解説者のプロフィール

矢野英雄(冨士温泉病院名誉院長)
●富士温泉病院
山梨県笛吹市春日居町小松1177
[TEL]0553-26-3331
http://fujionsen.jp/

股関節痛にはノルディックウォークが効果的
股関節の軟骨が再生した例も多い
変形性股関節症では、慢性的な痛みが患者さんを苦しめます。そんな痛みから今すぐ逃れたいという人は、手術療法を選ぶのもよいでしょう。
しかし私は、変形性股関節症の多くは、保存療法(運動療法を含む、股関節への負担を軽減するための生活指導)で、股関節の機能を再建できると考えています。変形の進んだ股関節も、日常生活の中で筋肉と神経を疲弊させない程度に、痛みをコントロールできれば、修復は十分可能なのです。
この痛みのコントロールに役立つのが、「股関節らくらく日記」です。
これまでに私は、変形性股関節症の患者さんの多くに、股関節らくらく日記をつけて痛みをコントロールするように勧めました。その結果、個人差はあるものの、1~2ヵ月ほどで、患者さんの多くに改善傾向がみられています。
軟骨が再生したり、大腿骨頭(太ももの骨の先端の丸い部分)がきれいに整うなど、レントゲン写真上で変化を確認できた例も少なくありません。
そもそも変形性股関節症は、臼蓋形成不全という特性を持った人によく現れます。臼蓋形成不全は、臼蓋と大腿骨頭の接する面積が少ないため、上体の重さが負担となって、股関節を損傷しやすいと考えられます。
さらに、加齢によって歩行時の複雑な神経・筋肉の調整機能が衰えると、股関節は些細なことでも壊れやすくなります。40~50代の女性の場合、骨粗鬆症によって、股関節がよりもろくなっているはずです。
治癒能力も加齢によって衰えるため、損傷の修復は容易ではありません。その結果、股関節の損傷は次第に大きくなり、ついには激しい痛みや関節の変形に至るのです。
痛みは神経や筋肉の緊張・疲労を招きます。この状態が続けば血流が悪化し、股関節はますます壊れやすくなります。変形性股関節症は、痛みによって進行するといっても過言ではないのです。
ただ、加齢によって治癒能力が完全になくなるわけではありません。十分な安静を保てば、股関節の再生は可能です。しかし、日常生活の中で股関節を完全な安静状態に保つのは不可能といっていいでしょう。
そこで必要となるのが、痛みのコントロールです。痛みを可能な限り軽くし、神経や筋肉の緊張・疲労を取り去れば、完全な安静状態を保たなくても、股関節はゆっくりと修復へ向かいます。
痛みをコントロールするためには、まず痛みの程度を客観的に把握しなければなりません。とはいえ、股関節痛に限らず、すべての痛みは患者さん自身にしかわからない、主観的なものです。そこで役立つのが、股関節らくらく日記です。
股関節らくらく日記では、前日と比較してどれだけ痛むか・痛まないかという痛みのスケール(度合い)を、患者さん自身が日々記録していきます。
ある程度の期間にわたって記録すれば、その記録は痛みを客観的に把握する「ものさし」となります。このものさしを元に、痛みの少ない生活を心掛ければ、股関節は修復へ向かうはずです。

股関節らくらく日記のやり方
股関節らくらく日記の項目は次のとおりです。
(1)日付
(2)痛みのスケール(度合い)
(3)歩数
(4)コメント
この4項目のほかにも、「天気」「体重」「服用薬」「リハビリ内容」など、自分で痛みを左右すると思われる項目を設けてもよいでしょう。患者さんの中には、痛みのスケールと歩数の関係がひと目でわかるように、グラフ化している人もいます。
これをつけていると、どんな条件で痛みが増減するのかが見えてきます。「自転車に乗ったら痛みが増した」「鍼灸で痛みが和らいだ」など、自分の条件が見えてきたら、痛みの軽い生活を送りやすくなるはずです。
私の経験では、変形性股関節症の患者さんは、心身とも活動的な人が多いようです。臼蓋形成不全は臼蓋の被りが浅いため、足の可動域(動かせる範囲)が広く、運動能力が高い人が少なくありません。体が人よりよく動けば、性格も自然と社交的、活動的になるのでしょう。
ただそのような人は、変形性股関節症で体が今までのように動かなくなると、その分、ストレスも感じがちです。強いストレスは、痛みを増強させます。
また、過去の記憶から「この程度の運動なら大丈夫」と思い込み、股関節に負担をかけることも少なくありません。股関節らくらく日記は、過去の記憶に惑わされずに、現状を客観視するツールにもなるのです。

股関節痛にはノルディックウォーキングも効果的
股関節らくらく日記のほか、スキーのストックに似た2本のポールを使って歩くノルディックウオークも、股関節の機能再建に有効です。
ノルディックウオークには、歩行姿勢の改善、歩行速度の向上、股関節の屈曲拘縮(関節が曲がったままで固まること)の予防、気分・意欲の向上などの利点があります。
普通に1日3000歩歩ける初期~進行期の人なら、週に3日、1日20~30分が目安です。
痛みの少ない生活・リハビリを続ければ、進行期でも末期でも、年齢を問わずに、変形性股関節症は改善します。
ノルディックウオークのやり方
