解説者のプロフィール
ネコ背から腰痛、ひざ痛が起こる
よい姿勢とは、健康状態のバロメーターです。
反対にネコ背は、あなたが想像する以上に、体全体に悪影響を及ぼします。
ネコ背の悪影響として、最初に思い浮かべるのは見た目の悪さではないでしょうか。
ネコ背の人は、年齢よりも老けて見えます。
おじいさんやおばあさんに見える人の特徴は、背中が丸まっていることです。
反対に、年を取っても姿勢がよくて身のこなしが美しい人は、年齢よりも若く見えます。
ネコ背は、見た目の問題にとどまりません。
ネコ背は心身に、さまざまな悪影響を及ぼすのです。
私たちの背骨は、首からお尻まで25個の骨で構成されています。
S字状のカーブを描いていますが、これは約5㎏もある重たい頭を支え、体重を適切に分散するための工夫です。
ネコ背になるとあごが前に出るため、首から肩にかけての筋肉には、強い負荷がかかります。
このため、首から肩に広がる僧帽筋などの筋肉が緊張し、首や肩のこりや痛みが起こってきます。
また、ネコ背になる人は、運動不足のために首や背中の筋肉が衰えています。
背骨を支える筋肉が弱体化すると、上半身の重みが腰の骨(腰椎)にすべてかかるため、疲労性の腰痛がもたらされるのです。
この状態は、椎間板ヘルニアを引き起こす誘因ともなります。
そもそもネコ背になってS字状の背骨のカーブで体重がうまく分散できなければ、体全体の重心バランスがくずれます。
このくずれたバランスは、ひざで調整しようとします。
この結果、ひざが前に出て曲がります。
曲がったひざの内圧が高まり、軟骨などを圧迫すると、ひざ痛が起こるのです。
交感神経を圧迫し耳鳴り、めまいを招く
さらにネコ背は、頭痛を引き起こし、頭部へも強い悪影響を及ぼします。
ネコ背で頭痛を訴えている人の首の後ろに触れると、たいてい、筋肉がガチガチに硬くなっています。
疲労性の筋肉痛を起こし、頭痛を起こしているのです。
また、首の筋肉の緊張によって、首から脳への血流も悪くなるため、脳の血流量自体が低下し、脳血管性の頭痛が起こってくることもあります。
首の骨である頸椎のわきには、交感神経幹という交感神経を束ねる幹があります。
交感神経とは体を活発に働かせるときに働く神経で、自律神経の一つです。
もう一つの副交感神経は体を休ませるときに優位になる神経で、交感神経と副交感神経は、一日の中でバランスを取り合うように働いています。
ネコ背になると首の筋肉が緊張し、交感神経幹を圧迫します。
目や耳へ届く交感神経が過剰に緊張し、耳鳴りやめまい、眼精疲労などを招くのです。
ネコ背で頭が前に傾くと、それに抗して首の骨(頸椎)の反りが強くなります。
脳に通じる太い血管の一つである椎骨動脈が圧迫されるため、血液が滞って血栓(血の塊)が作られやすくなります。
こうして生じた血栓が、脳に流れて脳梗塞を引き起こすリスクもあるのです。
猫背がもたらす諸症状

うつの人は姿勢が悪く呼吸が浅い
ネコ背は、心肺機能や内臓にも悪影響を及ぼします。
ネコ背になれば、胸を取り巻く骨格である胸郭が圧迫され、狭くなります。
肺がじゅうぶんに伸び縮みできず、肺活量が低下します。
呼吸器疾患を引き起こすリスクも高まるのです。
しかも、大きく息を吸えなければ、血液中に含まれる酸素量が低下し、たくさんの血液を心臓が送り出さなければならなくなります。
そのため、心臓の負担となるのです。
高齢者は、肺炎から心不全を起こして死亡するケースが多いわけですが、ここにもネコ背による心肺機能の低下の影響があるのです。
また、横隔膜の動きを制限するため、内臓を圧迫します。
この結果、腸の動きが低下し、便秘なども起こってきます。
さらに、ネコ背はうつをも呼び寄せます。
うつの人は、姿勢が悪く、呼吸が浅くなっていることが多いものです。
うつだから姿勢が悪くなるのか、姿勢が悪くなるからうつになるのか、その最初の原因はわかりません。
いずれにせよ、姿勢と精神状態は密接に関連しています。
このように、ネコ背は、皆さんが考えている以上に私たちの心身にさまざまの影響をもたらします。
よい姿勢は、見た目の印象はもちろん、あなたの健康状態も左右するのです。
平泉裕
1957年、東京都生まれ。1982年、昭和大学医学部卒業。同大学医学部整形外科学教室入局。同大学医学部大学院入学。86年、同大学医学部大学院卒業。医学博士。日本整形外科学会専門医。日本リハビリテーション医学会専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。日本健康予防医学会理事長。