解説者のプロフィール

広川雅之(ひろかわ・まさゆき)
●お茶の水血管外科クリニック
東京都千代田区神田駿河台2-1-4ヒルクレスト御茶ノ水5階
03-5281-4103
https://www.kekkangeka.com
お茶の水血管外科クリニック院長。
東京医科歯科大学血管外科で静脈の病気を専門とする。内視鏡的筋膜下穿通枝切離術(1999年)、日帰りストリッピング手術(2000年)、血管内レーザー治療(2002年)など、下肢静脈瘤の新しい治療法の研究・開発を行う下肢静脈瘤治療のスペシャリスト。著書『下肢静脈瘤は自分で治せる』(マキノ出版)『下肢静脈瘤 最新の日帰り治療できれいな足を取り戻す』(講談社)が好評発売中。
すねの骨の内側を押すとむくみの有無がわかる
夕方になると、足に靴下のゴムの痕がつく。靴がきつくなってはけない。女性なら、誰でも一度や二度はこんな経験をしたことがあるでしょう。
これは明らかにむくみの症状です。しかしむくんでいるのに、意外に自覚のない人もいます。
そこでまず、むくみがあるかどうか調べてみましょう。足のすねの骨の内側を指で5〜10秒押してみてください。
ペコンとへこんで戻らないようなら、むくんでいます。むくみは、皮膚のすぐ下の脂肪に水がたまった状態で、決して足が太ったわけではありません。
血管には、心臓から手足に血液を送り出す動脈と、手足の先から心臓に血液を戻す静脈があります。
動脈は、血管の中を勢いよく血液が流れていますが、静脈は血管壁が薄く、流れもゆっくりです。静脈を通って血液が心臓に戻ることを「静脈還流」といいます。
下肢の静脈は心臓から最も遠く、重力に逆らって血液を心臓のほうに戻さなければなりません。通常は、ふくらはぎの筋肉がポンプのように働いて、心臓のほうに戻ります。
ところが、ふくらはぎの筋肉が少ないと、このポンプ作用が弱くなり、静脈還流がスムーズにいかず、足のむくみを引き起こすのです。
また、肥満や運動不足、塩分のとりすぎ、体の冷えなども、むくみを助長します。
特に高齢者は、足を使わないことによって筋力が衰え、「廃用性浮腫」と呼ばれるむくみを起こします。
こうしたむくみは不快ではあっても、直接、病気につながることのない生理的なむくみなので、特別な治療の必要はありません
血管がコブ状に膨らむ「下肢静脈瘤」
ご自分のふくらはぎや太ももの裏を見たことがありますか?
もし、血管がコブのようにボコボコと膨らんでいたり、ヘビのようにうねっていたりしたら、それは「下肢静脈瘤」という病気です。
この病気は文字どおり、足の静脈がコブのように膨らんでしまう病気です。
下肢静脈瘤の原因は、静脈の逆流を防止する「弁」が壊れることです。
静脈には、ハの字型の弁がついていて、血液が心臓に向かって流れているときは開き、通過した後はピタッと閉じて逆流を防ぎます。それが壊れると、静脈の血流が逆流しやすくなります。
弁が壊れても、すぐに静脈瘤ができるわけではありません。その状態が長く続くうちに、次第にこぶができるのです。
特に、次のような人は要注意です。
・長時間の立ち仕事
足を動かすと、ふくらはぎの筋肉が収縮したり弛緩して下肢の静脈を圧迫し、血液を心臓のほうに押し流します。これを「筋ポンプ作用」といいますが、立ちっ放しで足を動かさないと、ポンプ作用が働かず、血液が足にたまります。
静脈の血管は薄いので、血液がたまると血管が伸びて、コブを作ってしまうのです。
・妊娠・出産経験のある女性
女性は妊娠すると、ホルモンの影響で子宮や血管がゆるみます。また妊娠後期では、赤ちゃんが大きくなって、静脈の流れを阻害します。そのため静脈瘤ができやすいのですが、出産するとよくなります。
しかし、弁が壊れた状態は残っているので、10〜20年後に再び悪くなることがあります。女性は筋力も弱いので、男性の2〜3倍多く発症します。
むくみも、下肢静脈瘤の症状の一つです。静脈瘤は、見た目が悪いだけでなく、ほかにも足の重だるさ、熱感、こむら返り、ピリピリ・チリチリした痛みなどの症状を伴います。進行するとうっ滞性皮膚炎を起こし、重度になると潰瘍(皮膚が欠損した状態)になることもあります。
ただ、こうした症状があっても、いちがいに静脈瘤が原因とは言えません。むくみやだるさ、こむら返りなどは、ほかの理由でも起こるからです。心配な場合は自己判断せず、専門医の診察を受けてください。
■下肢静脈瘤の例

典型的な伏在型静脈瘤(左)とクモの巣状静脈瘤(右)
静脈瘤は命に関わる病気ではない
静脈瘤は、足の症状がつらくなければ、必ずしも治療する必要はありません。なぜなら、命に関わるような病気ではないからです。
多くの人が、次のようなことが起こるのではと、静脈瘤に不安を感じています。
①血栓が飛んで脳梗塞や心筋梗塞(脳や心臓の血管が詰まる病気)を起こす
②コブが破れて大出血する
③潰瘍がひどくなり、足を切断する
しかし、これらはすべて、誤解に基づくもので心配はありません。
①は、まず、脚の血栓が飛んでも脳や心臓の血管が詰まることはありません。次に、静脈瘤であっても、血栓ができやすいわけではありません。
②は、破れて大出血するのは動脈瘤です。静脈瘤は、出血したとしても皮膚の下で血管が裂けて内出血する程度です。
③は、静脈瘤で潰瘍になっても、治療で治ります。
ですから、これらのことは、まったく杞憂なのです。
静脈瘤がほかの血管障害に進展したり、歩行障害のような運動障害を起こすことはありませんが、潰瘍までいってしまうと治療も大変です。ですから軽いうちに、早めに対処することが必要です。
午後から寝る前の時間帯に行うセルフケア
そこでセルフケアとしてお勧めしたいのが、「ゴキブリ体操」です。生理的なむくみや下肢静脈瘤によるむくみに、ゴキブリ体操は抜群の効果があるのです。
ゴキブリ体操は、あおむけに寝て両手、両足を上げ、ブルブル小刻みに揺らす体操です(やり方は下記参照)。
足が心臓より高い位置になることで、下肢にたまった静脈の血液が心臓に戻りやすくなります。また、手足を小刻みに動かすことで、毛細血流がよくなり、より心臓に血液が戻りやすくなります。
体操がつらいという場合には、足をイスの上に上げたり、壁に沿わせて上げるだけでもいいでしょう。手は上げなくても構いません。
ふくらはぎのポンプ運動を鍛えるという点では、あおむけに寝て足首を前後に動かす運動もいいでしょう。また、昼寝をするだけでも、むくみの解消に役立ちます。
ゴキブリ体操は、足がむくみやすくなる午後から就寝前までの時間帯にすると、効果的です。
一度に長くやって続かないより、短い時間でも毎日続けることが大事です。1ヵ月も続けると、むくみや足の重だるさなどが改善してきます。
それと同時に、むくみの原因になる生活習慣を改めることも大事です。普段からよく歩くなど、ふくらはぎを使う軽い運動をして、太っている場合は肥満を解消するよう努力してください。
下肢のマッサージや、下肢を引き締める弾性ストッキングも有効です。最近はむくみを解消するよい薬も出ていますから、一度医師に相談するのもいいでしょう。これらのむくみ対策は、下肢静脈瘤の改善や予防にも役立ちます。
なお、下肢静脈瘤によってボコボコになった血管は、ゴキブリ体操では治りません。その場合は、レーザーで焼く治療できれいに治ります。現在は、保険診療になっており、日帰りでの治療も可能になっています。
「ゴキブリ体操」のやり方

❶あおむけに寝て、両手、両足を天井に向け、なるべく床に垂直になるように上げる。

❷手と足の力を抜き、リラックスした状態で、手足をブルブルと小刻みに震わせる。30~60秒揺らしたら、いったん手足を下ろして休む。
これを数回くり返す。

手足を上げるのがつらい人は、イスや壁に足を乗せて、足の血流を心臓に戻しやすくするだけでもよい。