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【歯周病菌の除菌方法】注目の歯科技術「3DS」とは?

【歯周病菌の除菌方法】注目の歯科技術「3DS」とは?

ムシ歯や歯周病は、口の中にいる細菌が原因で起こります。ご存じのように、ムシ歯や歯周病は歯を失う最大の原因となります。そこで注目されているのが、ムシ歯や歯周病の原因菌を除菌する「3DS」(デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム)という技術です。【解説】花田信弘(鶴見大学歯学部探索歯学講座教授)


ムシ歯や歯周病は、口の中にいる細菌が原因で起こります。
ムシ歯は成人の約9割に、歯周病は50代以降の5割以上に見られるというほど、ごく身近な病気です。

ご存じのように、ムシ歯や歯周病は歯を失う最大の原因となります。
さらに歯周病の怖さは、それだけではありません。

近年の研究から、歯周病を引き起こす細菌が動脈硬化や糖尿病、さらには認知症や関節リウマチなど、さまざまな病気の発症にかかわることがわかってきました。
そこで注目されているのが、ムシ歯や歯周病の原因菌を除菌する「3DS」(デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム)という技術です。

開発者の鶴見大学歯学部、花田信弘先生にお話を伺いました。

【取材・文】山本太郎(医療ジャーナリスト)

開発者のプロフィール

花田信弘
1981 年、九州歯科大学歯学部卒業後、同大学院修了。米国ノースウェスタン大学博士研究員、国立感染症研究所部長、九州大学教授等を経て2008 年より現職。歯原性菌血症および、内毒素血症の予防を中心に「微生物と健康の関係」について基礎と臨床の研究を行う。著書に『オトナこそ歯が命』(小学館文庫)、『白米が健康寿命を縮める』(光文社新書)などがある。

歯周病菌は歯ぐきの出血をエサに増殖する

――そもそも歯周病とは、どのような病気なのでしょうか。
全身の健康にもかかわると聞きますが?


歯周病は、歯周病菌が出す毒素が原因で起こる炎症性の疾患です。
炎症が、歯ぐきのみに限られている場合を「歯肉炎」といいます。

歯ぐきが赤くなり、歯みがきなどの刺激で出血しやすい状態です。
歯周病菌はこの出血部の血をエサにするので、放置していると、どんどん増殖して症状を悪化させます。

炎症が歯ぐきだけでなく、歯を支える歯槽骨や歯根膜に広がったものを「歯周炎」といいます。
歯と歯ぐきの間に溝(歯周ポケット)ができて汚れがたまりやすくなり、さらに細菌が繁殖しやすくなります。

一般に、この歯周ポケットの深さが4㎜以上になると「歯周病」と診断されます。
歯周病を放置していると、やがて細菌によって歯槽骨が溶かされ、最後には歯が抜けてしまいます。

しかも、歯周病は口の中だけの問題にとどまりません。
近年、さまざまな研究から歯周病と他の病気とのかかわりが明らかになってきています。

炎症が進むと、歯ぐきの毛細血管が破壊され、そこから歯周病菌が血管内に侵入して、全身に回ります。
実際に歯周病菌が体のいろいろな部位の血管から発見されています。

血管に入った細菌は通常、免疫(病気に抵抗する働き)の働きによって死滅するのですが、やっかいなことに歯周病菌の死がいからは毒素が放出され、それがさまざまな悪さを働くのです。

糖尿病の悪化にも歯周病が関連している

──具体的には、どんな悪影響があるのでしょうか?

まず、血管への悪影響です。
歯周病菌の刺激により、動脈硬化を促す物質が出てしまいます。

ご存じのように、動脈硬化が進行すると、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)などの重大な病気につながってしまいます。
疫学調査の結果から、歯周病の人は、そうでない人の3倍近くも脳梗塞を発症しやすくなるといわれています。

歯周病菌は糖尿病とも、深くかかわっています。
昔から、糖尿病の人は歯周病になりやすいことが知られていましたが、逆に、歯周病が糖尿病の悪化にかかわることがわかってきたのです。

歯周病菌の毒素が血管内に入り込むと、免疫細胞の一種であるマクロファージからTNF‐αという物質が作られます。
この物質が増えると、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が作られにくくなることがわかっています。

つまり、歯周病の存在によって血糖値が上昇し、糖尿病のコントロールをますます困難にし、同時に歯周病も進行していく悪循環に陥るのです。
歯周病と認知症の関係も注目されています。

まず、前述のように、動脈硬化が進んで脳の血管が詰まりやすくなり、脳血管型の認知症リスクが高まると考えられています。
さらに、アルツハイマー型認知症の原因となるたんぱく質(アミロイドβ)の沈着が、歯周病菌の毒素によって起こりやすくなるとの報告もあります。

疫学調査の結果からも、残っている歯の本数が少ない人ほど認知症の発症率が高まると報告されています。
かむことができなくなり、脳への刺激が減ることが脳機能を衰えさせるのではないか、といわれています。

歯周病で歯が抜けてしまうことも、認知症につながる可能性があるわけです。
このほかにも、関節リウマチ、腎臓病、低体重児出産、クモ膜下出血などと歯周病の関連が報告されています。

口の中の悪玉菌だけを減らすことが重要

──歯周病は思った以上に怖いのですね。
では、口の中の病原菌を除去する治療法の「3DS」とは、どのようなものなのでしょうか?


歯にかぶせるマウスピースのような専用のトレー(容器)を作り、その中に薬を入れて装着することで、ムシ歯や歯周病の原因となる悪玉菌を除菌する方法です(下記参照)。

口の中には、もともと多くの細菌がすみ着いています。
その中には有益な働きをする善玉菌もあれば、有害な働きをする悪玉菌もあり、菌同士が勢力争いをしています。
わかりやすく表現すると、口の中でさまざまな細菌が「イス取りゲーム」をしているようなものです。

最近よく話題になる腸内細菌と同様のことが、口の中でも起きているわけです。
善玉菌が優勢であれば、悪玉菌の繁殖は抑えられて、悪さをしにくくなります。

けれど、いったん悪玉菌が優勢になってしまうと、退治するのが困難です。
歯みがきなどのケアを行っていても、ムシ歯や歯周病になりやすい人は、悪玉菌が優勢の状態になっていると考えられます。

しかし、単に除菌作用のある薬を口の中全体に使っても、悪玉菌も善玉菌も同時に死滅させてしまいます。
その後に悪玉菌が再び勢力を強めると、結局は元のもくあみです。

悪玉菌だけを減らし、口の中の細菌バランスを善玉菌が優勢な状態にするためには「歯だけに薬を使う」ことが必要です。
ムシ歯の原因となる、ミュータンス連鎖球菌や一部の歯周病菌は、歯に付着して増殖する性質があります。

ですから、歯だけに薬を使えば、善玉菌は殺さず、ムシ歯菌や歯周病菌だけを減らせるわけです。
ところが、ここでも一つ問題があります。

歯に付着した細菌は、「バイオフィルム」と呼ばれる強力な粘着質の膜を作り出し、その中で活動しています。
歯の表面や口の中がヌルヌル、ネバネバするのは、このためです。

歯の表面にそのまま薬を塗っても、バイオフィルムの内部に浸透できませんし、だ液によって口の中で薬が希釈され、十分な効果を発揮できません。
でも、まずバイオフィルムを破壊した上で、歯の表面にある程度の時間、集中的に薬を付着させられれば、十分な除菌効果が得られます。

この考え方に基づいて開発されたのが、3DSです。

3DSの方法

歯ぐきがピンク色になり口臭がなくなる

──3DSによる治療は、どのような流れで行われるのでしょうか?

まず、患者さんの歯型を精密に型取りし、薬剤の受け皿となる樹脂製のトレーを作製します。
次に、専用器具を用いて口の中を清掃し、バイオフィルムを可能な限り除去します。

そして、殺菌消毒剤や抗菌剤の入ったトレーを上下の歯に5分程度装着し、除菌を行います。
こうすることで薬が十分な濃度で歯の表面にとどまり、効果的に除菌できるのです。

何回か通院してもらって同様の処置を行い、だ液検査で口の中の細菌の比率を確認しながら、除菌をくり返します。
また、自宅でも継続的にケアを行います。

1日1回、寝る前の歯みがき後に薬を入れたトレーを5分間装着し、歯の表面に作用させるのです。
悪玉菌が減ると、歯の表面に善玉菌が定着します。

善玉菌優位の状態にリセットすることが3DSの目的です。
3DSを行うと、歯の表面がツルツルになり、口の中のねばつきが消えます。

ねばつきの原因は、炎症による微小な出血ですが、それがなくなるからです。
そして、歯ぐきが健康的なピンク色になり、引き締まってきます。

口臭がなくなる効果を実感される人もよくいます。
口の中の悪玉菌を減らし、善玉菌が増加するので、生活習慣やデンタルケアを適切にしていれば、ムシ歯や歯周病にかかりにくくなります。

歯周病の治療をすると、血管年齢が若返ることも、さまざまな調査結果から明らかになっていますから、生活習慣病の予防や改善にもつながるといえるでしょう。

歯の病気の根本的な原因を排除する方法

──3DSは、どのような人にお勧めですか?
また、受けたい人はどうすればいいのでしょうか?


特にお勧めしたいのは、歯列矯正やインプラントを行う人です。
歯列矯正で歯にワイヤーを装着すると、ムシ歯菌が増えやすくなります。

また、インプラントにすると構造的に、天然の歯と骨(歯槽骨)の間にある歯根膜がなくなります。 
それによって細菌に対する防御機構が弱まってしまうため、いったん炎症が起こると、天然歯よりも骨の吸収が一気に進んでしまいやすいのです。

歯列矯正やインプラントを行う人は、口の中の細菌に対するケアが、それまで以上に重要になると考えるべきでしょう。
それから、外科手術を受ける予定のある人にも、ぜひお勧めしたいと思います。

例えば、緊急ではない循環器病の手術やガンの切除手術などです。
外科手術では感染症対策をしますが、それによって外部の菌は防げても、口の中にすでにいる菌は防げません。

歯周病菌が血管を通じて手術後の患部に侵入し、傷の治りを悪くするなどの弊害を引き起こす恐れがあるので、事前に対策をしておくのがいいでしょう。
3DSを実施している歯科医院については、鶴見大学歯学部のホームページで、全国の歯科医院や歯科医師を紹介しています。

ただ、この治療は現在、健康保険の適用でなく、治療費は患者さんの自己負担となります。
医療機関によって異なりますが、トレーの作成と細菌の検査などを含む治療費で、およそ10万円前後かかるでしょう。

トレーは一度作れば、2年くらいは使用可能です。
自宅でのケアに用いる薬剤は、歯科医院で処方してもらうか、市販の洗口剤を用いてもよいのですが、それほど高いものではないので、月額で数百円程度でしょう。

ムシ歯や歯周病が進んで歯を失い、インプラント治療を受ければ1本で数十万円かかります。
それを考えれば、予防的治療にもう少し費用をかけることも、検討してみていいのではないでしょうか。

例えば内科では、高血圧や高血糖など、検査値の異常が見つかれば生活習慣病と診断し、治療を開始します。
しかし、歯科医療では、実際に悪くなってから、ようやく治療を開始するということが一般的です。

歯科医療だけが根本的な原因を除かず、発症するまでただ放置するという考え方でいいのでしょうか?
すべての人が、自分用のトレーで歯の除菌を行うようになれば、生活習慣病の予防にもなり、医療費削減にも貢献できるはずです。

3DSが、歯みがきと同じように、新たな生活習慣として普及するように努めていきたいと考えています。

3DSがお勧めな人

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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