解説者のプロフィール
「足の裏の衰え」が腰痛やひざ痛につながる
ひざ痛や股関節痛といった足の症状に悩むのは、男性より女性に多い傾向があります。
特に『ゆほびか』の読者に多い40~50代くらいから痛みが出始めて、そのまま持病になってしまう人が多いようです。
私の専門領域は、脊椎・脊髄外科です。
慢性腰痛や、腰が曲がってしまう脊柱変形の患者さんをよく診ますが、こちらも女性に多い傾向があります。
これは男性よりも女性のほうが筋肉量が少なく、衰えやすいことが原因です。
この話は、全身の筋肉に当てはまるのですが、私が特に顕著だなと感じているのは、足の裏の筋肉です。
腰痛やひざ痛に悩む女性の足の裏は、土踏まずがしっかり形成されていない「偏平足」の人が多いのです。
土踏まずがしっかり形成された足の裏は、歩いたり、走ったりして着地するときに、衝撃を吸収するクッションのような役割を果たします。
また、バランスよく重心を移動させるバネの働きもします。
土踏まずのない偏平足では、クッションもバネも働きません。
足の裏から足首、ひざ、股関節にかけて大きな加重ストレスがかかるので、関節が故障しやすくなるのです。
足の裏の筋肉が衰えると、末梢の循環が悪くなり、足が冷えたり、むくんだりします。
末梢の血流が悪くなると、全身の血流も悪くなります。
これが全身の不調やこり、痛みなどにつながっていくわけです。
リオ五輪で日本勢として96年ぶりの銅メダリストとなった男子テニスの錦織圭選手は、もともと右足首に故障を抱えていて、それをかばうために左足にも大きな負担を与え、結果さらに故障が増えるという悪循環に陥っていたそうです。
そこで錦織選手は、トレーナーの指導で、「足の指先でタオルをつかむ」などの足の裏と指を鍛えるトレーニングを行いました。
トレーニングを続けた結果、足の裏および足指の筋肉がしっかり鍛えられ、足首の可動域も広がり、右足首や全身の故障を克服したそうです。
これが現在の活躍にもつながっています。
錦織選手のケースからもわかるとおり、足の裏の筋肉というのは全身の礎であり、ここをしっかり鍛えることがあらゆる痛みや不調を解消することにつながっていくのです。
立ち姿、歩き姿もガラリと変わる!
それでは、具体的にどのようにして足の裏を鍛えればいいのでしょうか。
ここでは自宅や職場でも簡単にできる足の裏のトレーニングのやり方をご紹介しましょう。
まず、偏平足の人や足の指が固まっている人に勧めたいのが、「足指ほぐし」。
足の指を1本ずつ伸ばしたり、回したりしながら、ほぐしていってください。
これをやるだけでも足の血流はよくなるため、体に変化があるはずです。
次に、「足のグーパー運動」。
下記画像のように、イスに座って足の指をギュッと折り曲げてグーを作り、パッと広げてパーにします。
この動作を繰り返します。
足のグーパー運動は、私も机に向かっているときなどによくやっています。
手術を行うときは10時間以上立ちっぱなしということもざらにあるので、そういうときでもしっかり立って執刀できるように、足の裏の鍛錬は欠かせないのです。
余裕のある人は、さらに「つま先とかかとの上下運動」も行うと効果的です。
足の裏を鍛えると同時に足首の可動域を広げる効果もあり、ふくらはぎも鍛えられます。
これらの動きはすべてイスに座ってできる簡単な動作ですが、やってみると汗が噴き出てくると思います。
それほど運動効果が期待できるトレーニングです。
足の裏が鍛えられると、痛みや体の不調の改善につながるだけでなく、立ち姿や歩き姿などといった外見の美しさ、若さにも効果が現れてきます。
ぜひ日々の習慣に足裏トレーニングを取り入れて、いつまでも健康な足でいてください。
足裏トレーニングのやり方

松山幸弘
広島大学医学部卒業。半田市立半田病院、名古屋大学大学院医学系研究科准教授を経て、2009年より浜松医科大学教授。2016年より浜松医科大学医学部附属病院病院長も務める。日本整形外科学会代議委員、日本脊椎脊髄病学会理事。専門は脊椎脊髄。脊髄再生、脊柱変形の手術で多くの症例を有するが、なるべく手術をせずに体を健康に保つ運動療法なども勧めている。