解説者のプロフィール

笹野高嗣
東北大学大学院歯学研究科教授。歯学博士、歯科医師。うま味成分を利用したドライマウスの治療法の研究に取り組む。うま味とドライマウスについての研究論文が、『Nature』に掲載され、世界的に注目を集めている。
ドライマウスの症状と原因
「朝起きるといつも口が苦い」「舌がヒリヒリして痛い」「口の中がベタベタする」「物が飲み込みづらい」「味がわからない」このような症状がある人は、「ドライマウス」という病気かもしれません。
ドライマウスとは、唾液の分泌量が減って、口の中が乾燥する病気です。
高齢者や更年期の女性に多い病気で、日本人の4人に1人はドライマウスだという報告もあります。
高齢者の場合、その原因の多くは、薬の副作用です。
唾液を分泌する唾液腺は、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の支配下にあります。
降圧剤や頻尿改善薬、睡眠薬などの薬は自律神経に働きかけるため、副作用で唾液腺の働きが鈍くなり、唾液が出にくくなるのです。
更年期の女性の場合は、女性ホルモンの分泌量の変化による自律神経のバランスの乱れがかかわっていると思われます。
そのほか、ストレスによって、自律神経のバランスが乱れて起こる例もあります。
ドライマウスで唾液の分泌量が減ると、全身にさまざまな影響が現れます。
その代表が歯周病です。
唾液には、細菌の繁殖を抑える抗菌物質や、傷の治りをよくする創傷治癒物質など、体に有用な物質が数多く含まれています。
そのため、唾液の分泌量が減ると、口内に歯周病菌が蔓延し、歯周病が進行するのです。
さらに、口内で増え過ぎた歯周病菌などの細菌は、食事や歯磨きのときにできる小さな傷から、血液中に入り込みます。
健康な人であればさほど問題はありませんが、高齢者など、免疫力(病気に対する抵抗力)が低下した人の場合、細菌が心臓の内側の膜で炎症を起こす、感染性心内膜炎などの重篤な病気に至る危険があります。
近年の研究では、歯周病は糖尿病や、手のひらなどに水ぶくれができる掌蹠膿疱症と関連があることもわかっています。
「ドライマウス」の自覚症状で最も多いのは舌のヒリヒリした痛み
「朝起きるといつも口が苦い」「舌がヒリヒリして痛い」「口の中がベタベタする」「物が飲み込みづらい」「味がわからない」このような症状がある人は、「ドライマウス」という病気かもしれません。
ドライマウスとは、唾液の分泌量が減って、口の中が乾燥する病気です。
高齢者や更年期の女性に多い病気で、日本人の4人に1人はドライマウスだという報告もあります。
高齢者の場合、その原因の多くは、薬の副作用です。
唾液を分泌する唾液腺は、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の支配下にあります。
降圧剤や頻尿改善薬、睡眠薬などの薬は自律神経に働きかけるため、副作用で唾液腺の働きが鈍くなり、唾液が出にくくなるのです。
更年期の女性の場合は、女性ホルモンの分泌量の変化による自律神経のバランスの乱れがかかわっていると思われます。
そのほか、ストレスによって、自律神経のバランスが乱れて起こる例もあります。
ドライマウスで唾液の分泌量が減ると、全身にさまざまな影響が現れます。
その代表が歯周病です。
唾液には、細菌の繁殖を抑える抗菌物質や、傷の治りをよくする創傷治癒物質など、体に有用な物質が数多く含まれています。
そのため、唾液の分泌量が減ると、口内に歯周病菌が蔓延し、歯周病が進行するのです。
さらに、口内で増え過ぎた歯周病菌などの細菌は、食事や歯磨きのときにできる小さな傷から、血液中に入り込みます。
健康な人であればさほど問題はありませんが、高齢者など、免疫力(病気に対する抵抗力)が低下した人の場合、細菌が心臓の内側の膜で炎症を起こす、感染性心内膜炎などの重篤な病気に至る危険があります。
近年の研究では、歯周病は糖尿病や、手のひらなどに水ぶくれができる掌蹠膿疱症と関連があることもわかっています。
また、特に高齢者の場合、ドライマウスが原因の味覚障害にも注意が必要です。
睡眠中に口呼吸をしていると、朝、口の中に苦味を感じることがあります。
これは口の乾きによって生じる感覚です。
ドライマウスの患者さんは、この苦味を常に感じています。
そのため、何を食べてもおいしくない、味がわからない、といった味覚障害に陥りがちです。
味がわからなければ、食事の量は減ります。
唾液が少なくて物が飲み込みづらい、歯周病で物が噛みづらいといった症状が加われば、食事の量はさらに減るでしょう。
その結果、体力が低下し、思わぬ病気やケガを招く例が少なくないのです。
このように、さまざまな弊害を引き起こすドライマウスですが、実は患者さんは、「口が乾いている」ということ自体は自覚しにくいようです。
いちばん多い症状としては、「舌のヒリヒリした痛み」で、患者さん自身も、まさかそれがドライマウスによるものだとは思っていません。
しかも、こうしたドライマウスの症状は、医療機関でも正確な診断が難しく、加齢による不定愁訴ととらえられがちです。
患者さんの中には、うつと診断され、抗不安薬を処方されたかたもいます。
それがますます症状を悪化させ、生活の質の低下につながっている、というのが、残念ながら、現状です。
ドライマウスは小唾液腺からの唾液の分泌量が減少している
私は長年、ドライマウスの治療法を研究してきました。
唾液の9割は、大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)から分泌されます。
そのため、これまでは、ドライマウスの治療は、大唾液腺に働きかけるものが主流でした。
しかし、唾液が十分に出ているのにもかかわらず、ドライマウスになる例があることが、近年わかってきました。
そこで注目したのが、小唾液腺から分泌される唾液です。
大唾液腺からの唾液分泌は、主に口に物を入れたときの刺激で起こるのに対し、小唾液腺からの唾液は、就寝時などの安静時にも分泌され、保湿成分の含有率も高いという特徴があります。
しかも、小唾液腺は口の中のあらゆるところに分布しています。
実際、ドライマウスの患者さんの小唾液腺からの唾液の分泌量を調べると、全体の唾液分泌量に比べて、低下の度合が高いことも分かりました。
うま味成分が唾液を長く分泌させる
そこで私は、小唾液腺からの唾液分泌を高めればいいのではないかと考えました。
そのための方法として用いたのが、味覚刺激です。
酸味のある食品を口に含むと、反射的に唾液が出ます。
これを利用し、レモン水や黒酢水を1日に数度口に含み、唾液を出しやすくするという訓練を考案したのです。
しかし、酸味を用いた訓練は、ドライマウスの乾いた口にしみて痛むことがある、という欠点があります。
そこで、酸味の代わりにうま味を用いることにしました。
私は、科学的に合成した基本5味(酸味、うま味、塩味、甘味、苦味)が、小唾液腺の唾液分泌量をどのように変えるのかを調べました。
小唾液腺からの唾液分泌量は、ヨウ素とデンプンを塗布した濾紙を使った、独自の測定方法で測定します。
調査の結果、口に含んだ直後に最も唾液の分泌量が多かったのは酸味、次いでうま味でした。
ただその後、酸味による唾液の分泌は減る一方だったのに対し、うま味による唾液の分泌は、長く続いたのです。

2週間で唾液が出始め半年で改善する
日本で強いうま味を持つ身近な食材といえば、なんといっても「コンブ」です。
実際に患者さんの中には「コンブ茶を飲むと症状がやわらぐ」というかたもいました。
ただ、コンブ茶は塩分が気になります。
そこで、訓練にはコンブだしを用いることにしました。
コンブだしであれば、乾いた口にしみて痛むこともありません。
現在、私はドライマウスの患者さんに対して、「コンブだしで口をすすぐ」という唾液分泌訓練を勧めています。
コンブは安いもので構いません。
効果は、個人差はありますが、2週間ほどで唾液が出るのを実感できるでしょう。
半年も続ければ、ドライマウスは改善するはずです。
コンブのだしがらは、佃煮や煮物などの料理に活用してください。
患者さんの中には、手軽に使えるように、ミキサーで砕いて冷凍保存しているかたもいます。
「いちいち自分でコンブだしをとるのはめんどう」という人もいるかもしれません。
しかし、ドライマウスに限らず、体の不調を改善する上で最も大事なのは、患者さん自身が「自分で治す」という意識です。
ぜひ、がんばって実践してみてください。
昆布だしを使った唾液分泌促進法
