あなたの隠れた感情は見えないところにある
僕は今、世界でただ一人の「空間診断士」という肩書きで仕事をしています。
掃除のやり方を教えているのではなく、掃除に向き合うときの心のあり方をお伝えしています。
例えば、誰かが怒っていたり、悲しんでいたりした部屋は、何となく“空気が重い”と感じませんか?空気も空間も変わらないはずなのに、なぜ重いと感じるのでしょうか。
それは、人は自分が思っている以上に、空間や空気を敏感に読み取る能力を持っているからです。
そして僕は、空間は自分の中にある感情と密接につながっているという前提のもと、掃除をしています。
もしよどんだ空間があるとすれば、その空間に関わる人の心の中にもよどみがあるということ。
掃除をすればよどみがなくなるからといって、イライラしながら掃除をしたとして、はたしてその空間の滞りはなくなるでしょうか。
また、その人の心のわだかまりはなくなるでしょうか。
その空間に眠る当人も気づかなかったメッセージを読み解いて差し上げるのが、僕、つまり空間診断士の役目だと思っています。
幸せになるため、会社の売り上げを上げるために掃除をしましょう、という短絡的な方法論ではありません。
あなた自身が心のあり方を決めさえすれば、結果的に幸せになり、売り上げが上がってしまうだけなのです。
現在、全国でセミナーや講座、個人セッションなどを通してたくさんのかたから夫婦の仲がよくなった、病気が治ったなどの喜びの声をいただいています。
でも、それは僕がすごいのではなく、「そのことに気づいたあなたがすごいんです」とお伝えします。
なぜなら僕は、「自分がその場所だったら、どんなふうに掃除されたいかを考えてください」「ふだん意識しないところにこそ、あなたの感情が眠っているので、そこを探して掃除してください」なんて話を皆さんにしているだけですから。
1000回やり続けたら人生が変わる
そもそも僕だって、最初からトイレ掃除が好きだったわけではありません。
僕の両親は岡山県の山奥で、自然食を提供する宿を営んでいましたから、子どもの体のことを考えて、学校給食ではなく発酵食品中心の手作り弁当を毎日持たせてくれました。
僕は生後8カ月で化膿性髄膜炎(※:細菌感染によって起こる中枢神経系の感染症。発熱、頭痛、嘔吐、昏睡などの症状が出る)と水頭症(※脳脊髄液の産生・循環異常などで髄液が頭蓋腔内にたまり、脳室が正常より大きくなる病気。脳機能に影響を与える)という病気になりましたが、後遺症も残らず、今元気でいられるのは、両親の祈りと徹底的な食の管理のおかげです。
でも、食のたいせつさを知ってはいても、中学校では自分のお弁当のにおいが原因でいじめられ、学校に行くのが嫌になりました。
そこで父に「学校をやめたい」と言うと、父は反対するどころか万歳して大喜びするのです。
「学校に行っていようがいまいが、生きているだけで100点満点だ」と僕の可能性を信じる父は、普通の親では信じられない反応をいつもするんです。
そして、僕にこんな言葉を投げかけてくれました。
「おまえが苦手なことをたった一つでいいから毎日続けてごらん。
必ず人生は変わるから」
そのときに僕が決めたのが「トイレ掃除」でした。
父のひとことをただただ信じようと思えたのは、それまでの父の生き様と、叶えたい願いをすべて叶えてきた人だからかもしれません。
トイレから泣いて出てくる人が続出
最初の1年めは、宿のお客さんがほめてくれるのがうれしくてトイレ掃除を続けていました。
ところが、うちの民宿はリピーターさんがとても多く、トイレ掃除を1年も続けると、お客さんにとっては僕がトイレ掃除をするのはあたりまえになります。
僕は誰にも褒めてもらえず不満が募りました。
要するに誰かのため、誰かに認められるために掃除をしていたのです。
「僕を見て。僕はこんなに頑張っているんだ」そういう感情が、僕が掃除をした空間には残っていたんです。
どんなにきれいにしても誰もほめてくれない。
自己顕示欲が強くなればなるほど、空間には重い感情が残りました。
だから僕は自分自身が楽しくなるように便器に話しかけたり、床に寝そべったりして、トイレと仲良くなることにしました。
がむしゃらにきれいにする掃除から、自分を楽しませる掃除に変えたのです。
それまで見なかったところを掃除するようにしました。
すると不思議なことに、トイレを使った後に涙を流して出てくる人が続出したんです。
それは喜びの涙でした。
楽しみながら掃除をすると、その感情が空間に残り、使う人に伝わるのです。
これに気づいたとき、掃除とはただきれいにすることが目的ではないとわかりました。
中学卒業後、ニュージーランドに留学し6年間過ごしましたが、その地でおむすびの専門店「おむすび権米衛」の岩井健次社長と出会い、「空間のわだかまりを取り除くこと」を仕事として顧問契約を結ぶことになりました。
それが評判になると、さらにいくつかの企業から声をかけられ、なかには売り上げが150%になる企業もありました。
また、「掃除の講座をして欲しい」という人たちも集まるようになりました。
今の僕は人が掃除したがらない汚い場所を見つけると、宝の山を見つけたような気持ちになります。
皆さんもまず、家の気になるところを1日に3秒間でいいので、本気で、心を入れて掃除してみてください。
3秒間でも心を入れて掃除すると、空間は変わります。
これを21日間続けると、なにより心を入れて掃除を続けることに慣れてきます。
いやいや人にやらされるのではなく、自分から楽しんで掃除が続けられるようになること、自分の心を磨くことが、幸せな空間づくりの第1歩なのです。

解説者のプロフィール

船越耕太
岡山県生まれ。空間診断士。
父から言われた一言で中学1年生から掃除を続ける。
目に見える空間と心の空間は密接に繋がっていることを1000日を超えたあたりから感じるようになる。
18歳のときに飲食チェーン「おむすび権米衛」と顧問契約を結び、売り上げを大きく伸ばすことに成功。
現在は顧客4万人の食と掃除のコンサルを行いながら、年間100本以上の講座・セミナーをこなしている。
●船越耕太オフィシャルサイト
http://funakoshikota.com/