振り子のように足を前後に振るだけ!
ひざ痛は、多くの人を悩ませている症状です。
日本では、治療を要するひざ痛を持つ人が約800万人いるといわれ、その大部分は、変形性ひざ関節症です。
しかし、そのようなひざ痛でも、ある体操をきちんと行うことで、驚くほど改善できます。
その体操は、「ひざ振り子体操」です。
これは、イスに座って、ひざから下を振り子のように動かすだけの簡単な体操ですが、ひざの痛みを軽減し、動きをよくするのにたいへん効果的です。
軽度や中等度のひざ痛はもちろん、進行したひざ痛にも効果があります。
ひざ振り子体操を続けて、予定していた手術を回避できる例も、少なくないのです。
ひざから下を振るだけの体操で、なぜそんな効果が得られるのか、ご説明しましょう。
ひざ関節の骨同士が触れ合う部分は、滑りのよい軟骨(関節軟骨)になっています。
その軟骨がすり減り、関節の滑りが悪くなるとともに、骨同士が直接ぶつかって痛みを起こすのが、変形性ひざ関節症です(下の図参照)。
これに対してひざ振り子体操を行うと、次のような効果が得られます。
①ひざ関節の滑りがよくなり、らくに動かせる
ひざ振り子体操は、次々項でご紹介しているとおり、足が床につかない姿勢で行います。
ひざから下は約5㎏の重さがあるので、この姿勢を取ると、重みでひざ関節の骨同士の間にわずかなすき間ができます。
ひざ関節の中は、潤滑油の役目をする関節液で満たされており、すき間ができると関節液が入り込みます。
すると、氷の上に水の膜ができてツルツル滑るときのような状態(膜潤滑)が生まれ、関節がスムーズに動かせるようになるのです。
②立ち上がりや歩き始めの痛みが防げる
どこの関節でもそうですが、本格的に動かす前に、その部分の筋肉や腱、皮膚などを軽く動かすと、それらがリラックスして動きやすくなります。
ですから、動き出す前にひざ振り子体操を行うと、①の効果とも相まって、立ち上がりや歩き始めのひざ痛が減ります。
変形性ひざ関節症は、立ち上がりや歩き始めに特に痛むのが特徴で、これを「スターティング・ペイン」といいます。
それが、ひざ振り子体操で防げるのです。

すり減った軟骨に栄養が行き渡る
③軟骨の栄養状態がよくなり、重要な成分が保たれる
関節液は、軟骨に栄養を補給する役目も果たしています。
血管を持たない軟骨組織には、関節中の成分がしみ込むことで、栄養補給されるのです。
ひざ振り子体操で、骨同士の間、つまり軟骨面に関節液が入り、さらに関節を動かすと、軟骨に効率よく栄養が補給されます。
軟骨中のプロテオグリカンという重要な成分は、加齢とともに減り、これもひざ痛の悪化要因になります。
しかし、ひざ関節を動かすほどプロテオグリカンが保たれることが、実験でも明らかになっています。
④軟骨の再生が促され、さらに痛みが取れる
変形性ひざ関節症では、軟骨が変性してすり減ってしまいますが、ひざ振り子体操を続けていると、再生が促されます。
もともとのひざ軟骨は、表面がツルツルした硝子様軟骨です。
ひざ振り子体操で再生する軟骨は、表面がややざらっとした線維性軟骨で、元のものとは少し違いますが、骨を保護して痛みを取るには十分です。
以上、①②はその場で得られる効果、③④は続けることで得られる効果であり、多彩な側面から、ひざ振り子体操はひざ痛に効果を発揮するのです。
やるとすぐに効果を実感できる
私の経験では、②で述べたスターティング・ペインに対しては、ほぼ100%の効果があります。
また、ひざ痛がひどく、イスからも必死の思いで立ち上がる人に、診察室でひざ振り子体操をやっていただくと、スクッと立ち上がれるようになります。
その変化に、患者さん自身がとても驚かれます。
手術を予定していたものの、ひざ振り子体操を続けているうちに痛みが緩和され、手術を延期したり中止したりするケースも、10人中2〜3人くらいの割合で見られます。
ですから、手術が決まった人もあきらめずに、まずはひざ振り子体操を取り入れてみてください。
ひざ振り子体操は、目安として、朝起きた直後、午前10時ごろ、昼、午後3時ごろ、夕方、夜と、1日6回行います。
他にもできるときは、もっと行うとさらに効果的です。
同時に、生活の中で立ち上がる前や歩き始める前に、数回でもいいので、ひざから下をプラプラ振ることを習慣にするとよいでしょう。
なお、ひざ痛の原因には、腫瘍や骨壊死など重大なものもあり、その場合はひざ振り子体操では改善できません。
ただし、関節リウマチのひざ痛で、朝、動かし始めの痛みを抑えるには有効です。
ですから、ひざ痛のある人は、まずは病院を受診して、ひざ痛の原因を確かめましょう。
変形性ひざ関節症であれば、ぜひ、ひざ振り子体操をお役立てください。
歩き始めの痛みに著効!「ひざ振り子体操」のやり方


・1日のうちいつ、何回行っても構いません。立ち上がる前、歩き始める前に必ず行うと、痛みがほぼ100%軽減します。
・振るほうの足の力はできるだけ抜きます。
・足の力を抜きにくい場合は、床に足がつかない高いイスに座って行うか、イスの座面の下に座布団などを敷き、足が床から浮くように高さを調整して行ってください。
・足を振るとき、振るほうの足のつま先を気持ち内側に向けて行うと、より効果的です。
・骨折や関節炎など、なんらかの重度の炎症がある場合は、行わないでください。
解説者のプロフィール

勝呂徹
東邦大学名誉教授