しているかたが多くいらっしゃいます。
歯科医として30年以上、たくさんの患者さんを診てきましたが、ムシ歯が1本もない歯周病の患者さんは数人しかいませんでした。
このことから、口の中の環境をきれいに整えておくことが、いかに大切かということがわかります。
食事の食べ残しが、歯や歯のすき間などにつまったままだと、それを栄養源として、口内で細菌が急増します。
増えた細菌は、自身の産出物と合わさり、歯の表面の粘着性の付着物・歯垢(プラーク)となります。
このプラークが多くなると、歯周病の発症につながります。
歯周病を予防するためには、丁寧な歯磨きが最も重要です。
ただ、歯磨きをしたくても、どうしても時間が取れない場合があります。
そんなときにお勧めなのが、「舌回しエクササイズ」です。
舌回しエクササイズでは、舌を回して、歯と歯ぐきの表面をなぞります。
もともとは顔を引き締める美容法として考案したものですが、歯の表面やすき間に残った食べカスも、ある程度除去できるため、歯周病予防にもお勧めのエクササイズです。
舌回しエクササイズのやり方

口腔カンジダや風邪の予防にも
口内の掃除のほかにも、舌の動きによって、くちびるの裏にある唾液腺(口唇腺)を刺激し、唾液の分泌を促す効果が期待できます。
唾液には抗菌物質が含まれているため、唾液で口内が潤っていれば、歯周病菌は増殖しづらくなります。
高齢者の中には、唾液が出にくくなり、口が乾いているかたが少なくありません。
抗菌作用のある唾液が減ると、普段は悪さをしない口内の日和見菌が急増し、口腔カンジダ症などの病気になりがちです。
また、カゼやインフルエンザなどの感染症も発症しやすくなります。
唾液の分泌を促す舌回しエクササイズは、これらの病気の予防にも有効です。
年と共に衰える舌の筋力もアップする
さらに、舌回しエクササイズを習慣にすれば、舌の筋力「舌力」がアップします。
舌も手足と同様、筋肉の力によって動きます。
そのため、加齢とともに舌力は衰えがちです。
舌力が衰えると、物が飲み込みづらくなります。
これは、舌が嚥下(物を飲み込み、胃に送る運動)と深くかかわっているからです。
口に食べ物を入れると、舌はその大きさや量、硬さなどを感知し、口内の噛みやすい位置へ移動させます。
以前出演したテレビ番組で、食事中の口内をMRI(磁気共鳴画像)で撮影した動画を見たことがあります。
この動画では、健康な人の舌は、口内でさかんに動き回っていました。
一方、嚥下障害のある高齢者の舌は、ほとんど動いていませんでした。
舌回しエクササイズで舌力がつけば、高齢者に多い誤嚥も防げるでしょう。
また、舌力が衰えると、話しづらくなったり、食事中に誤ってほおの内側を噛んだりしがちです。
舌回しエクササイズは、これらも予防できます。
顔のむくみ予防にもお勧め
顔の引き締め、むくみの予防にもお勧めです。
特に、日本人は欧米人と比べると顔がむくみやすいといわれています。
これは、日本語が、欧米の言語よりも舌を使わずに話せることと関係があると思われます。
舌を使わないため、顔周辺の血流が滞り、むくみやすくなるのです。
舌回しエクササイズで顔周辺の血行がよくなれば、むくみも改善するでしょう。
舌を回すときは、歯ぐきとほおの境目まで、舌を思い切り伸ばしてください。
舌を大きく動かせば、唾液腺がしっかりと刺激されますし、舌力も鍛えられます。
また、歯ぐきとほおの境目には、全身のツボが集中しているといわれています。
これらのツボも刺激するつもりで、舌を大きく回してください。
高齢者の中には「舌が疲れる」「思うように回せない」という人が少なくありません。
そんな人でも、できる範囲で続ければ、3ヵ月ほどで自在に舌が動くようになるはずです。
舌回しエクササイズは、いつでもどこでもできる点が魅力です。
私も仕事中に、マスクの下でときどき舌を回しています。
食後はもちろん、口が乾いたときなどに、ぜひお試しください。
行い過ぎて害になることはありません。