40代以降の女性で太っている人は要注意
ひざの専門医が、今最も注目しているのが、「プロテオグリカン」という、ひざの軟骨に含まれる物質です。
最近、これをMRI(磁気共鳴断層撮影)で見られるようになり、変形性ひざ関節症を早期に発見できるようになりました。
それによって、痛みが出る前に、この病気を予防できるようになったのです。
変形性ひざ関節症は、ひざ関節の軟骨がすり減って起こる病気です。
ひざ関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)で構成されており、その接する部分は軟骨に覆われています。
この軟骨がクッションの役割をして、ひざにかかった衝撃を吸収し、ひざがスムーズに動くのを助けています。
ところが、加齢や肥満などによって過度に軟骨に負荷がかかると、軟骨がすり減って変性し、変形性ひざ関節症が進行していきます。
プロテオグリカンは、軟骨を構成している成分で、たんぱく質に糖が結合した糖たんぱくという物質です。
軟骨の中は、コラーゲンが網の目のように張りめぐらされており、その網の目の中に、プロテオグリカンがびっしり詰まっています。
このプロテオグリカンには水を吸う性質があり、水を吸うとスポンジのように水分をため込んで膨らみます。
そこに体重がかかると、ゆっくりつぶされて縮んでいきます。
こうして水分が抜けることで、ひざにかかった衝撃を吸収しているのです。
ひざを曲げ伸ばしするときも、同じようにプロテオグリカンに圧迫が加わって水が抜け、衝撃が吸収されます。
しかし、プロテオグリカンが減ると、水を蓄えられなくなって軟骨が薄くなり、衝撃が軟骨に強くかかるようになります。
すると、コラーゲンも壊れて軟骨がはがれやすくなり、やがて骨同士がこすれ合うようになります。
このように、変形性ひざ関節症は、まずプロテオグリカンの減少から始まるのです。
プロテオグリカンが減少する原因
ではなぜ、プロテオグリカンは減ってしまうのでしょうか。
そこには遺伝的な要因もありますが、はっきりわかっているのは、次の4点です。
①加齢
プロテオグリカンが減るいちばんの原因が、加齢です。
プロテオグリカンは常に新陳代謝をしており、壊されては新しく作られます。
しかし加齢とともに代謝が落ちると、壊れたぶんだけプロテオグリカンが作られなくなり、量が減っていきます。
②過剰な運動
激しい運動などでひざを使い過ぎると、プロテオグリカンが壊れてしまいます。
30代までなら壊れても元に戻り、逆に鍛えることで軟骨が強くなります。
ところが、40代を過ぎてからハードな運動をすると、壊れても元に戻らなくなります。
しかし、運動をしない状態ではプロテオグリカンの代謝が落ちてしまうので、適度な運動は必要です。
③女性ホルモンの減少
変形性ひざ関節症は、圧倒的に中高年以降の女性に多い疾患です。
そこには女性ホルモンが関係しています。
女性ホルモンのエストロゲンには、軟骨を保護する作用があるのです。
したがって、更年期が近くなってエストロゲンが減ると、プロテオグリカンも減ります。
④肥満
体重が重いほど軟骨に負荷がかかり、プロテオグリカンは減っていきます。
以上のことから、40代以降の女性で、運動をあまりせず、太っている人は、変形性ひざ関節症のリスクが非常に高くなることがわかります。

プロテオグリカンは自分で増やせる
変形性ひざ関節症の患者さんのひざでは、必ずプロテオグリカンが減少しています。
プロテオグリカンは1970年代に見つかった物質ですが、これまで軟骨の中でどのように存在しているのか、はっきりわかっていませんでした。
しかし、MRIの技術の進歩によって、私たちはプロテオグリカンを画像でとらえることができるようになりました。
今までは軟骨の形しかわかりませんでしたが、軟骨の質(軟骨のどこのプロテオグリカンが少なく、どこのコラーゲンが壊れているか)が手に取るようにわかるようになったのです。
それによって、変形性ひざ関節症を早期の段階で診断できるようになりました。
例えば、まだ軟骨がすり減っていなくても、プロテオグリカンが減少していれば、いずれその部分の軟骨がすり減ってくることがわかります。
また、プロテオグリカンの減り方によって、どこに痛みが出るかもわかります。
また、プロテオグリカンは、自分で増やすこともできます。
その方法を、次にご紹介します。
痛くない範囲で歩くのが重要
「一度悪くなってしまった軟骨は、再生しない」と思っている人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
プロテオグリカンを増やせば、軟骨も再生します。
その方法として、私がお勧めしているのが、「10分間ウオーキング」です。
プロテオグリカンを作っている軟骨細胞は、関節に圧迫がかかって刺激を受けることで、活性化します。
ですから、歩くのがお勧めなのです。
歩くと軟骨が押しつぶされ、元に戻ります。
それがくり返されることによって、ひざの関節液が軟骨の中に入って軟骨細胞に栄養を与え、老廃物が外に出ていきます。
こうして軟骨細胞の代謝をよくすることによって、プロテオグリカンが増えていきます。
軟骨のプロテオグリカンを増やすことは、コラーゲンを守ることなので、軟骨の健康を維持するためには、非常に大事なことです。
では、10分間ウオーキングの具体的なやり方をご紹介しましょう。
10分間ウォーキングのやり方

●やり方
10分間ウオーキングは、1日3回行います。
そんなに速く歩く必要はありません。
大事なことは、痛くない範囲でひざを曲げたり伸ばしたりしながら歩くことです。
痛くて歩けない人は、イスに腰掛けて、ひざをゆっくり曲げたり伸ばしたりするといいでしょう。
痛みが軽くなったら無理のない範囲で歩き始め、歩く時間を少しずつ延ばしていきます。
ただし、やり過ぎには注意してください。
歩いた翌朝、ひざに痛みや腫れが出たら、ひざの炎症が強くなっている証拠です。
炎症は軟骨を壊しますから、痛みのあるときは、ウオーキングを休んでください。
1ヵ月で痛みが軽減し3ヵ月でほぼ消失
10分間ウオーキングにまじめに取り組むと、1ヵ月くらいで効果を実感できるようになり、3ヵ月でかなりよくなります。
その一人、Aさんの例を紹介しましょう。
Aさん(60代女性)は、1年ほど前に体調をくずして家にこもるようになってから、ひざに痛みが出るようになりました。
その後、体調がよくなって歩けるようになると、ひざの痛みはますます強くなり、歩くのも大変になってきました。
当院でMRI(磁気共鳴断層撮影)の検査を行うと、右ひざの内側にプロテオグリカンの減少が見られ、関節軟骨に変性がありました。
Aさんは痛みがひどく、運動ができない状態だったので、2週間ほど鎮痛剤で痛みを和らげた後、1日3回、10分間ウオーキングとストレッチを開始しました。
痛みは1ヵ月後くらいから軽減し始め、3ヵ月たったころには、ほぼ痛みがなくなって歩けるようになりました。
Aさんは現在もウオーキングを続けており、旅行やハイキングを楽しんでいるそうです。
なお、じっとしていてもひざが痛む場合は、変形性ひざ関節症以外の病気の可能性が高いので、ウオーキングは控え、病院を受診してください。
変形性ひざ関節症は、動き始めや歩いているときに痛むのが特徴です。
ショウガで痛みが4割減ったという報告も
このように運動でプロテオグリカンを増やすことができますが、食べ物ではどうでしょうか。
プロテオグリカンは、軟骨などの食品にも多く含まれていますが、こうした食品を取っても、胃腸で消化分解されてしまうため、プロテオグリカンがそのままひざの軟骨に届くことはありません。
ですから、食品には過度の期待はできません。
それよりもお勧めなのは、ショウガです。
ショウガを食べると、変形性ひざ関節症の痛みが抑えられるという国際的な論文がいくつも発表されており、ひざの痛みに対するショウガの有効性は、ある程度科学的に実証されています。
米・マイアミ大学が行った研究では、ショウガエキスを取ると、変形性ひざ関節症の痛みが、平均して約4割抑えられたそうです。
変形性ひざ関節症では、ひざに負担をかけると炎症が起こり、それが続くと軟骨が壊れていきます。
その炎症を抑えるのが、ショウガです。
ショウガの抗炎症作用はよく知られており、ひざの炎症や痛みにも有効とされています。
ショウガの1日の摂取量は、論文などから換算すると、60gと、かなりの量になります。
ですから、日常の食事に、なるべくたくさんショウガを取り入れるように心がけましょう。
変形性ひざ関節症は、何か一つでよくなるというものではありません。
太っている人は、まず減量し、痛み止めの薬の力を借りながらでも毎日歩き、ショウガをよく取る。
そういうことを心掛けていれば、痛みのない生活を十分維持できると思います。
解説者のプロフィール

渡辺淳也
千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座特任教授、東千葉メディカルセンターリハビリテーション
科部長。日本整形外科学会専門医。専門分野は膝関節外科学、スポーツ医学、画像診断学、リハビリテーション医学。