解説者のプロフィール
科学的根拠のある野菜スープ
「おや、これはおもしろい」1995年のある日、私は当時、愛知がんセンター研究所長を務めていたのですが、熊本大学医学部教授(現名誉教授)の前田浩先生から、『野菜はがん予防に有効か』(絶版)の著書を贈っていただいたのです。
私の専門は疫学です。
疫学とは、病気や健康状態について広い地域や多数の集団を対象とした調査を行い、その原因や発生状況を統計学的に明らかにする学問で、「病気の予防」を大きな目的としています。
それだけに、本のタイトルにある「がん予防」という言葉に惹きつけられたのです。
さっそくその本を読んだところ、「野菜類を煮てスープにすると、活性酸素を消去する抗酸化作用が増強し、がんや老化の予防には、生野菜よりも有効」という内容が書かれていました。
活性酸素は、私たちが生きている限り、体内で発生する有害物で、がんをはじめとするさまざまな病気や老化を進める主因となります。
前田先生のご著書では、その活性酸素から身を守る方法として、野菜スープという身近なものを勧めていたのです。
しかも、その裏付けとなる実験結果などの科学的根拠がしっかり記載されていました。
私は「すばらしい本だ」と感激し、以後、講演会など、いろいろな機会にこの本を勧めるようになりました。
同時に、自分でも野菜スープをとりはじめたのです。
「自分にとって食べやすく、しかもおいしい方法でないと続かない」と思ったので、私は知恵を絞り、「鍋物」として野菜スープをとることにしました。
私は鍋物が大好きで、当時も今もよく食べます。
鍋物にハクサイ、ダイコン、ニンジンなどの野菜をたっぷり入れて煮込み、汁ごととれば、すなわち野菜スープになります。
そこで、週のうち5日くらいは鍋物を食べるようにしました。
しょうゆやみそで味つけすると塩分をとり過ぎるので、味はつけずに水炊きにします。
私も妻も、ふだんから塩分は極力とらないようにしていて薄味に慣れているので、そのままでもじゅうぶんおいしく食べられます。
こうして夕食で、汁ごと3分の2ほどを食べ、残りの3分の1は翌朝食べるようにしました。
野菜スープで白内障が消えた?
そんなふうに野菜スープをとっていたところ、2004年になって、野菜スープにまつわる耳寄りな情報を知りました。
この年、福岡で開かれた日本癌学会の懇親会に出席したところ、たまたま同じテーブルにおられた九州大学名誉教授の倉恒匡徳先生が、「前田教授の勧めにしたがって野菜スープを飲んでいたら、白内障が改善しましたよ」とおっしゃったのです。
我が身を振り返ると、その10年ほど前、私も人間ドックで白内障を指摘されていました。
しかし、日常生活に支障がないので、そのまま放置していたのです。
通常、何の対策もしないで10年もたてば、白内障が進んで徐々に視界がかすんでくるものです。
ところが、まったくその気配はありません。
私は、白内障と診断されたあとに、前田先生の本を読み、鍋物スタイルで野菜スープをとり始めたので、「倉恒先生と同じように、自分の白内障も消えてしまったのではないか」と考えました。
少なくとも進行していないのは野菜スープのおかげだと思い、ますます熱心に野菜スープを飲むようになりました。
鍋物スタイルは続けつつ、それと別に、朝も野菜スープを飲むようになったのです。

スープのだしも手作り
野菜スープはいつも妻が作ってくれるのですが、上の写真はその一例です。
作り方は以下の通りです。
我が家では、だしも手作りです。
●だしの作り方
1リットルほどの水に、5cm角のコンブ2枚、干しシイタケ2枚、頭と腹を除いた煮干し5~6尾を入れて一晩おく(このだしはスープを作るときに使う)。
●野菜スープ(鍋)の作り方
①朝、500mlほどのだしと、コンブなどのだし殻も一緒に鍋に入れる。
②ダイコン、ニンジン、タマネギ、サニーレタス、ネギ、チンゲンサイ、ダイコン葉などを入れてじっくり煮る。
材料は日によって違うが5種類ほどの野菜をたっぷり入れる。
厚揚げなどを加えることもある。
10分ほどかけて煮る。
煮るというより煎じる感じ。
③小鉢に取り分け、そのまま味つけしないで食べる。
コンブなどの塩分があり、野菜のうま味もたっぷり出ているので、調味料を加えなくても、そのままおいしく食べられます。
味が薄いと感じる人は、ごく少量のしょうゆを垂らしてもいいでしょう。
我が家には、塩分のとりすぎを避けるため、昔からみそは置かず、みそ汁も飲む習慣がありません。
この野菜スープを、朝のみそ汁代わりに飲んでいます。

シンプルでおいしいから続けられる
この野菜スープをとり始めてしばらくたったころ、妻が私の顔をまじまじと見て、こう言いました。
「あなた、シミが薄くなったわねえ」私は現在79歳で、10年ほど前から老人斑と呼ばれるシミが増えていました。
ところが、野菜スープを飲むうちに、そのシミが非常に薄くなっていたのです。
鏡を見ると、自分でも薄くなったのがはっきりわかります。
男性でも、シミが薄くなるのはやはりうれしいものです。
白内障の症状も、引き続き出ておらず、視界はクリアそのものです。
そればかりか、老眼も進んでおらず、裸眼で不自由なく新聞を読めます。
おまけに歯は1本も抜けてなく、すべて自分の歯です。
一緒に野菜スープを飲んでいる1歳年下の妻も同様で、白内障も老眼もなく、親知らず以外の歯は全部残っています。
毎年の健康診断では、医師から、「このお年にしては驚くほど異常なしですねえ」と、ちょっと悔しそうに言われます。
私は医療機関とは無縁です。
妻は軽度の生活習慣病があり、ときどき通院していますが、それでも年齢の割には元気なほうだと思います。
これは野菜スープのおかげが大きいと考えています。
もちろん、健康維持には食事だけではダメで、夫婦で1日8000歩を目安に歩くとともに、太極拳も行っています。
「良薬口に苦し」と言いますが、野菜スープはおいしくなければ続きません。
それも、1回や2回おいしいのではダメで、毎日おいしく食べられることがたいせつです。
じっくり煮込んだ野菜スープは、シンプルですが、ほんとうにおいしく、無理なく続けられます。
富永祐民先生の野菜スープの作り方

富永祐民
1937年、兵庫県生まれ。1962年、大阪大学医学部卒業。米国メリーランド大学医学部准教授、愛知県がんセンター研究所疫学部長などを経て、2001年、愛知県がんセンター総長に就任。2003年、同上退職、名誉総長。日本における疫学研究・予防医学の先達で、主に循環器やがんの疫学に長く取り組む。日本癌学会会長、日本がん予防学会理事長、日本疫学学会会長なども歴任。